第34話 うめえええええええ!

黄金バッタ獣の肉を食べた俺はEXスキル「擬態ぎたい」を習得した。


バッタの脚力でも手に入るかと思ったが……擬態だと?


バッタをはじめ多くの昆虫は、敵から発見されないよう周囲の風景や他の生物に姿形を似せて擬態するわけだが……ジョブの擬態か。


試しに俺は自身の能力を脳に思い浮かべる。


──────

■Dジョブ:暗黒魔導士(SSR)LV20

・スキル :暗黒の霧

・スキル :暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃:暗黒熟練

・EXスキル:プリンボディ:ゴムボディ:鋭利歯:擬態(New)

──────


本来のステータスはこれだが、擬態を発動するとどうなるのか?


──────

※擬態中

■Dジョブ:???(???)LV10

・スキル :???、???、???

──────


なるほど。???と見えるわけだ。

ただしLVだけは現在LVの半分が限界。いくら擬態とはいえ、完全に力を隠しきることは出来ないというわけだ。


しかし、ジョブを擬態することに意味はあるのだろうか?

……あるのである。


スキルには相手のジョブ、スキルを看破するものが存在する。


探索者同士お互い協力するのがマナーであるといった所で、人間同士のトラブルがなくならないのは、日々のニュースを見れば分かること。


もしも探索者同士が敵対するその時。自身のジョブ、スキルを相手に看破されては不利となる。


仮に俺のジョブが暗黒魔導士であると看破された場合、相手は近接戦闘に持ち込むだろう。


いくら俺が近接戦闘を練習しているといっても所詮は付け焼刃。本職に敵うはずもなく、ボコボコに叩きのめされるのが落ちである。


もっとも俺の暗黒の霧を超えて接近するのは容易ではないだろうが……それでも情報があれば対策を練ることが可能となる。最悪、敵わないということが分かれば、戦わず逃げることもできるのだから。


「特にイモは擬態しておいた方が良い。イモのURギフトが他人に知られてはトラブルの元だからな」


「あーい。でもこの???って見えるの逆に変じゃないかなー?」


……言われてみれば確かに怪しい。これでは何か隠し事があると自白しているようなもの。擬態の意味がないではないか。


「んー……あ! 他のジョブを思い浮かべたら、それに変わったよ」


マジで? 確かに擬態は周囲の風景や他の生物に姿形を似せるもの。他のジョブに似せて変化するのは理にかなった動作である。


さっそく俺もジョブを擬態するとして……そうだな。傭兵にするか。


傭兵(R)は武器を使って戦う近接戦闘系ジョブ。

希少度はRで100パーセント攻略読本のアンケートによれば、獲得者数5位という比較的ありふれたジョブである。


何より前回、俺が練習した魔法スキル、魔弾を習得するのが傭兵(R)。

現在の俺の品川ダンジョンにおける戦闘スタイル。魔弾による先制攻撃。その後、近づき包丁で叩くというスタイルがそのまま使えるわけだ。


──────

※擬態中

■Dジョブ:傭兵(R)LV10

・スキル :全武器熟練、魔弾、HP増加

──────


成功。ギフトにあわせてスキルも傭兵のものに擬態されている。これで俺とイモのジョブが看破される危険はなくなった。


「ちょうどお肉が焼けたよー。おにいちゃんどうぞ」


待ってました。さっそく黄金タレを付けてと。いただきます。


パクリ


「うめえええええええ!」


うますぎて言葉もない。よって結論にいきます。


【EXスキル「牛パワー」を習得した】


牛パワー:牛のような怪力を得る。


「牛パワーだって。あんまり可愛くないよね。もーもーパワーの方が良くないかなー?」


駄目です。


「それはそうとイモ。少し相談があるのだが……」


「んー? なに?」


「今晩からお兄ちゃん、イモの部屋で一緒に寝て良いだろうか?」


誤解しないでいただきたいのは、何も俺にやましい気持ちがあって頼んでいるわけではないということ。


これは暗黒の霧による全自動モンスター養殖場を起動するためである。


LVを上げるにはモンスターを狩るしかないわけだが、俺にもイモにも学業があり、常時ダンジョンに籠るわけにもいかない。


そこで全自動モンスター養殖場の出番なわけだが……今日のテストで俺がダンジョンに居る間でなければ、暗黒の霧を維持できないことが判明した。あわせてイモの部屋がダンジョン化していることも。


つまり、イモの部屋で眠るなら、全自動モンスター養殖場が機能する。


10代の少年少女の平均睡眠時間は8時間という。1日の3分の1が睡眠時間となるわけだが、その時間を狩りに使えばどうなるだろう?


これぞ学生であれば誰もが憧れた睡眠学習。あらため、睡眠狩猟。


メリットしか存在しないこのアイデア。問題はイモが承諾するかどうかだが……


今は中学生と多感な年頃のイモ。いくら兄妹とはいえ男女が同室で眠るには抵抗があるだろう。


イモが駄目だと言うならダンジョン地下1階で眠るしかないわけだが……どこにゴキブリ獣がいるか分からないジメジメした鍾乳洞。可能であればあのような場所で眠りたくない。ここは何とかイモを騙くらかして、いや、筋道立てて俺がイモの部屋で眠るべき理屈を説明、説得しなければならないというわけで……


「いや。イモ。これはただLV上げのためであって……お兄ちゃんは清廉潔白。ロリコンでもなければシスコンでもないのだから、やましい気持ちは一切ないからして……」


「うん。良いよー」


「何ならお兄ちゃんは目を閉じる。息もしない。アイマスクをした上に耳栓をするからして……って、え? 良いのだろうか?」


「うん。やったー。おにいちゃんと一緒にお泊りだー」


なぜか大はしゃぎのイモ。


……まあ、イモはまだまだ子供。異性と同室で眠る危険性を知らないのだろう。俺も余計な気を使う必要はないわけで、それはそれで残念なような気楽なような……


とにもかくにも寝ている間に強くなるという全人類の憧れ。睡眠狩猟の完成である。

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