第25話 やはり兄としては心配するもの。何か対策を考えねばならないか……
「おにーちゃん。お帰りー。お土産ちょーだい?」
「ただいま。イモ。お土産はないぞ?」
「えー。ダンジョンで稼いだんじゃないのー?」
残念ながら魔石売却で1万円の収入。E級ポーション購入で1万円の支出。結果はトントンである。
「んー……いちおうこれがお土産か?」
そういって俺はE級ポーションをイモの手に乗せた。
「うー。ポーションじゃん。おいしくないし」
仮においしくても、怪我もないのに飲んでは駄目である。
今日の稼ぎを全て注ぎ込んだE級ポーション。俺たち探索者にとっては身体が資本なのだから、いざという時のポーションは必須となる。
「まあ。いいや。晩御飯できてるよ」
服を着替えてリビングへ。母はまだ帰っていない。
「それじゃ先に食べるか。いただきます」
「いただきまーす」
今日も焼肉である。
パクリ
「うん。うん。うまいうまい。イモは料理の天才だよ」
特にこの焼肉のタレが最高だ。肉にバッチリあっている。
「えへへ。そうかなー。で、このお肉。味はどうかな?」
パクパク
「うん。うまいんじゃないか? イモは良いお嫁さんになれるな。結婚しよう」
しかし何の肉だろう? イモの手前あまり言いづらいが、肉自体はあまり美味しくない。
「えへへ。そうかなー。それじゃ結婚するね」
スパーン
「こらあ。お兄ちゃん? イモに変なこと吹きこまないの」
痛い。どうやら母の帰宅である。
「あ。お母さんおかえりー。お母さんのぶんも準備するねー」
イモが台所で新しい肉を焼き始める。
「それで
「うん。絶好調。控えめにいっても来年には億万長者かな?」
「それなら良いけど……弾正は調子乗りだし大丈夫かしら?」
「はーい。おかあさん。お待たせー」
イモのやつ。ずいぶんと肉をたくさん焼いたが……それだけの肉、お金に余裕あっただろうか?
パクパク
「あら? イモちゃん。このお肉って何のお肉なの?」
「ネズミ肉だよ。おにいちゃんがダンジョンで取って来たんだー」
ぶふぉっ。
「弾正。行儀悪いことしない」
「いや。すみません」
もちろん俺はダンジョンで取って来ていないし、黄金ネズミ肉は昨日に食べつくしたはず。
ということは……イモのやつ。1人で自宅ダンジョンに入ったな?
「へえ。昨日のお肉に比べるとあれだけど、十分おいしいわねえ」
「そでしょー? これで食費が浮くね。やったー。これから毎日お肉にするねー」
「ありがとう。ごめんなさいね。2人に苦労をかけて……」
イモのやつ。母を出汁にしれっとネズミ肉を集める許可を取ったものである。これでは危険だからと反対するにも難しい。
まあ、イモも自宅の食糧事情を改善しようと頑張っているのだ。そもそもが俺よりよほど強いのだから心配いらないとはいえ……
やはり兄としては心配するもの。何か対策を考えねばならないか……
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とある日の学校。授業中。
「えー。本日の授業は魔力発電についてです。みなさんご存じのように魔力発電とは魔石を燃料に発電するわけで、ここ日本でも来月から正式に稼働が始まります」
「先生。魔力発電って大丈夫なんすかー? 危なくないっすか?」
「大丈夫です。環境に優しいクリーンな発電。それが魔力発電でして、環境活動家も大満足。毎回騒ぎ立てる彼ら彼女らがいっさいの抗議活動を起こさないことからも、その信頼性が分かるというものです。すでに稼働の始まっている国も多く実績も十分ですよ」
「でも、魔素ってのが周囲に出るんすよね? 怖くないっすか?」
「魔素は人体に一切の害はありません。最初は少し頭痛を感じたりもしますが、すぐに慣れますので心配いりませんよ。怪しい陰謀論者がグダグダ言っておりますが騙され騒ぐことのないようしてください」
「そうなんすか。21世紀のエネルギーってわけっすね」
「これからの社会はオール魔力。世界中で魔力の研究が行われていますが、その最先端を行くのが偉大なるエンパイア連邦共和国。旧ソ連が中心となって東側諸国を取りまとめて生まれたエンパイア連邦共和国ですが、エンパイア書記長の号令のもと国家総動員体制でのダンジョン探索、研究が進められています。老人子供はもちろん赤子も含めた人民17億を無理やり強制動員してのダンジョン探索ですから、その指導力は素晴らしいですね」
「へー。日本はどうなんすかね?」
