第29話 それだけの力があってもソロに危険はつきもの。

……ようやくウシ獣を1頭。落ちた魔石は2個か。

ソロでも行けるとはいえ、ダンジョン探索にパーティが推奨されるわけだ。


魔石を拾い上げ、傷口にポーションを振りかけ周囲を見回す。


パーティを組んだ探索者はウシ獣を取り囲み、一斉攻撃。ゲートから現れるウシ獣を流れ作業のように退治して回っていた。


地下2階。まだまだソロでも行けるとはいうが……ソロではモンスターを仕留めるのに時間がかかる上に危険もある。


現に俺はウシ獣1頭仕留めるのにポーションを1個消費。完全に赤字である。


俺のジョブが個人戦闘向きでないというのも大きいが……


俺の隣で一服していたアメフト男も、今は斧を振り回して狩りを再開していた。ドカーンドカーン。振り回す斧がウシ獣の肉に深く食い込む重い一撃。


アメフト男が俺を見て笑うのも無理はない。

無念ではあるが、野郎と比べて俺の包丁はショボイの一言。


しかしだ……それだけの力があってもソロに危険はつきもの。


先ほどウシ獣が現れたばかりのモンスターゲートに光が走る。モンスターの表れる予兆。だとしたら早いな……


モンスターゲートからは一定の間隔で定期的にモンスターが現れるが、稀に間隔を空けず連続で現れることもある。


モンスターゲートを飛び出したのは12匹のハイエナ獣。


狩場にはいまだウシ獣の姿も残っており、数名の探索者が戦いの真っ最中。手の空いている探索者がハイエナ獣を相手どろうとするが──


現れたハイエナ獣は探索者の間をすり抜け、ウシ獣と戦う者だけを狙って襲い掛かる。


ハイエナ獣単体の力はウシ獣に比べ遥かに劣るが、他のモンスターと連携する厄介な習性を持っている。パーティを組んでいる探索者はお互いフォローしながら対応するが。


「ぎゃー」「やられたー」


ソロの探索者がウシ獣の相手をするその際中、背後から襲われてはひとたまりもない。


ちょうど俺の近くでウシ獣と死闘を繰り広げるアメフト男。その背後からも1匹のハイエナ獣が走り寄っていた。


アメフト男はウシ獣の相手に夢中……か。

やれやれではあるが……


「暗黒ボール。ではなくて、魔弾発射」


バシャン。命中。


デバフ発動:ハイエナ獣は五感異常。

デバフ発動:ハイエナ獣は麻痺。

……以下略。


麻痺でこわばり動きを止めるハイエナ獣。その隙に──


スパーン


俺は駆け寄りハイエナ獣の首筋を切り裂いた。


……勘違いしないでもらいたいのは、別に俺はアメフト男を助けたわけではないということ。


探索者の怪我は自己責任。美少女ならともかく、野郎がいくら怪我しようが俺の知ったことではない。


俺が助けたのは未来の俺自身。いつか俺が危機となった際に他の探索者に助けてもらえるよう、あくまで俺自身の評判を上げるためにやったことである。


その後、俺はアメフト男がウシ獣へ止めを刺すのを見届け、その場を後にした。



本日は魔石を30個売却。


「はい。魔石の買い取り金額は1万5000円となります」


放課後3時間のアルバイトと考えれば、時給5千円と破格の稼ぎである。


もっとも実際に俺が倒したモンスターは2匹で獲得した魔石合計は4個。本来の収入は2000円でしかないわけで。


「はい。E級ボーション1個で1万円。まいどありー」


さらにはウシ獣によって負ったこの負傷。癒すためのポーション代も必要となるのだから、結局、自宅ダンジョンがなければまだまだ赤字というわけだ。


6821万3634位:城 弾正(917万4301 ↑UP)


ランキングは大きく900万位ほど上昇。

これまでに俺が売却した魔石の合計は2万9000円。探索者になっても3万円を稼げず脱落する者が多いというわけだ。


「ヘイ。ボーイ」


換金所を後にする俺の背中に声がかけられる。

誰かと思い振り向けば、狩場で俺の近くにいたアメフト男ではないか。


「ユーは稼げましたか?」


なぜに怪しげな日本語なのか?


よくよく見れば男のガタイは良く顔の彫りは深い。アメフトヘルメットを脱いだその頭は金髪丸出し。異国の人間だろうか?


「ええまあ。スモールですけど」


「オー。スモールでしたか。うんうん。ユーの戦いはいまいちでしょう」


余計なお世話である。


「そんなボーイには、これをプレゼントでしょう」


何を考えているのかアメフト男は俺に大量の魔石を手渡した。思わず受け取ってしまったが……いったい何だこれは?


「ミーのピンチをヘルプしてくれましたお礼でしょう」


あの時のハイエナ獣の襲撃。気づいていたのか?

だとしても別に謝礼を貰うようなことでもないが……貰えるというなら貰うのもまた礼儀。


「ありがとうございます」


アメフト男は俺に手を振り立ち去って行った。


「すみません。これも買い取りお願いします」


「はいはい。ラッキーですわねえ」


確かにラッキーであるが、このラッキーは偶然ではない。

人助けの結果が巡ってきたわけであるなら、俺の人徳が生んだその結果。これは必然というものであった。


6515万6631位:城 弾正(305万7003 ↑UP)





「ただいまー」


午後9時。自宅に帰るが誰の出迎えもない。


イモのやつダンジョンか?


おそらくニャン太郎を連れて入っているのだろうが……本当に大丈夫だろうか?


荷物を置いてイモの部屋へ向かう。

部屋に入ったところで、丁度ダンジョン入口からイモが梯子を上がり出てきた。


「おー。おにいちゃん。おかえりー」


「ただいま。って、うおっ?!」


イモに続いて、2匹のネコがダンジョン入口を飛び出した。


「なんだ? ニャン太郎と……もう1匹?」


「そなの。ニャン太郎の彼女だってー。うらやましいよね」


イモが部屋の窓を開けると、2匹は口にイモ虫肉を加えたままペコリと頭を下げ窓を出て行った。


ニャン太郎……ダンジョンに女を連れ込むとは、とんでもないプレイボーイであった。


「いや。それよりもだ。あのネコもジョブを?」


「うん。一緒にダンジョン潜ってきたんだよー」


ふーむ。まあ別に餌代がかかるでもなし……戦力アップで良いか。


「ネズミ肉いっぱい取って来たー。今晩も焼肉だよー」


ホットプレートで肉を焼き焼き。タレを付けて食べる食べる。


「それでねー。ニャン太郎とニャン子が凄い速さでねー」


食事の間、イモはネコ2匹の活躍を我が事のように話してくれた。


「ふーむ。つまり2匹ともに十分に戦えるというわけか」


「そだよー。だから明日はもっと先へ行ってみようよー」


イモによれば、今日も黄金モンスターを退治したと言う。2匹ともにLVは十分に上がっているなら……行けるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る