第28話 暗黒パンチ!
品川ダンジョン地下2階。
狩場のそこかしこでウシ獣を相手に探索者が戦う中、再びモンスターゲートに光が走り、追加のウシ獣が6頭あらわれた。
後ろで控える他の探索者が現れたウシ獣に攻撃を開始するなか
「凝縮。暗黒水球」
俺は手早く暗黒の霧を水球に。ウシ獣の1頭を狙って暗黒水球を投げつける。
バシャーン。命中。
デバフ失敗:ウシ獣は五感異常にレジスト。
デバフ発動:ウシ獣は全能力減少。
デバフ発動:ウシ獣は毒。
デバフ失敗:ウシ獣は恐怖にレジスト。
デバフ発動:ウシ獣はMP減少。
デバフ発動:ウシ獣はMP蒸発。
デバフ失敗:ウシ獣は麻痺にレジスト。
「ウモー!」
飛散した暗黒水で身体を濡らしたウシ獣は怒りを露わに俺の元まで突進する。しかし、その動きは他のウシ獣に比べ緩慢。
デバフにより速度の落ちた突進をサイドステップで回避した俺は、ウシ獣の身体に包丁を叩きつける。
ズバーン
LVの上昇とともに身体能力は強化される。
魔法系ジョブは身体能力に劣るとはいえ、俺のLVは16ある。デバフで能力の落ちたウシ獣を相手にするくらいなら行けるはず。
ズバーンズバーン
ウシ獣に幾度も包丁を叩きつける。
デバフにより相手の防御力は落ちているはずが……
ズバーンズバーン
俺の包丁はウシ獣の皮膚を浅く傷つけるのが精いっぱい。ジリジリHPを削りはするが、致命傷を与えるには至っていなかった。
根本的には俺の腕力と武器がショボイのが原因だが……
ウシ獣の使う強化魔法にも原因がある。
「ウモー!」
咆哮と共に詠唱されるのは防御力強化魔法。ただでさえ固い皮膚がバフによってさらに硬化している。
つまりは俺のデバフ防御力減少とウシ獣のバフ防御力強化がぶつかることで、ウシ獣の防御力はプラスマイナス0。防御力が下がっていないのだから、俺の腕力と包丁が通用しないのも無理はない。
それでもこのまま叩き続ければ、時間はかかるが毒とあわせてじきにウシ獣を倒せるはずである。
ドカーン
俺の隣で同じようにソロで戦う男が、デカイ斧を振り下ろしウシ獣の頭を両断する。
「ふっ」
ウシ獣をペチペチ相手どる俺を見て、男がニヤリ笑みを浮かべた。
野郎。振り回す斧といい、アメフトヘルメットを被ったいかにもパワー系の見た目といい、戦士系ジョブか?
さらには一仕事終えたとばかり男は一服を始めていた。
野郎。ダンジョン内は禁煙ではないが、副流煙が邪魔すぎる。と、気をとられたのがマズかったか。
ウシ獣への反応が遅れ、突き出される角が俺の胸をかすめていた。
痛い。
学生服が引き裂かれ、血が流れ落ちる。
かすめただけだというのに、この威力。
「ウモモー!」
俺の血を見て興奮したか雄たけびを上げるウシ獣の姿。
ぐぬぬ……調子に乗りやがって!
と言いたいところであるが、これはマズイ事態。デバフを受けてなお、ウシ獣の身体能力は俺を上回る。
くわえて傷が、痛みが邪魔して動きの鈍る今。これ以上に攻勢に出られては、俺の身が危険である。
ブルルと鼻息荒く頭を後ろに身を屈めるウシ獣。そのまま勢いを乗せて滅多やたらに角を突き出し飛び出そうとする──その時。
「ウ……ウモモ?」
突然にウシ獣はその動きを止めていた。
やれやれ……ようやくか。
デバフ発動:ウシ獣は麻痺した。
通常のデバフ魔法は、レジストされればそこで終わる。デバフ効果は一切発動せず、相手には何の影響も与えない。
だが、俺の魔法。暗黒の霧は1回レジストしただけでは終わらない。暗黒の霧が相手を覆うその間、俺のMPが尽きない限りデバフ判定は継続して発動し続ける。
今は霧ではなく水だが……どちらにせよ同じこと。
暗黒の水が相手を濡らすその間。例え1回2回レジストされようが、暗黒の水を拭い取らない限りデバフ判定は発動し続ける。
例え相手が99%レジストしようとも、100%でないならいつかはデバフが成功するというわけで。
「ウ、ウモモー!」
ウシ獣は体力に優れるモンスター。麻痺で動かないはずの身体を無理矢理動かし、身体を濡らす暗黒の水を振り払おうとするが……
動き出すその前に───
俺は包丁を持つ右手とは逆。
空手の左拳に魔力を込める。
LV15となって習得した暗黒魔導士4つ目のスキル。
「暗黒パンチ!」
ドカーン
ウシ獣の額に左拳を叩きこんだ。
──────
■スキル:暗黒打撃
暗黒魔法を拳に乗せて叩きつける。対象の強化効果を1つ解除すると同時、体内にデバフを流し込む。
──────
左拳に残る手応えとともに。
パリーン
ウシ獣の強化魔法。防御力上昇バフは砕け散る。
同時。俺の拳を通して全てのデバフがウシ獣の体内に流れ込む。
デバフ発動:ウシ獣は五感異常。
デバフ発動:ウシ獣は全能力減少。
デバフ発動:ウシ獣は毒。
デバフ発動:ウシ獣は恐怖。
デバフ発動:ウシ獣はMP減少。
デバフ発動:ウシ獣はMP蒸発。
デバフ発動:ウシ獣は麻痺。
後衛の魔法ジョブである魔導士が肉弾戦を行うのだ。
リスクを負うだけあって、そのデバフ成功率は暗黒の霧より遥かに高い。
「ウも……モ……」
俺の前には恐怖に怯え、麻痺で動かない身体を縮こめるウシ獣の姿。
戦意を失った相手を叩くのは気が引けるが……
相手はモンスター。デバフが消えれば再度、襲ってくるのだ。
手加減は無用。一息に決める。
スパーン
右手の包丁を一振り。
強化バフを消去され、暗黒デバフにより脆くなった皮膚はあっさり俺の刃を通し、頸動脈を切断するクリティカルヒット。血しぶきを上げてウシ獣は崩れ落ち煙と消えていった。
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