第37話 もしかしたらSSRのジョブを獲得する者が出るかもしれない。
クラスメイト全員が受付を済ませて、地下1階へのホールへ降りる。
「おお? なんか頭が痛いやん?」
「うん。きーんとするね」
ゾロゾロ6人のクラスメイトを引き連れ、俺はモンスター養殖場までやって来た。
「それで、ここがモンスター養殖場です」
「お? 団体さんの到着か。ゆっくり戦っていってくれよ」
モンスター養殖場の管理人が俺たちを部屋に迎え入れる。
室内、檻の中ではスライム獣がぴょこぴょこ飛び跳ね、新人を歓迎していた。
「キモッ……私あれ無理」
「うーん。キモ可愛い感じ?」
「えーと……あれは……そう! スライム獣ですわ」
ラッキーにも一番倒しやすいモンスター。
「それでここから檻の中にいるモンスターをチクチク攻撃して、ジョブを獲得するのがここの目的なわけで……やってみる?」
もしかすればSSRのジョブを獲得する者が現れるかもしれない。全員がジョブを獲得するまで付き合ってみるのが面白そうだ。
「おっしゃ。やるでー」
「おうさあ」
「でも……どうやって攻撃するの?」
クラスメイトたちは武器を持っていないようだが……普通は攻略読本なりネットなりで事前に予習すると思うのだが……しないのだろうか?
「ふふん。私はちゃんと用意してましてよ」
良かった。仮にも同じ試験を受けて入学したクラスメイト。俺の頭脳も同レベルと疑われるところであった。
そんな
「えーと……養殖場の管理人に言えば、武器のレンタルが出来るから」
「えー。他人の触った武器とかちょー嫌なんですけどー?」
「しゃーねーだろう。武器ねーと戦えんべ」
「うん。どれが良いんだろう?」
「おーし。お前ら新人に俺がレクチャーしてやるぜ」
養殖場の管理人がはりきって説明しているが、結論は分かっている。机に並べられた武器類から俺はクロスボウを取り手渡した。
「はい。これが一番のお勧め武器だね」
「これなに?」
「おう。お前目ざといな……って経験者か。そう。そのクロスボウが一番のオススメだぜ」
おっさんが、クロスボウを手に取り実演する。
「へー。これなら近づかなくても良いんだね」
「それっ。それにしよ。キモいモンスターに触れるよりマシじゃん?」
「お、お待ちなさい。クロスボウにはボルトが必要でしてよ? レンタル費用がお高いのではなくて?」
確かにボルトは消耗品。他の武器に比べれば値は張る。
「それじゃ、これかな?」
レンタル武器の中から今度は槍を取り手渡した。
長いことは良いこと。リーチは力。俺も最初はバットに包丁を括り付けた手製の槍を使用したものだ。
「心配すんな。お前ら学生だろう? 今年から学割が効くようになったからな。仮にもここは公営。お前らガキどもからボラねえよ」
結局、レンタル費用を節約するため手槍を3本。6人で使い回すことになった。
チクチク檻の隙間から槍で突く。
「キモッ。なんか破裂したんですけどー?」
「よえーなあ。こいつら」
「これで本当にジョブっての? 超能力手にはいるんけ?」
3本の手槍を使い回しながら全員がスライム獣を退治していく。
「んっ! 何か、こう身体が熱くなってきた」
どうやら
「マジー? やったじゃん」
「ええなー。で何のジョブなんや?」
「ちょっと男子。ぶしつけに聞くものじゃありませんわよ」
秘密にされてはクラスメイトのジョブを知りたいがために着いて来た俺の当てが外れるわけだが……確かにうかつに他人に教えて良い情報ではない。
ジョブを知るだけでその人のダンジョンにおける適性。得意な点も弱点も、その全てが判明する。
しかし……先ほどからの発言を鑑みるに、どうやら加志摩さんはダンジョンの下調べをしている。果物ナイフとはいえ一応は武器を準備していただけのことはあるが……
「ええと。私のジョブは強化魔導士みたい」
「ちょ、ちょっと!? 只野さん?」
そんな加志摩さんの忠告も虚しく、只野さんはあっさり報告していた。
「ほー。やったやん」
「で、それって強いのけ?」
「うーん……さあ?」
……強い。強化魔導士は総合評価8点の
その役割は味方にバフをかけてパーティを強化するという、デバフを得意とする俺の暗黒魔導士とは対極のジョブである。
「うお。おいらもゲットしたぞ。市民だって」
「ぶはー。なんか普通っぽい」
「やな。たぶん弱いやろ」
男子のジョブはどうでも良い。
しかも
「なんかーあたし剣士とかー? なったんですけどぉー?」
「やるやん。なんか強そうじゃね?」
「だよね。これ当たりっしょ?」
大当たりとまではいかないが、悪くはない。剣の扱いに長けた近接戦闘を得意とするジョブはである。
「おれ、俺はなんか学徒みたいやけど?」
「学生ってことけ? 今と変わらんやん」
N。4点。野郎だしそんなところだろう。
統計によれば、ジョブ習得者の7割近くはNとなる。ここまで4人の内の1人がSRで1人がRというのは、かなりの強運といえる。
「お? ワイは聖騎士って出たけど……」
「マジで? なんかめっちゃ強そうじゃね?」
「うん。なんか格好良いね」
「ええっ? う、嘘ですわよね……」
……マジで!?
