第20話 すみません。魔石の買い取りをお願いしたいのですが……

狩場での戦いを終えた俺は、品川ダンジョン地下1階ホールに戻っていた。


広大なホールは各処に手が入り、ダンジョン探索の拠点となっている。


「うーいてて。治療してくれ」

「あいよー。ヒール1回。1万円ね」


「おいらの武器の刃がかけちまった。修理してくれ」

「おう。これなら1万円だな」


ダンジョンを出たジョブは効力を発揮しない。


治療魔法使いのヒールや修理工のリペアが効力を発揮するのがダンジョン内だけとなれば、ダンジョン内で店を開くのは当然であった。


ダンジョン内の土地は全てダンジョン協会の所有となるため、協会の設置した施設を借り受け、そこかしこで臨時の診療所や修理屋が開かれていた。


治療魔法使いか……ゴキブリ獣に深く噛まれた俺の左腕。外傷こそ見当たらないものの動かすにはまだ痛い。出来れば治療してもらいたいところだが……


LV1ヒール:1回5000円。

LV5ヒール:1回5万円。


LV1ヒールではE級ポーションと効果は同じ。腕の傷は治らない。となるとLV5の5万円あたりだが……高い。いや、怪我を即座に治すという効果を考えれば安いくらいなのだが……いまだにダンジョンで1円も稼いでいない俺が支払うには無理がある。


パーティメンバーに治療魔法使いが欲しいものだ。

無料で治療。ダンジョン深部へ行くにも安心できるのだが……


一般的に治療魔法使いをパーティへ誘うのは難しい。


まずもって、治療魔法使いそのもが貴重な存在。SR以上のジョブでなければ治療魔法使いは生まれない。


全探索者のうちの1パーセントがSRジョブといっても、SRジョブの種類は無数に存在するわけで、その中から治療魔法使いを引き当てるとなればさらにその数は少なくなる。


そして……見て分かるとおり治療魔法使いは儲かるのだ。


ホールで治療を行う治療魔法使いの元には大勢の探索者が列を成して並ぶ。いや、探索者だけではない。値段こそ高いものの一瞬で怪我を治すとあって、病院ではなく治療魔法を求めて並ぶ民間人も多数存在する。


もっともそういった一般患者向けの治療施設については企業ダンジョンが充実している。有名どころでは北条科学製薬。自社のダンジョン内に入院施設を備えた病院を有しているという。


とにかく需要の多い治療魔法使い。

MPの都合上、人によって魔法を使える回数は異なるが、1回5000円で20回も魔法を使えるなら1日10万円の稼ぎ。わざわざパーティに入り危険なダンジョンへ潜る者がそう簡単に見つからないのも当然である。


いつかは治療魔法使いを仲間にしたいものだが……俺はホールで治療する様子を眺めるだけで、その場を通り過ぎる。


今日の俺のメインの目的はこの先。

ダンジョン協会が営業する魔石買取カウンター。


未知のエネルギーを秘めるとあって、売買には特別な許可が必要。公営ダンジョンにおける魔石の買い取りは全てダンジョン協会の独占となっており、店員の全てがダンジョン協会の職員である。


「すみません。魔石の買い取りをお願いしたいのですが……」


「はい。魔石をこちらに置いてください」


俺は机の上に用意されたケースへ魔石を8個乗せる。


今日ダンジョンで手に入れた魔石はネズミ獣を倒して手に入れた3個だが、それにプラスして自宅ダンジョンの魔石を5個加えての売却。


モンスター狩場で俺の邪魔をするクロスボウ男は、俺の見ているだけでモンスター30匹を退治。魔石30個を手にいれていた。いくら俺が初心者としても、この程度の水増しなら何ら疑問に思われないだろう。


「はい。それでは探索者カードをお願いします」


店員の指示にしたがいカードリーダーに探索者カードを通す。


「あら? お客様。魔石の売却は初めてですか?」


確かにそうなのだが……なぜ初対面の店員が知っているのだろう? 疑問を抱く俺の顔に。


「探索者カードです。お客様のデータが全て記録されていますから」


店員は俺が手に持つ探索者カードを指さした。


なるほど。確かに探索者カードにはダンジョンの入退出記録や魔石の換金履歴など、あらゆる記録が入っているという。


あらためて見直す俺の探索者カード。その表面には俺の名前、城 弾正じょう だんじょう。そしてランキング部分には横線が表示されている。


「ダンジョンランキングは魔石の総売却額で決定されます。ランキングが表示されていないということは、まだ魔石を1つも売却していないということです」


要はモンスターをたくさん退治して魔石をたくさん売却した者が、ランキング上位となる仕組み。パーティの場合は魔石を売却する際にメンバー全員のカードを通すことで、自動的に分配処理がされる仕組みという。


「凄いですよ。初日から魔石8個はなかなか出来ることじゃありません。ランキング上位1万位に入れば全世界に公開されますから頑張って目指してみてくださいね」


ヤバイな……SSRにして総合評価9.5点。暗黒魔導士の俺であればランキング1万位など軽くランクインしかねない危険性がある。


目立ち注目されては自宅ダンジョンの秘密が露呈しかねない。上げすぎないよう注意が必要というわけだ。


そうして無事に魔石の売却が完了。俺のダンジョン口座に4000円が振り込まれると同時、俺のダンジョンランキングが決定。探索者カード表面にデカデカと印字される。


7859万9345位:城 弾正


……まあダンジョン協会は世界規模の協会。ランキングは世界ランキングであるのだから、1万位入賞など余計な心配というものであった……

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