第32話 暗黒魔導士は、集団戦闘においてその真の力を発揮する。
自宅ダンジョンの先。つづら折りの坂道を下り降りた先。階段のような明確な区別はないが、おそらくここが地下2階。
地下1階より通路の幅は広がり、大きなモンスターでも暴れ回れるだけの広さとなっていた。
その通路の先に大きな黒い影が複数見える。
あれはウシ獣の群れか。
自宅ダンジョンの地下2階。誰もモンスターを狩る者がいないだけに、その数は20頭の大群となっていた。
「多いな……よし。フォーメーションAだ」
「おー」「にゃん」「にゃー」
品川ダンジョンではわずか1頭のウシ獣に苦戦させられた俺であるが……あれは俺の本気ではない。
今の俺たちはパーティ。
そして俺のジョブ。SSRにしてうんぬんかんぬんである暗黒魔導士は、集団戦闘においてその真の力を発揮する。
ウシ獣が集団で襲い来るなら、こちらも集団の力で対抗するまで。
「ウモ?!」
接近する俺たちの姿に気づいたか?
突進するべく身構えるウシ獣だが……
「発動。暗黒の霧」
俺は洞窟の通路いっぱいに暗黒の霧を放出。俺たちとウシ獣の間には、暗黒の霧に閉ざされた回廊が形成される。
ウシ獣がそのまま突進しては暗黒の霧に突っ込むことになるわけだが……
「ウモモー!」
単調にして単純なウシ獣が獲物を前に後退するはずがない。赤い布を目にした闘牛のように、ちゅうちょなく暗黒の霧へと突っ込んだ。
だが、それは無謀というもの。
「ウモモ……」
暗黒の霧の中。麻痺で立ち止まる者。恐怖で身をすくませる者。眠りこける者。20頭のうちの1/3が突進の途中で脱落する。
それでも残る13頭のウシ獣は歯を食いしばりデバフに耐えると、暗黒の霧の中、音を立てて俺たちに迫り来る。
「……黄金ウシ獣か」
暗黒の霧を通して見える先頭の1頭。ウシ獣を率いるのは黄金ウシ獣。
「やったー。ニャン太郎、ニャン子、いくよー」
「にゃん」「にゃー!」
イモの呼びかけに応えて、2匹のニャンちゃんが暗黒の霧の中へと走り出す。
パーティの恩恵の1つがフレンドリーファイアの軽減。イモも2匹のニャンちゃんも、暗黒の霧のデバフの影響を受けることはない。
迫るウシ獣の足元をすり抜ける2匹のニャンちゃん。その爪は正確にウシ獣の足。そのアキレス腱を切り裂いていた。
早い! 地下1階で見たよりさらに2匹の動きが早くなっている。黄金ゴキブリ獣を倒してLVが上がった影響もあるのだろうが……
カサカサ足元を動くそのスピード。まるでゴキブリのようなその身のこなし。おそらくはこれが黄金肉を食べて得たEXスキル。Gダッシュ。
「にゃん」「にゃー!」
アキレス腱を断たれたウシ獣。バランスを崩し地面に倒れ込むそのチャンス。
「いくよー。
イモの左右の手から放たれた
その後、残ったのは麻痺、恐怖、睡眠といった状態異常により動きを止める7頭のウシ獣たち。
「はい。2発目。どーん」
イモの電撃が命中。暗黒の霧が晴れた後には、20頭のウシ獣の姿は煙となり消えていた。
──────
■Dジョブ:暗黒魔導士(SSR)LV18(1↑UP)
・スキル:暗黒の霧(五感異常、全能力減少、毒、腐食、恐怖、MP減少、MP蒸発、麻痺、睡眠、混乱)
混乱(New)混乱して敵味方の区別がつかなくなる
・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化:暗黒打撃
・EXスキル:プリンボディ:ゴムボディ:鋭利歯
──────
「やったー。黄金牛肉だよ。おにいちゃん!」
イモが高々と掲げるのは黄金色に輝くウシ獣の肉。
■ウシ獣の肉:旨い。とにかく旨い。
ただでさえ旨いと評判のウシ獣の肉が、さらに黄金になればいったいどれほどの味になるのか? 興味はつきないが何より大事なのは、これでまた新たなスキルを習得できるという点。
何が得られるかは帰ってからのお楽しみである。
その他、魔石を40個と普通のウシ獣の肉を2個拾い上げリュックに入れた俺たちは、さらに洞窟の先へ進む。
イノシシ獣があらわれた。
「発動。暗黒の霧」
「はいドーン」
イノシシ獣は死んだ。
ハイエナ獣があらわれた。
「暗黒の」「はいドーン」
ハイエナ獣は死んだ。
バッタ獣があらわれた。
「……」「はいドーン」
バッタ獣は死んだ。
俺の暗黒魔法も反則的スキルだと思うのだが……イモの電撃はさらにヒドイものである。
タフだといわれるウシ獣すら一撃、しかも10頭まとめて貫通させる。これではパーティの連携も何もあったものではなく、少しはゲームバランスというものを考えて欲しいものである。
「結局地下2階でフォーメーションは必要なかったか……なあニャンちゃん」
……しかし返事はない。
先程まで足元をウロチョロしていたニャンちゃん2匹の姿は、いつの間にか消えており、聞き耳を立てれば離れた箇所からモンスターの悲鳴が聞こえてくる。
なるほど。イモと一緒だとやることがないと。そう判断したニャンちゃん2匹は別行動というわけか。
結局、俺はイモにくっついて魔石を拾い集めるのに専念するのが最も効率的という。地下1階と変わらないフォーメーションに落ち着いたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます