第45話 アメフト親父の持つジョブ。戦闘系ではないと聞いていたが……
アメフト親父の持つジョブ。戦闘系ではないと聞いていたが……まさか諜報系ジョブか?!
一見脳筋に見えるアメフト親父がオリジンアイランド大使であり品川ダンジョンの視察に訪れたというのも、諜報系ジョブを持つのが理由であれば納得いく。
だとしても今の俺はジョブを擬態する状態。アメフト親父は俺のジョブに大きな輝きを見たと言ったが、珍しくもない普通の傭兵(R)である俺のいったい何処に輝きが……いや……俺が最初にアメフト親父に会ったのは擬態を習得するその前か?
「オウ。心配は無用でしょう。ミーにボーイのジョブが何かは分からないでしょう。ミーが見るのはジョブの輝き。ボーイのジョブは華にも匹敵するグレートな輝きでしょう」
輝きとは潜在能力。RやSR、SSRといった相手のジョブのグレードを見るということか? 見える範囲が限定される分、擬態をも貫くと?
「多分だけどアンタ……前衛ジョブじゃないわね」
前を歩くハンナさんが振り返る。
「いくらLVが低くてもURの前衛ジョブならもっと戦えるもの」
確かにイモは最初からとんでもない火力を持っていた。
「それに。ゴブリン軍団を前にアンタ何かやろうとしていたわよね? まだ相手と距離のある状態……アンタのジョブは後衛の魔法系。それもデバフ系ね」
「イエース。ミーが戦ったゴブリン獣に不自然に動きを止める者や弱い者がいました。あれがボーイの魔法でしょう」
「……ええまあ……その。いちおうSSRの暗黒魔導士なもので」
アメフト親父の言葉に俺は自分のジョブを申告する。
俺のジョブ。暗黒魔導士はSSRと希少であるが、どうしても隠したい情報ではない。俺が真に隠したい情報は別にあるのだから、ここは下手に隠さない方が賢明というもの。
異国の外国人。今後、出会うこともないだろうから話したとしても影響はない。
「ホワット? ノー。たぶん間違いでしょう」
だが、そんな俺の申告にアメフト親父は首を横に振る。
「華のジョブはURと呼ばれるグレード。それに匹敵するボーイもURは間違いないでしょう」
そうは言われても俺のジョブは暗黒魔導士(SSR)。ジョブを獲得した俺自身が言うのだから間違いはない。
「イエース。日本人はシャイな人が多いと聞くでしょう。ボーイが内緒にしたい気持ち。アンダースタンしました。ミーもお口チャックするでしょう」
そう言ってアメフト親父は自分の口に手を当て塞いでみせる。
うむむ……何とか誤解を解きたい気持ちはあるが、オリジンアイランドの母国語は英語。言い訳するにも英語でなければ細かなニュアンスは伝わらないとなれば俺の英語力。無理である。
だが、これでアメフト親父が俺に興味を抱く理由は判明した。
もっとも俺に関してはアメフト親父の勘違い。俺のジョブはSSRなのだから無駄な手間を取らせてしまったわけだが……
その後、特に危なげなく地下1階の買取広間まで帰り着いた。
「マグワイアさん。ドロップ品の分配はどうしましょうか?」
マグワイアとはアメフト親父の名前で、ケント・マグワイアがそのフルネーム。食堂で探索者カードを借りた際、カードに印字されていた名前である。さすがに相手が一国の大使であると知った以上、アメフト親父と気軽に呼ぶことはできない。
「オウ! 魔石は全部ボーイにプレゼントでしょう。そしてミーのことは気軽にアメフト親父でノープロブレムです」
などという言葉を真に受けて人前でアメフト親父と呼ぼうものなら国際問題。大変なことになるのは間違いなく、賢明なる俺は心の中でアメフト親父と呼ぶに止める。
「分かりました。ありがとうございます」
アメフト親父に礼を述べた俺は買い取りカウンターへ移動する。
「すみません。買い取りをお願いします」
今日の売却は魔石だけではない。ゴブリン獣から拾い集めた武器も一緒である。
槍が1本。短剣が2本。剣が2本。杖が1本。他にも多くの武器が落ちたが、持ち歩くにも限界があるため以上となる。
「アンタ。前衛やりたいなら槍か剣は自分で使えば?」
そうしたいのは山々だが……例え探索者だろうが、街中で刀剣類を持ち歩こうものなら銃刀法違反。ダンジョンから持ち出すことは禁止されている。
そのためダンジョンを出る際、刀剣類はダンジョン付随の月極ロッカーに保管。他のダンジョンで使う場合はダンジョン配送サービスを利用することとなっている。