「……ここ日本でも学生に対してダンジョン教育を行うべきという動きがあるそうですが……日本政府は何を考えているのでしょうか! 鬼畜米英の言われるがままに生徒をダンジョンに送りモンスターと戦わせるなんて! そんな暴力的教育に先生は断固反対します! 自衛隊がダンジョンに入ってLVを上げるのも言語道断! エンパイア連邦共和国をはじめとした近隣諸国を刺激するだけです。小日本はダンジョンにかかわる暇があるなら与党議員の不正追及を……」
徐々に魔力エネルギーが社会進出しているそうだ。
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授業が終わり自宅に帰り着く。
「ただいまー。おにいちゃん。いるー?」
「イモお帰り。今日はダンジョンの前にちょっと庭に出ないか?」
「ん? なにー?」
俺はイモを連れて自宅を出る。
都会まで電車で1時間30分。自宅周辺は微妙に自然の残るのどかな地域となっている。その分、野生動物がうろついていたりするのだが……
「イモ。たまにお菓子を持って庭に出るが、何をやっているのだ?」
「うー……」
「イモ。お前。野良ネコに餌をあげているのではないか?」
今日。イモが帰る前に庭を見回れば、猫用おやつの食べカス。そして、猫のものらしき抜け毛が落ちていた。
「うー……だって、可愛いもん」
飼い猫ならともかく野良ネコは害獣。もしもなついて庭に住み着き糞尿など垂れ流されては困ったことになる。
もっとも俺とてイモの気持ちは分からないでもない。可愛い猫ちゃんを害獣だからと冷たくあしらうのも気が引けるもの。
「にゃー」
庭に出たイモの姿を見つけたのだろう。雑草をかき分け飛び出した1匹の三毛猫がイモの足下へ駆け寄っていた。
「ニャン太郎ー。おいでおいでー」
イモに頭を撫でられる三毛猫であるが……ニャン太郎?
もしもイモがきちんと確認した上での名付けならオスの三毛猫となるわけだが……捕まえて売れば高値になるのではないだろうか?
そんな俺の邪な気持ちを察したのか、近寄る俺の姿にニャン太郎はさっとイモの後ろに逃げ隠れる。
無念ではあるが、まあ、そうなるか。
一般的に野良ネコは人間への警戒心が強いもの。害獣として迫害されているのだから当然。たまたまイモが毎日エサを与えていたことから、イモに懐いているだけである。
「イモ。今後はニャン太郎への餌やりは禁止とする」
「えーーー!? そんなー」
「自給自足。野良であるなら自分の力で餌を取るのが筋である」
「無理だよー。ここじゃニャン太郎が捕まえる餌なんてないよー」
微妙に自然が残るのどかな地域とはいったが、腐っても都内への通勤圏内。ベッドタウンとして開発された地域なのだから、野ウサギや野ネズミ捕まえろといっても難しいだろう。
だが……
「イモ。野ネズミを捕まえるのは難しいかもしれないが、別のネズミなら近くにいっぱい居る場所があるだろう?」
「……あ! そっか! 自宅ダンジョンだー!」
その通り。
「ニャン太郎を自宅ダンジョンへ放り込めば食料問題は解決する」
「うー……でもあれ普通のネズミじゃないもん。ニャン太郎が逆に食べられちゃうよー」
確かに可能性はないでもないが、所詮は野良ネコ。食べられたなら食べられたでそれまでの話である。
「……おにいちゃんの鬼……悪魔……童貞」
うむむ。おにいちゃんは鬼でも悪魔でもないが確かに童貞。図星を突いた悪口は痛いところであるが。そもそもがイモのその心配。無用の心配というもの。何故なら……
「イモ。ダンジョンでジョブを得るのは人間だけではないぞ?」
「え? もしかしてニャン太郎も?」
「そうだ。海外ではパートナーとして犬を連れて入る事もあるそうだ」
100パーセント攻略読本の雑学コーナー。日本ではペット連れでの入場は禁止されているが、海外では狩猟犬を連れて入ることがあるという。
「お、おにいちゃんは天才だー! ニャン太郎! 一緒に行くぞー!」
ニャン太郎を抱きかかえ、撫でまくるイモの姿。別に俺はニャン太郎の食糧事情を心配して提案したわけではない。
これはイモの身を守るための施策。
女子中学生は好奇心旺盛な年頃。いくら1人でダンジョンへ入るなといっても入るだろう。その際、ニャン太郎が一緒であればイモの危険も減るというもの。
なんといってもニャン太郎は猫である。
ジョブを得たなら、自宅ダンジョン地下1階に大量に出没するネズミ獣とゴキブリ獣。両者の天敵となってくれることは間違いないだろう。
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