第49話 いつの間にか暗黒の霧がパワーアップしたようだが……

自宅ダンジョン地下2階。

草原広場のモンスターゲートに俺は手を添える。


─────────

─暗黒門:LV30

─現在、自動転送モードで運転中

─現在のステータス:転送中

─対象数:2(ハイエナ獣2)

─転送完了まで:あと60秒

─────────


「イモ。ハイエナ獣が2匹……あと60秒で来るぞ」


時間きっかりに飛び出すハイエナ獣。


バリバリバリー


イモの電撃により全滅した。


「おー。おにいちゃん凄い。予言者だー」


せっかくの草原広場。ニャンちゃんたちが住むには良い場所なのだが、モンスターゲートを今すぐどうこうするのは無理である。


いったいどうしたものか……ひとまず次のモンスターに備えるべくゲートに手を触れる。


─────────

─暗黒門:LV30

─現在、自動転送モードで運転中

─現在のステータス:転送中

─対象数:2(ウシ獣2)

─転送完了まで:あと1800秒

─────────


次の転送まで後30分。しかもウシ獣が2頭だけか……


100パーセント攻略読本によれば、モンスターゲートによってモンスターの現れる数。現れる間隔はそれぞれ異なるという。


頻繁にモンスターの現れるゲート。間隔は長いが一度に多くのモンスターが現れるゲートなど。ゲートが暴走でもしない限り、その傾向は決まったものとなる。


そのことを踏まえれば草原広場のゲート。あまりモンスターの出ないゲート。いわゆる外れゲートかもしれないが……


「あと30分はこのゲートからモンスターは出ないみたいだ。他の場所へ行こうか」


「おー。でも、おにいちゃん、なんで分かるの?」


「ふっ。それはお兄ちゃんだからさ」


「やったー。さすがはおにいちゃんだー」


そんなこんなで草原広場を離れた俺たちは地下2階をウロウロ。モンスターを探して歩き回る。


「発動。暗黒の霧」


360度。俺たちの周囲一面、半径100メートルほどに暗黒の霧を敷き詰めたまま移動する。


前衛を務めるはずのニャンちゃん3匹を自宅に返した今、イモと俺の2人きり。万が一モンスターに不意を打たれては危険となりかねないが、俺は暗黒の霧が触れた対象を感知することができる。


暗闇にサングラスを通して見るような曖昧な感覚であるが、有ると無いとでは大違い。死角からの不意打ちを得意とするハイエナ獣だろうが、暗黒の霧がある限り俺に不意打ちはない。


そのまましばらく地下2階を進んだところで俺たちの後方。100メートルに感じる反応はハイエナ獣が6匹。隙を見て背後から襲おうと近づいてきている。


距離80メートル地点でデバフ発動:ハイエナ獣は睡眠。


「イモ。後方80メートルにハイエナ獣が6だ。連鎖電撃を1発頼む」


「はーい」


バリバリバリー


ハイエナ獣6匹とも死亡。魔石6個のドロップ。


今度は前方。通路を曲がった先5メートルにイノシシ獣が5匹。


「イモ。この先。曲がってすぐにイノシシ獣が5だ。電撃の用意をしておいてくれ」


「おっけーだよ。でも、おにいちゃんよく分かるねー」


確かにこれまでの曖昧な感覚ではない。

俺の周囲100メートル。暗黒の霧が触れる対象を、まるで晴れ渡る青空の下で見るように理解できる。


いつの間にか暗黒の霧がパワーアップしたようだが……なぜだ? LVが上がった影響だろうか?


