第26話 まずは1匹。ニャン太郎にモンスターを倒させる。

新たに仲間とした野良猫ニャン太郎とともに、自宅ダンジョン地下1階へ降りる。


「ニャン太郎ー。がんばれー。がんばれー!」


まずは1匹。ニャン太郎にモンスターを倒させる。ジョブを獲得しなければ何も始まらず、パーティを組むことすら出来ない。


そのためにも、俺はさっそく見つけたネズミ獣を蹴とばし暗黒の霧で包み込む。デバフのフルコースで弱らせたところを、ニャン太郎に仕留めさせようというわけだが……


「……にゃー」


にゃーではない。


いくら相手が体長10センチを超えるネズミ獣とはいえ、デバフで動けない相手に何をびびっているのか? ネコならネコらしくネズミ獣に噛り付いてほしい。


「ニャン太郎ー。いくよー。なぐれー。ひっかけー」


イモに背を押され、おそるおそるネズミ獣に近づくニャン太郎。サクリ。右手の爪を伸ばしてネズミ獣を引っかいた。


毒で瀕死だったネズミ獣、それだけで消滅する。


「やったー。ニャン太郎すごーい! ばんざーい!」


……凄いのか? まあ、一応はモンスターが相手なのだから頑張ったといえるか……


煙となった魔力がニャン太郎と俺の身体に吸い込まれる。


ダメージの99%は俺の毒だが、止めをさしたのはニャン太郎。止めをさした者が経験値の大半を獲得するとあって、煙の多くはニャン太郎へ吸い込まれていった。


問題はこれでジョブを獲得できるかどうかだが……ダメなら獲得できるまで繰り返すしかない。


「ニャン太郎どう? ジョブを獲得できた?」


うずくまるニャン太郎を抱え上げ、イモが問いかける。


「にゃー」


うむ。よく分からん。


「よし。パーティ結成を試してみる。ニャン太郎がジョブを獲得しているなら成功するはずだ」


「おー。全員で手をつなげば良いんだよね。ニャン太郎いくよー」


イモが抱えるニャン太郎の手を取り、俺の手に乗せたところで。


「アクセプト。イモ。ニャン太郎」


俺は1人と1匹のパーティ加入を許可する。


「にゃん!」


「お? なんかニャン太郎。成功したっぽいよー!」


確かにイモの言うとおり、ニャン太郎がパーティに入った感覚がある。猫とつながるのも不思議な感じだが……まあ良い。


「それじゃ、どんどん奥へ行ってみるか」


「おー」「にゃー」


後は俺とイモでモンスターを退治すれば、パーティメンバーであるニャン太郎にも経験値が分配される。パワーレベリングの完成というわけだ。


バリバリバリー


イモが電撃でモンスターを蹴散らし奥へ進む。

俺は落ちた魔石を拾いながら、ニャン太郎は落ちた肉を食べながら、イモの後に続いていく。


「ニャン太郎。食べてばかりではダメだぞ?」


パワーレベリングといっても何もしない者に分配される経験値は極わずか。ひっかくだけでも良い。何かモンスター討伐につながる働きをしなければ等分割にならない。そのため俺はせっせと暗黒の霧をまき続けているというわけだ。


「にゃー……」


まあ今はジョブを獲得したばかりのLV1。無理させて怪我されても困るか。


「おー! おにいちゃん。また金ピカいるよ!」


通路の前方をノソノソ歩くのは10匹のイモ虫獣。うち1匹の表皮が金色に輝いていた。


「ラッキーだな。ただ……イモとはちょっと相性が……」


連鎖電撃チェーン・ライトニング


バリバリバリー


俺が喋るより早く。イモは電撃を放っていた。


直進した電撃が戦闘を歩く黄金イモ虫獣を直撃。そこからチェーンのように電撃が拡散。集団全てに大ダメージを与えるイモの得意スキルだが……


電撃は黄金イモ虫獣の身体に吸収、かき消えていた。


「あれ? なんでー? イモの電撃消えちゃった」


イモ虫獣の表皮はゴム状の物質で出来ている。

いわゆる絶縁体であり、ただでさえイモの電撃とは相性が悪いところに、より強化された黄金イモ虫獣なのだから仕方がない。


「むー。イモ虫めー」


「まあまあ。ここはお兄ちゃんの出番というわけだ。発動。暗黒の霧」


電撃に反応してモゾモゾ這い寄るイモ虫獣たちをまとめて暗黒の霧で包み込む。


デバフ発動:黄金イモ虫獣は魔法防御減少。


「おー。それじゃ連鎖電撃」


ビシャーン バリバリバリー


デバフにより魔法抵抗の減少したところをイモの電撃が貫通。10匹全員が煙となり消えた。


「やったー。金ピカ落ちたー」


後に残るのは、一際輝く黄金イモ虫肉。


他にも普通のイモ虫肉がたくさん落ちているが、さすがの野良猫ニャン太郎も今日はお腹いっぱい。もう食べられないという顔をしているため、まとめてリュックに放り込む。


別に俺が食べようというわけではない。不思議ビニールに包まれた魔物肉は常温で1ヵ月近くの保存がきく。ニャン太郎の餌に使うのも良し。世間一般の昆虫食ブームもあってお店で高値で買い取ってくれるかもしれない。どちらにしろ使い道はあるだろう。


そして肉とは別に落ちていたゴムの塊。


■イモ虫獣のゴム:弾力、絶縁性に優れたゴム。


何かに使えるかもしれないと、これまたリュックに放り込む。


その後、時間まで探索。黄金ゴキブリ獣を追加で1匹退治して、本日の探索は終了した。


──────

■Dジョブ:暗黒魔導士(SSR)LV16(3↑UP)


・スキル:暗黒の霧(五感異常、全能力減少、毒、腐食、恐怖、MP減少、MP蒸発、麻痺)


MP減少(New)時間経過によりMPが減少する

MP蒸発(New)時間経過によりMPが減少する

麻痺(New)身体が痺れ動かなくなる


・スキル:暗黒抵抗:暗黒強化

・スキル:暗黒打撃(New)暗黒魔力を直接叩きつけ、対象の強化魔法を1つ解除すると同時、体内にデバフを流し込む。


・EXS:プリンボディ:鋭利歯

──────


適正狩場で効率よく稼いだ場合でもLV10以降は1LVの上昇に1ヵ月かかるといわれており、LVが15を超えると更に効率が悪くなるという。


ダンジョンの発生から3年。まだ36ヵ月。俺のライバル来栖くるすくんはLVが30を超えたと噂になっていたが……


トップランカーであってもその程度が限界のなか、ダンジョンに入って1週間と経たない俺のLVは16。


黄金モンスターおそるべし……である。


この調子であれば近いうちに来栖くんも含めてごぼう抜き。ダンジョンランカーナンバー1となるのは間違いないといえるだろう。


「そういえばイモのLVはいくつになったのだ?」


「んー。19だよー」


……イモのやつ……抜け駆けである。ズルイのである。


「にゃん」


うむ。たぶんLVを自己申告したのだろうが、さっぱり分からんな……

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