第36話 さすがはゴールデンウイークといったところか。

「次のニュースです。来月いよいよエンパイア自動車から販売開始となる魔力自動車。その発表会が昨日、お台場で行われました。大勢の報道機関を招いての大々的なプロモーションから、その力の入れ具合が伝わってまいります」


「いやはや。わいも発表会に招かれたんやけどえらい盛り上がりでしたわ。独裁民主党の先生方も大勢おりましてな、こらもう会場だけで次期内閣のメンバーが全員揃うんちゃうかってな。最後にはえらいべっぴんさんがホテルまで案内してくれて、もう大満足でしたわ」


「本日のコメンテーターです。お笑い芸人である大和田さん。ありがとうございます。エンパイア自動車はエンパイア連邦共和国の自動車メーカー。魔力自動車の開発により今や泥田自動車を抜いて世界一の自動車メーカーとなりました。会場には独裁民主党をはじめとした野党オールスターが勢ぞろい。多くの祝福のコメントが寄せられました」


「うーん。魔力自動車ですか。独裁民主党の強烈な後押しで日本での解禁が決まりましたが、魔力発電も含めてですね、僕はまだ魔力インフラの本格導入は早いと思うんですよね」


「本日のコメンテーターです。国内大学で教授をされている真中さん。それはまたどうしてでしょうか?」


「魔力発電も魔力自動車もね。ようは排気ガスとして魔素を排出するわけじゃないですか? 地球温暖化の解消にはなるかもしれませんが、魔素によるですね、大気汚染が心配なんですよね」


「おまえ教授か何か知らんが勉強せんやっちゃなー。昨日の発表でエンパイア自動車の広報も言うとったやろ? 人体への悪影響は一切ないて」


「はい。魔素が人体に悪影響のないことは世界ダンジョン協会からも発表されています。くわえてエンパイア連邦共和国では、すでに昨年から200万台の販売実績もあると聞きますので何の心配もいりません」


「いえね。人体に悪影響はなくてもですね。地球にとってはどうなのかって話なんですよ。地球環境が変化しちゃうんじゃないかって。例えばダンジョンと同じ環境になってね、ダンジョンからモンスターが出てくるんじゃないかって研究がありましてですね」


「おまえなあ。ダンジョンが出来てもう3年やで? 今までにモンスターが外へ出て来たことあったんか? ないやろ。なら何の問題もないやん」


「いえね。今まではそうですけどね。近年のエンパイア連邦共和国による急速な魔力開発によってですね。すでに大気の5パーセントが……」


「ぐだぐだうっさいやっちゃなー。魔力インフラを進めるんはダンジョン協会の方針やし、米国も一緒やないか。なんや文句あるならダンジョン協会やら米国やらに言えばええやないか」


「はい。世界ダンジョン協会の本部は米国。理事国は全て西側諸国が占めるという不平等極まりない組織。苦情を言うならダンジョン協会や米国にぶつけるのが相応しいといえるでしょう」


「いえね。ですからダンジョン協会や米国はですね。まずは世界各地にあるダンジョンの管理と探索者の育成を進めましてですね。十分な安全措置を講じた上で徐々に魔力インフラにシフトしていこうというですね。ですがエンパイア連邦共和国はそれら全てすっ飛ばして強引にですね……」


「お前、さっきからなんやねん。ほんなら何や? 魔力発電所がぎょうさん建って、ぎょうさんの魔力自動車が走り回ってるエンパイア連邦共和国は、すでにモンスターだらけの国やって言いたいんか?」


「いえね。いや、僕はですね、決してそのような意味で……」


「視聴者のみなさまには真中教授のお見苦しい発言があり誠に申し訳ございませんでした。当番組としましてはそのような大気汚染より、今は政府与党の汚染を追求。政権交代を煽っていきたいと思います。それでは次のニュースです。先日より裏金問題の報じられる政権与党ですが、本日あらたな疑惑が……」


政府与党の汚染がひどいらしい。




ゴールデンウイーク2日目。日曜日。


「それでは俺は品川ダンジョンへ行って来る。イモは絶対に無理するなよ? マジで無理しちゃ駄目だからな? 出来れば今日は部屋でゆっくりな?」


「はーい。でも、せっかくの日曜日なのになー。おにいちゃんと一緒に自宅ダンジョンへ行きたいよ……」


うう。すまないが我が家の家計のため、お兄ちゃんは魔石を売って外貨を稼がねばならない。


まだゴールデンウイークは始まったばかり。明日は一緒に自宅ダンジョンを探索するので今日は我慢してほしい。


トントン


イモの部屋の窓が叩かれる。ニャン太郎たちが餌を求めて部屋を訪れたのだろう。


「はーい。どうぞー。あれ?」


「にゃー」「にゃん」「にゃーん」


イモが開けた窓から3匹の猫が室内に入り込む。3匹?