ただの学生にしかすぎないこの野郎が……名前なんだっけ?
「
そうだ。助田。
スケベそうな顔をしておきながら
統計によればSSRを獲得できる確率0.01パーセント。
おおよそ1万人に1人獲得できれば良いといわれる確率で、俺の獲得した暗黒魔導士もSSRである。
そのSSRが同じクラスメイトから現れるとは……
しかし、よくよく考えれば町内10万人なら10人。日本人口1億人であれば1万人のSSR獲得者が存在する。
なんだ。それならプロ野球選手の方がよほど貴重。それほど騒ぐようなことではないのかもしれない。
「あれ? そういえば加志摩ちゃんはどうだったの?」
「おう。加志摩さん頭いいから、ええのなったんちゃうけ?」
「せやせや。助田ですら聖騎士やからな」
確かに。このメンバーで俺が一番期待するのは加志摩さんなのだが……どうなったのだろうか?
「奴隷……いえ。えーと……学徒。そう私も学徒ですわ!」
「なんや。普通やん」
「聖騎士の後やから期待したのになあ」
「もう。学徒って良いじゃない」
「でも、やっぱあたしの剣士が一番っしょ?」
わいわいがやがや。
何はともあれ、これで全員がジョブを獲得したわけだ。
SSRジョブが現れたなら品川ダンジョン探索。一緒にパーティを組んで仲良くしたいものだと考えていたが……残念ながら俺は男子に興味はない。パーティはなくなった。
「それじゃ、俺はそろそろ探索に戻るから」
「おう。城サンキュウな」
「そういえば、城のジョブって何や?」
「城っち気になる。教えてぇ?」
本来はあまり他人にジョブは教えない方が良いのだが……すでに他のみんなのジョブを聞いてしまった以上、俺だけ無視するにも罰が悪い。
「えーと。俺は傭兵だ」
嘘ではない。擬態を得た結果であるからして間違いはなく俺は悪くない。
「なんや強そうやな」
「強いんけ? それ」
「
「Rジョブって何や?」
「レア? 珍しいってことけ?」
……もしかして余計なことを言っただろうか? だとしても今さら誤魔化すのも不自然というもの。
「ああ、まあそう。ジョブの希少性で上から3番目だ」
「マジか。俺らのジョブは分かるけ?」
「あたし。あたしの剣士はどーなの?!」
クラスメイト同士の人間関係に関わるため、あまり答えたくはないが……どうせすぐに分かることか。
「自分のジョブを頭で思い浮かべれば希少性も一緒に分かる。剣士はR。強化魔導士がSRで聖騎士はSSR。あとはNかな」
「マジー? あたしの剣士ってたいしたことないじゃん……」
「それより助田! お前のSSRって最高レアってことやん!」
「助田くん。凄い!」
「ワイが最高レア……やれやれ。このぐらいは普通やと思うのやがなあ。あー喉が渇いたで」
「うっす。助田さん。Nで市民の俺がジュース買って来るっす」
チラリ。攻略読本のジョブ紹介ページを眺め見る。
■聖騎士
希少評価:SSR(エスエスレア)
個人評価:9.8/10点
集団評価:9.8/10点
総合評価:10/10点
本人の資質、努力、人間性に関係なく、降ってわいたジョブによって探索者の階級は5つに分けられる。
かつてあった階級社会のようにも思えるこの仕組み。今後、彼らの人間関係に悪影響が及ばないか、他人事ながら心配である。
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