なんにせよ相手を探知するには最適なこの能力。まるでレーダーのように霧が触れた相手を探知するこの能力……


そうか! レーダーではない。これはソナー。

超音波の反響で対象を測定するというアクティブソナー。


黄金コウモリ獣の肉を食したことで得たEXスキルが超音波。その超音波と暗黒の霧が組み合わさったことで、暗黒の霧がソナー機能を持つよう進化したのだ。


・スキル:暗黒の霧 → 暗黒の霧+


「あれから25分。そろそろ時間か……イモ、草原広場へ戻ろう」


時間どおりモンスターゲートからウシ獣2頭が飛び出し。


バリバリバリー


イモの電撃で死亡した。


─────────

─暗黒門:LV30

─現在、自動転送モードで運転中

─現在のステータス:転送中

─対象数:2(イノシシ獣1)

─転送完了まで:あと1800秒

─────────


同じ調子で地下2階をウロウロ。時間になれば草原広場へ戻る行為を繰り返した結果。草原広場のゲートに関して以下のことが判明した。


モンスターの出現間隔は、おおよそ30分~2時間。同時に出現するモンスター数は2~4匹。出現するモンスターは、ウシ獣、イノシシ獣、ハイエナ獣、バッタ獣、トンボ獣、ヘビ獣である。


……なるほど。怪我こそしたものの、ニャンちゃんたちが草原で1晩を過ごせたわけである。


草原広場のモンスターゲート。モンスターの出現間隔は長く同時に現れる数も少ない。


「ニャンちゃん3匹では厳しくとも、もう少し戦力があれば何とかなりそうに思えるな」


「じゃあイモが! イモが一緒に寝泊りするー!」


確かにイモが加わるならば文句なしの戦力である……が、兄として妹を危険にさらすなど認められるはずがない。


「よってお泊りは許可できません。帰るぞ」


睡眠不足は美容の敵。イモの玉のようなお肌が荒れては、俺はショックで死んでしまう。


「ぶーぶー。それじゃニャン太郎達の寝る場所がないよー」


「今日のところはイモの部屋に隠して寝かせてやろう。1日くらいなら母さんにもバレないだろう」


「そっかー。うん。もうずっとイモの部屋に泊めることにする」


それは駄目である。


別に母が猫嫌いというわけではないが、単純に我が家の家計で3匹のエサ代を捻出するのは難しい。


現状、ニャンちゃんたちのエサはダンジョンで賄えるため家計への影響はないが、ダンジョン自体が秘密であるため母への説明は無理となる。


「まあ。イモよ。おにいちゃんに考えがある。安心しろ」


「ほんと!? おにいちゃんは天才だから、もう安心だー」


その後、地下2階と地下1階。魔力の続く限り暗黒の霧を撒いて俺たちは帰宅する。


「にゃん!」「にゃー!」「なー!」


イモの部屋に帰ったところで3匹のニャンちゃんが出迎える。出迎えなくとも良いから静かにしていて欲しい。母にバレる。


「ニャン太郎たろう。ニャン。ニャン。元気そうで良かったー」


イモはまとわりつくニャンちゃんを撫でまくる。D級ポーションが効いたのか3匹の傷はすっかり癒えていた。


「そっかー。このためにD級ポーションを買ったんだ。凄すぎる……やっぱりおにいちゃんは天才だー! 結婚だー!」


やれやれ……イモは大げさで困るな。震災に備えた常備薬は今時どのご家庭でも常識だというのに。


「それよりほら。ニャンちゃんたちはこれを食べると良い」


戻るまでの途中、地下1階。黄金ネズミ獣を退治して手に入れた黄金ネズミ肉をニャンちゃんたちに差し出した。


「にゃん!」「にゃー!」「なー!」


大喜びでかじり付く3匹のニャンちゃん。


黄金ネズミ肉から得られるEXスキルは鋭利歯。俺やイモが取得しても意味は薄いが、かみつきを主攻撃とするニャンちゃんたちなら話は別である。


・ニャンちゃん3匹の歯が鋭くなった。



深夜。眠りに着いたイモの部屋。

ベッドで眠るのはイモ+ニャンちゃん3匹。

床に敷いた布団で1人眠る弾正。


ムクリ。ベッドで眠る人影が身を起こす。


そろり。ベッドを降りると、華奢な身体のどこにそれだけの膂力があるのか。布団で眠る兄の身体をヒョイと持ち上げた。


「ニャン太郎。ちょっと退いてね」


「んにゃ?」


空いたベッドのスペースへポイと投げ出し毛布をかける。その隣に滑り込むと、兄の腕を抱きしめ眠りについた。


「にゃん」


行き場を失ったニャン太郎。仕方ないとばかり兄の身体の上に乗り丸くなったのであった。

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