第24話 名付けるなら、暗黒水球。

公立究明高校。ある日の教室。


「ねえねえ。聞いた? 3年の池先輩」


「もちー。探索者になったってやつっしょ」


「そうそう。それでギフトがSRの戦士長だって」


「えーマジー? 凄いじゃん。それー」


「うちらも探索者なって池先輩と一緒にダンジョン行こうよ」


「ちょべりぐなアイデアやん。やるっしょー」


クラスの女子がダンジョン話で盛り上がっていた。



学校を終えて訪れる品川ダンジョン。

ゲートを通り地下1階。モンスター狩場へ直行する。


今日も狩場は多くの探索者で混雑していた。


当然、モンスターの取り合いとなるわけだが……LVを上げるのも魔石を稼ぐのも、自宅ダンジョンのある俺に焦る必要はない。


そういう意味ではこの混雑も逆にありがたいもの。

品川ダンジョン地下1階。監視カメラがあるとはいえ、誰がどれだけモンスターを倒しどれだけ魔石を得たのか? 誰にも分からないだろうから、倒した数以上に魔石を売っても不審に思われることはない。


「チュー!」


さっそく現れたネズミ獣に対し、俺は右手に包丁を構え相対する。


俺のギフトはデバフを得意とするSSR暗黒魔導士。暗黒の霧で相手を弱らせ戦うのが定石だが……ここでは暗黒の霧は控えめに戦うこととする。


何故か? それはもちろん俺がSSRと悟られないためである。


目立ちチヤホヤされるのも魅力であるが、今の俺には自宅ダンジョンという秘密があるのだから目立つわけにはいかない。


ズバーン


飛びかかるネズミ獣を斬りつける。


ここ品川ダンジョンは、ただ魔石を売るための実績作り。効率を求める必要もないのだから、近接戦闘の練習がてら戦うこととする。


ズドスッ


切られてなお噛みつこうと迫るネズミ獣に包丁を突き刺し止めを差す。


「よし」


焦る必要はない。徐々に包丁の扱いに慣れていけば良い。


「いくぜ。俺のスキル。魔弾」


ポツポツ襲い来るネズミ獣を倒す合間。聞こえる声の方を振り向けば、1人の探索者が突き出す片手の先。スライム獣に向けてソフトボール大の黒い球体が勢いよく飛び出した。


ドーン


魔法を受けたスライム獣が吹き飛び地面に転がる。


あれもスキルか……攻略読本をペラペラ探り読めば。


──────

魔弾。傭兵(R)ジョブの使うスキル。

球体とした自身の魔力を対象に発射する。初期は硬球をぶつけた程度の威力でしかないが、LVの上昇した魔弾は銃弾に匹敵する威力となる。

──────


レア度は低いながら遠距離攻撃が可能か……なかなかに興味深いスキルである。


戦いにおいて離れた相手を攻撃できるのは大きなメリット。相手が遠距離攻撃手段を持たないなら、一方的に叩きのめせるのだから当然である。


目立たないためにもSSRスキル暗黒の霧は使わないと言ったが……逆を言えばRスキルであれば、多少がぶっ放そうが大して目立つこともない。


「きえー! スラッシュ!」

「とあー! ウオーターボール!」


Rのジョブを獲得する確率は30パーセント。現に狩場ではRスキルを使い戦う探索者も多く見える。


もちろんSSRの俺にRスキルは使えないわけだが……見た目を似せるだけなら。


包丁を右手に構えたまま。俺は左手の五指を開き前方に差し向ける。


「発動。暗黒の霧」


左手の平に少量の暗黒の霧を放出する。


霧とはごく小さな水の粒が無数に浮遊した状態。霧を集め凝縮するなら、水になるという。


放出した暗黒の霧。俺は手の平で包み込むよう凝縮していく。結果。俺の左手の平には、拳大の黒い水の塊が生み出されていた。


名付けるなら、暗黒水球。


俺は左手に握りしめる暗黒水球を振りかぶり、丁度ゲートから現れたスライム獣を狙って投げつける。


ビシャーン ストライク。


スライム獣に命中した暗黒水球は弾け飛び、その身体をべっとり黒く染め上げる。


傍から見る分には、魔弾で攻撃したように見えるのではないだろうか?


突然の攻撃に怒ったスライム獣。俺を襲おうとピョンピョン飛び跳ね近づこうとするが……


暗黒水球は魔弾に見えてその実、暗黒の霧を凝縮した暗黒純度100%の水。スライム獣の身体を濡らす暗黒の水がデバフ効果を発揮する。


デバフ発動:スライム獣は視覚異常。

デバフ発動:スライム獣は聴覚異常。

デバフ発動:スライム獣は嗅覚異常。

デバフ発動:スライム獣は味覚異常。

デバフ発動:スライム獣は触覚異常。

デバフ発動:スライム獣は攻撃減少。

デバフ発動:スライム獣は防御減少。

デバフ発動:スライム獣は敏捷減少。

デバフ発動:スライム獣は魔攻減少。

デバフ発動:スライム獣は毒。

デバフ発動:スライム獣は恐怖


スライム獣を相手にこのデバフはやりすぎか?

近づいて来たところを包丁でブスリの予定だったが……


ぴょんぴょん跳ね寄ろうとするスライム獣だが、五感を乱され方向感覚を失いフラフラ。恐怖でへたり込んだところに毒が回りHPを削られ死んでいった。


まあ、魔弾で死んだように見えるだろう……たぶん。


だとしても暗黒の霧を凝縮したからか? 普段の暗黒の霧よりデバフ効果が高いように思える。


動きの速いコウモリ獣やゴキブリ獣、ネズミ獣に当てるのは難しくとも、動きの遅いモンスターが相手なら有効に使えそうである。


落ちた魔石を拾い上げ、俺は狩場を後にした。


「はい。魔石の買い取り金額は1万円となります」


今日は魔石を全部で20個売却。本当は4匹しか倒してないのだが……まあこの程度なら許容範囲だろう。


7738万7935位:城 弾正


ダンジョンランキングも100万位ほど上昇と、なかなかに順調。最後にE級ポーションを1個購入して俺は帰宅する。

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