「わ。なんかニャンちゃん増えてるー!」


「にゃーん」


「この子もメスだー。ニャン太郎モテモテだよー」


オス1匹にメス2匹。ニャン太郎ハーレムというわけか……

ニャン太郎。口にくわえて持ち帰ったネズミ肉で、同じ野良境遇のメス猫を誘惑したのだろう。


まあ、イモを護衛してくれる上にモンスターを狩って魔石を稼いでくれるのだ。数が増えるのはこちらとしても有り難い話である。


「それじゃニャン太郎。ニャン子。それと、えーと……君も。イモのことをよろしくお願いします」


「にゃー」「にゃん」「にゃーん」「いってらっしゃーい」





イモたちに別れを告げ、俺は1人品川ダンジョンへやって来た。


自動ドアを入ったその先。わいわいがやがや、人で賑わうロビーの様子が見てとれる。いつもより人の多いその様子。さすがはゴールデンウイークといったところか。


日曜大工ならぬ日曜探索者。副業でダンジョン探索する人たちの姿。


そして、ダンジョン探索証だけ取ったものの、これまでダンジョンを訪れた経験のない人たち。この連休を利用して探索者デビューしようと集まったのがこの賑わい。


「ここがロビーか」

「どーすりゃええんや?」

「やっぱ最初は受付やろ?」


聞き覚えのある声にロビーを見やれば、クラスメイトである男子生徒が3名。ロビーにたむろしていた。


「お? じょうやん!」

「マジで? おーい。城ー」


俺が気づくと同時、クラスメイトも俺の姿に気づいたようだ。この人波の中で見つけるとは、なかなかに目ざとい良い目をしている。


「どうも。みんなも探索者やっていたの?」


顔見知りではあるが同じクラスというだけで特に親密な交流もない。挨拶だけして、おいとまするのが大人の対応というもの。


「いや。俺らは今日がデビューや」

「もしかして城は前から探索者やってんの?」


「ああ、まあ。家計の助けになればと思って」


「そーいや城は部活も入らずアルバイトばっかやったな」

「で、どうなんや? 探索者は稼げるのけ?」


自宅ダンジョンの収入を入れるなら稼げているが……


「正直、今はまだ稼げていないかな」


ポーション代金を支払う分、品川ダンジョンだけでは赤字である。


「ダンジョン来たー」

「マジでダンジョンだよ」

「みんな、落ち、落ち着きなさい」


再び聞き覚えのある声にロビーを見やれば、クラスメイトである女子生徒が3名。ロビーに姿を現していた。


「お? あれクラスの女子やん!」

「マジで? おーい。お前らー」


クラスの男子連中も気づいたようで女子に声を掛ける。


「あー! あれクラスの男子?」

「マジー? ちょー偶然」

「ちょっと。なんで貴方たちがこんな場所に?」


もちろん俺も顔見知りである。


普通っぽい人が只野ただのさん。

ギャルっぽい人が佐迫させこさん。

賢そうな人が加志摩かしまさん。


みなさんなかなかにお可愛いため名前を憶えているが、残念ながら単なるクラスメイト。特に親密な交流はない。


わいわいがやがや。受付前で合流した男女6名が賑やかに挨拶する。


むう……何を隠そう俺は陰キャにして人見知り。こういった賑やかな場面は苦手である。


「その、俺はダンジョンへ行くから……」


一言の断りを入れ、この場を離れようとするも──


「いやいや。唯一の経験者のお前が帰ってどうすんねん」

「え? 城くんダンジョン経験あるの?」

「せやで。ダンジョンで稼いで家計を助けてるそうや」

「マジー? 城っちやるじゃん」

「ふーん。人は見かけによらないものですわね」


むう……さすがは高校生。コミュニケーション能力に優れるのか、うまく俺をおだてるものである。だが、俺が一緒にいてもやることはない気もするが……


「あたしらみんな初めてだしぃ? 城っちだけが頼りって感じぃ?」


こう見えて俺は年頃男子の高校生。女子に頼られて悪い気はしない。


「あの。それじゃとりあえず、みんなで受付をすまそうか?」


これを機会に女子と仲良くなれるなら、俺の学生生活。バラ色となる可能性もあるのだから、モンスター養殖場まで案内するとしよう。

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