第33話 俺のLVは20に上昇していた。
ゴールデンウイーク初日。
イモとニャン太郎、ニャン子を連れて自宅ダンジョン地下2階。現れるモンスターを倒しまくったその結果、俺のLVは20に上昇していた。
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■Dジョブ:暗黒魔導士(SSR) LV20(↑2UP)
・スキル:暗黒の霧(五感異常、全能力減少、毒、腐食、MP減少、MP蒸発、恐怖、麻痺、睡眠、混乱、放心、封印)
放心(New)ぼんやりして何もしなくなる
封印(New)スキルが使用できなくなる
・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃
・スキル:暗黒熟練(New)暗黒スキルの消費MP減少
・EXスキル:プリンボディ:ゴムボディ:鋭利歯
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「おーい。イモ。そろそろ帰ろうか」
「えー? おにいちゃん早くない?」
失礼な。全く早くはない。
「お兄ちゃんのリュックがもう一杯だ」
LV上昇による身体能力の向上。ダンジョン内では俺の体力も大きく上がっており、リュックサックが重くなろうが運ぶのに支障はない。
とはいえ、魔石やモンスター肉を詰め込んだリュックはパンパンに膨らんでおり、これ以上に荷物を入れることは物理的に無理である。
今後を考えると大きい物に買い替えた方が良さそうだ。
ニャンちゃん2匹と合流。ダンジョンを出るその前に地下1階。モンスターゲートの部屋へ移動する。
室内には暗黒の霧が充満したまま。モンスターゲートを出たモンスターが死んだのだろう。床には多数の魔石と肉が落ちていた。
地下2階を探索する間も、暗黒の霧は問題なく維持できていたようで、全自動モンスター養殖場のテストは順調というわけだ。
これ以上はリュックに入らないため、室内の魔石と肉は放置のまま俺たちはダンジョンを後にする。
梯子を上がりイモの部屋へ。ドアを開けて廊下に出た途端、背中のリュックが一段と重みを増し、俺はダンジョンに設置する暗黒の霧が消失したことを知覚した。
ダンジョンの外ではジョブはその力を発揮しない。
暗黒の霧による全自動モンスター養殖場が機能するのは、俺が自宅ダンジョンに入っているその間だけ。自分の部屋で寝ている間も睡眠学習ならぬ睡眠狩猟できるかと思ったが、そう上手くはいかないというわけだ。
ダンジョンを出て超常能力を失うのは俺たち探索者だけではない。それはモンスターも同じで、凶暴なモンスターもダンジョンの外に出たなら力を失い無力な野生動物へと成り下がる。
それがため、魚が水を出て陸に上がらないのと同様、モンスターはダンジョンから外には出て来ない。
だが……待てよ?
今、暗黒の霧が消えたのはイモの部屋を出たその時。ということは……イモの部屋はすでにダンジョンの一部になっているということか?
ダンジョンの特徴。それは大気に魔素が含まれることにある。地球の大気に酸素が含まれるように、ダンジョンの大気には魔素が含まれる。
イモの部屋にあるダンジョンの入口。ベッドの下に隠しているだけの入口は常に開放状態。ダンジョンの魔素は部屋に流れ込み放題となっていた。
俺がダンジョンに気づいたのも、イモの部屋に魔素を感じたのが原因。
ということはだ。試しにイモの部屋の窓を、ドアを開け放しにすれば魔素はさらに拡散。自宅の中どころか、自宅周辺までもがダンジョンと同じ魔素の溢れる空間になるだろう。
はたしてそれは……大丈夫なのだろうか?
世界には無数のダンジョンが存在する。
品川ダンジョンのように外壁で隔離、管理されているなら魔素が大気に拡散することはないが、自然の洞窟そのままのダンジョン。野ざらしのダンジョンからは今も魔素は大気に垂れ流し放題に拡散している。
さらには近年、急速に拡大が進む魔力エネルギー。
その源となる魔石は魔素の塊。魔力エネルギーの需要が増すということは、世界中の大気に魔素が拡散するというわけで……
学校の授業やTVに流れるニュース。さらには100パーセント攻略読本にも魔素は人体に一切の害はないとされており、俺自身、毎日ダンジョンに潜っているのだから、それは確かな事実だろう。
だとしても、モンスターがダンジョンの外に出ないのは、地球の大気に魔素が存在しないのが原因。もしも地球の大気に魔素が存在するなら、どうなるだろう……?
……まあ素人の俺が気づくようなこと。世界中の研究者は、ダンジョン協会はとうに気づいているか。
・
・
・
「じゃーん。これが黄金ウシ肉だよー」
俺がホットプレートの準備を終えるころ、イモは黄金ウシ肉を食べやすいサイズに切り分けていた。
「見るからに旨そうだな……いや。イモ。油断するな? 美味しそうに見えても未知のモンスター肉。何があるか分からない。まずはお兄ちゃんが毒見するからちょっと待ってろ?」
「はーい。残念。もうイモ食べましたー。切り分ける時にちょっと食べたもんねー。美味しかったよー」
なんだと?! 俺が一番で食べるはずが……
いや。違う。まさか生で食べるとは……危険すぎるだろう。イモに何かあったなら俺は死んでしまう。
「じゃあ、お肉を焼く間、おにいちゃんにはこれの毒見をお任せだよー」
イモが取り出したのは、体長50センチはあるバッタ獣の丸ごと唐揚げ。
「黄金バッタ獣のドロップ品。黄金バッタ肉だよー」
いつの間にそのようなレアモンスターを? だとしても……これは本当に黄金バッタ獣のドロップ品なのか?
単にモンスターをそのまま丸揚げしたとしか見えないが……死んだモンスターは煙になり消えるはずで、やはりドロップ品なのだろう。だとしても……
「イモ……これをこのまま食べるのは無理ではないだろうか?」
なぜにバッタの外見そのまま丸揚げしたのか? せめて元の素材が何か分からないよう、形を崩して調理してくれれば……
「えー? コイの丸揚げとか人気料理だよね。イモ、あれ大好きだしー」
まあ、コイはお魚だから丸ごと料理は良いのだが、バッタは昆虫。いくら国がコオロギ料理を推進するからといって、粉末として形を誤魔化し調理するもの。昆虫の外見丸出しでは食欲が……
「食べないならイモが食べるよー」
尻ごむ俺をよそに、黄金バッタ獣の丸揚げにハシを伸ばすイモだが。
「いや……俺が先に食べる」
イモは我が家の天使。万が一毒でもあれば、イモがお腹を壊すようなことがあっては、俺は悲しみから死んでしまう。
聞くところによれば、昭和の時代はイナゴを丸ごと煮た料理が人気を博したというのだから、バッタの丸揚げは理にかなった伝統的調理法。食べるに支障はない。はず。
目を閉じ思い切って頭から噛り付いた。
パクリ
むっ? このパリッとした触感。ベタつきなくカラリと揚がったこの歯ごたえは……
「どう? おにいちゃん」
パクパクパクパク
塩味だけの単純な味付けが逆に素材の味をどうたらこうたら。
「あー。食べすぎー。もう。イモも食べるー」
俺が噛る反対側。バッタ獣のお尻からイモが噛り付いた。
「おー。スナックのお菓子みたいで美味しいー」
【EXスキル「擬態」を習得した】
擬態:昆虫の有するカモフラージュ能力でジョブを擬態する。
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