探索者が刀剣類を持ち出し街中をウロウロしては危険極まりなく、国としては当然の措置となるのだが、月極ロッカーは賃料がかかる上、俺が武器を必要とするのは品川ダンジョンだけではない。
まさか内緒である自宅ダンジョンまで武器の配送を頼めるはずもなく、品川ダンジョンと自宅ダンジョン。どちらも同じ武器を使い慣れた方が良いだろうから、俺は引き続き包丁を使うことにする。
などと正直にも言えないため──
「俺は包丁マニアなもので……」
「オー! やっぱりボーイはニンジャボーイでしょう」
だから暗黒魔導士と答えたろうに……
「お客さん。地下3階へ行ってきたんですか? ゴブリン獣の武器はどれもこれも錆びていまして……安くなりますけど良いでしょうか?」
錆びた武器が1本1000円の6本で6000円。魔石が200個で10万円。占めて10万6000円の売り上げである。
俺1人がこれだけ稼いだのでは不思議に思われるだろうが、今日の俺はパーティ。地下3階で3人ならこの程度は普通の稼ぎである。
「パーティでの探索ですね。売却金の分割処理はどうされますか?」
「売却金は俺の総取り。ランキングポイントは分割でお願いします」
ランキンングポイントは売却金の総額で決定される。要はモンスターを多く倒して、多くの魔石を売却すればランキングが上昇する仕組み。
通常はパーティで均等に分割するものだが、あえて1人にランキングポイントを集中。広告塔として活用するなど、ある程度は柔軟な運用が可能となっている。
最近露出の目立つダンジョンアイドルなどがその典型だが……俺は他人の功績を奪ってまで目立つつもりはない上、そもそもが今はまだ目立つ時期ではない。
ダンジョン協会は世界的組織にしてダンジョンランキングは世界ランキング。海外のダンジョンも同じシステムなのだから、アメフト親父たちと分割するに何の問題もない。
売却額10万6000円の3分の1。3万5333ポイントが俺のランキングポイントに加算される。
6515万6631位 → 3527万5312位:城 弾正
結果、俺のランキングは大幅に上昇した。
……というか、上がりすぎである。
ヤバくないか? 今はまだ目立つ時期ではない。と言ったそばから……他の探索者は何をやっているのか?
「あの受付さん。俺のランキング随分と上がりましたが、こんな簡単に上がるものなんですかね?」
もしも目立つペースであるなら、少しペースダウンが必要となるが……
「探索者登録だけされてそのままの方も多いですからね。本格的に活動されているのは全世界で500万人程度と言われています。毎日コツコツやっていましたら、1000万位くらいまではすぐに上がると思いますよ」
探索者登録したが、ジョブがNと分かった時点で活動をやめる者が多いという。ジョブがNとなる確率は、68.99%なのだから、ランキング登録総数8000万とはいえ、そのほとんどが張りぼて。俺の3527万5312位というのも大したことはないなら安心である。
だとしても全世界で実働する探索者が500万人は少ない。
世界人口を77億とするなら獲得率1%のSRギフトを獲得できる者は7700万。0.01%のSSRギフトなら77万。もちろん全員が探索者になるわけでもなく年齢的に無理な人もいるとはいえ……
「マグワイア大使。今お戻りですか」
「あ! チーフ。お疲れ様です」
換金を終えた俺たちの前。受付の奥から姿を現した女性が、アメフト親父に挨拶する。チーフと呼ばれるということは彼女が受付を取りまとめるチーフ。
「政府与党から便宜を図るよう聞いていますが、あまり身勝手な行動は控えていただきたいものです。ただでさえ私どもは探索者の相手で手一杯。それを銃を持ち込みたいなどと我儘を言われてはたまったものでは……」
「オウ。ソーリーでーす」
「それで大使。そちらの少年は? 見たところ我が国の人間のようですが?」
「オウ。ダンジョンで危ない所を助けてもらったミーの親友でしょう。ジャパンの探索者みんなジェントルでサンキューです」
「そうですか」
アメフト親父に応えながらも受付の端末を操作する受付チーフ。
「城 弾正。17歳。公立究明高等学校2年。生物学的男性。B型。身長168センチ体重55キロ。携帯電話番号○○ー〇〇〇〇。家族は母と妹の3人。志望動機は、家計を助けるべくコンビニアルバイトから探索者を目指したい。探索者ランキング3527万5312位……」
いや……確かに俺は探索者登録に際して個人情報を記入している。ダンジョン協会に俺の個人情報があるのは分かるが、わざわざ俺の前で読み上げる意味は何なのか?
