第48話 イモ。ニャンちゃんたちの所まで案内してくれるか?

今日はGW。祝日の月曜日。


「ごめんねー。せっかくGWなのに母さん今日も仕事で」


「いやいや。俺たちは良いけど、母さんはあまり無理しないように」


「おにいちゃんと遊ぶからだいじょうぶだよー。いってらっしゃーい」


日祝も仕事というのだから、デパート勤務は大変そうである。そんな母さんが楽できるよう、今日もいっちょ稼ぐとするか。


昨日が品川ダンジョンの日のため、今日は自宅ダンジョンの日。


「イモ。ニャンちゃんたちの所まで案内してくれるか?」


「おっけー。行くよー」


昨日から自宅ダンジョン地下2階に住むというニャンちゃん3匹。


パーティを組んでいないニャンちゃんたちが暗黒の霧に巻き込まれては危険であるため、今はダンジョンに暗黒の霧は満たしていない。


そのため地下1階。ゲートを湧き出したモンスターがそこかしこを徘徊しているが──


バリバリバリー


電撃バリバリ。先頭になってズンズン進むイモ。現れるモンスターを蹴散らし一直線に地下2階である。


「こっちだよー」


以前、俺が地下2階に来た時は直進した通路をイモは脇道へ入り突き進む。


そのまましばらく進むうちに、足元はゴツゴツした岩場から草の生えた柔らかい地面へ変わり、さらには水の流れるせせらぎが聞こえてくる。


「おお。凄いな」


ついには一面に芝生の生える草原広場へと辿り着いた。

天井は高く眩しいほどに白く輝き、広場の片隅にはどこから来てどこへ流れ行くのか小さな川が見える。


まるで屋外と見まごうばかりのその景色。確かにこれなら野良猫が住むのに不足はないが……


「にゃん!」


イモの姿を見た1匹の猫が芝生をゴロゴロ転がり寄るが、残る2匹の猫は周囲を警戒するよう芝生に低く構えたまま。


「あー! ニャン太郎、その怪我どうしたの!?」


ニャン太郎だけではない。ニャンちゃん3匹、それぞれの身体に大小さまざまな傷を負っていた。


理由は明白。草原広場の中央に見えるモンスターゲート。ゲートから生み出されるウシ獣やイノシシ獣がニャンちゃんたちと睨み合う。


「むー。昨日イモが全部倒したのにー!」


いくらイモが倒そうが、草原広場にモンスターゲートある限り、モンスターが途絶えることはない。


そしてこの草原広場。確かに野良ネコが住むに適した環境かもしれないが、それはモンスターにとっても同じこと。草原広場の外からもモンスターが集まり押し寄せる。


「ニャンちゃんたちがここで暮らすのは無理だな……」


ニャンちゃんたちの強さならウシ獣やイノシシ獣に後れをとることはないが……それは元気な間の話。24時間、休む暇なく襲われては眠る暇もなく無傷で済むはずがない。


「暮らせるもん! イモが一緒にここで寝泊りしてモンスターを退治するもん!」


言うが早いか、イモはモンスターを目指して走って行ってしまった。


やれやれ……無断外泊は認められないというのに。


とりあえず草原に集まるモンスターはイモに任せて、俺は傷だらけでうずくまるニャンちゃん3匹の身体へと、買ったばかりのD級ポーションを振りかける。


「ニャンちゃんたち。今日はイモの部屋に戻って休め。家はペット禁止だが今日だけは母さんに黙っていてやる」


D級ポーションで裂傷は癒えるだろうが、不眠不休の疲れまでは癒せない。


「にゃん……」「にゃー……」「なー……」


野良ネコとはいえ一応は礼儀を知っているのか。3匹は申し訳なさそうに頭を下げると草原広場を後にした。


これは多分だが、ニャンちゃんたちへ草原広場で暮らすよう言ったのはイモだな。


猫は気まぐれではあるが決して恩知らずではない。特にリーダー格であるニャン太郎はイモに懐いている。そのためニャン太郎はイモから言われた草原を離れず、イモが来るまで逃げ帰ることなく留まっていたというわけか……


バリバリバリー


広場の中では、すでにイモの電撃が渦巻きモンスターは全滅していた。


だからといって、ニャンちゃんたちがここで暮らすのは難しい。


モンスターゲートある限り、モンスターは無限に湧き続ける。


暗黒の霧で満たそうにも地下2階のモンスターはタフである。毒が回り倒れるまでの間、草原広場を暴れ回りニャンちゃんたちの安眠を妨害する位はするだろう。


確かにモンスターゲートさえなければ良い場所なのだが……


眩しく輝く天井は太陽の日光にも引けは取らない。足元の芝生は青々と生えそろい、小川を流れる水は冷たく澄みわたる。


本当にここがダンジョンなのかと疑うほどに不思議な空間。その中央、モンスターゲートの傍でモンスターが出るのを今か今かと待つイモの元へと俺は向かう。


「イモ。ちょっと離れていてくれ」


「ん? おにいちゃん。どうするの?」


右手を伸ばした俺は、そのままモンスターゲートに触れた。


「あー! 絶対に触れたらダメだって! おにいちゃん自分で言ったのにー!」


─────────

─暗黒門:LV30

─現在、自動転送モードで運転中

─現在のステータス:転送中

─対象数:2(ハイエナ獣2)

─転送完了まで:あと200秒

─────────


やはり昨日、品川ダンジョンでの感覚は間違いではなかった。


─暗黒門の操作には暗黒熟練が不足しています─


エラー音とともに俺の左手がゲートの渦から弾かれる。


「イモも。イモもさわってみるー」


ウキウキで手を伸ばすイモの腕をつかんで制止する。


「ダメだ。これは俺のジョブが関係しているから無事なだけだ」


LV20となった際に獲得したスキル。暗黒熟練。


暗黒門のLVが30ということは、おそらく俺のLVが30あれば操作可能となるのだろうが……今の俺のLVは21。操作可能となるにはまだ時間がかかるか。

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