「指紋データから警察データベース照会。犯罪履歴はないようですね」
テロ活動が活発化する昨今、一国の大使であるアメフト親父と行動を共にする俺の素性。全て把握しているからおかしな行動はするなと。そう釘を差したいのだろうか?
「城 弾正。
個人情報の観点からジョブの記入は任意となっている。いつ何処から情報が洩れるか分からない情報社会。任意であるなら、わざわざ記入するはずがない。
「お願いしているはずですが?」
だが、俺の前に用紙とペンを差し出す受付チーフ。お願いといいながらもその目は冷酷。まるで議員が市民を見るかのようなその目つき。
確かに俺は日本ダンジョン協会の探索者。受付チーフの指示に従う立場である。だが、お世辞にしろ何にしろオリジンアイランド大使が親友と言った人間。それを大使の目の前で犯罪者のように扱うというのは外交的にどうなのか? 仮に俺の身元を疑うにしても後で、大使のいない場所で行うのが常識ある対応。
もしかすると受付チーフ。俺に対してではない。アメフト親父に……いや、オリジンアイランドという国に対して、何か思うところがあるのだろうか?
「ノウ!
そんな俺の前。アメフト親父はペンを受け取ると受付チーフへ手渡した。
さすがに他国の大使から注意を受けては逆らえない。素直にペンを受け取る受付チーフだが、その目が一瞬、俺を見つめ怪しく光って見えた。
「そうですか。ま、ご自分のジョブが傭兵(R)なんて低ランクジョブでは申告したくないのも仕方ありません。分かりました」
……まさか今の目の輝きは鑑定か? 俺のジョブを鑑定したのか?
探索者の情報を一手に取り扱うのが受付であり、そのチーフとなれば諜報系ジョブであっても不思議はない。
だとしてもその鑑定結果。俺の擬態に阻まれた誤情報。
「傭兵(R)ジョブの城 弾正。ご自分のランキングが上がったことを自慢していたようですが、たかが3527万5312位。調子に乗らない方がよろしいと忠告します」
いや。俺は自慢したのではなくてだな。こんなにランキングが上がって大丈夫なのかと心配しただけなのだが……まあ、自慢と取られても仕方ないのか……
「良いですか? 世界ダンジョン協会設立から2年。ダンジョン設備の整っていない国も多く、何より偉大なるエンパイア連邦共和国は世界ダンジョン協会に未加盟。エンパイア連邦共和国のいない世界ダンジョンランキングなんて張り子の虎でしかありません」
日本の北。旧ソ連を中心に東側諸国が集まり出来たのが、エンパイア連邦共和国。通称エ連。人口1位にしてGDP2位の超大国。
エ連は国民全員にダンジョンへ入ることを強制しているとニュースで聞いたが……そうか。俺の探索者ランキングが簡単に上がるのも、実働する探索者が500万と少ないのも、エ連の人間が誰1人としてダンジョンランキングに登録していないのが理由というわけか。
「それとマグワイア大使。今後もダンジョン施設を見学されるのに現地の護衛を雇うのでしたら、傭兵(R)などという低ランクジョブではなく、もう少しまともなジョブを雇う方がよろしいかと。もっとも今の貴国の国家予算では難しいかもしれませんが」
形ばかり頭を下げる受付チーフに見送られ、俺たちは品川ダンジョンを後にした。
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