第15話 あれは黄金スライム獣……超レアモンスターだ!

コウモリ獣の群れを倒した結果、地面には大量の魔石が転がり落ちていた。


「やったー! おにいちゃん。イモたち大儲けだー!」


ピョンピョン飛び跳ね喜ぶイモだが……


「イモ。魔石は換金しなければお金にならないぞ?」


「えー? おにいちゃん探索者だから換金できるよね?」


確かに品川ダンジョンで探索証を提示すれば換金できる。しかし……


「探索者となったばかりの新人が魔石を大量に持ち込んだのでは、怪しいにも程がある」


探索証にはダンジョンの出入りや魔石の買い取りといった、ダンジョンに関する情報が全て記録されている。


探索証をカードリーダーに通せば、俺のダンジョン入場履歴は品川ダンジョンに1回だけ。それもモンスター養殖場に出入りしただけの新人であることは明白。


それがいきなり30個もの魔石を換金に持ち込めば不審に思われるのは間違いなく、最悪、盗難を疑われ警察を呼ばれても不思議はない。


「うー。でもどうするの? せっかくお菓子を大人買いできると思ったのにー」


要は何の実績もない新人が大量の魔石を持ち込むから目立つだけ。


「明日からは放課後、学校帰りに品川ダンジョンへ行ってモンスターを狩って来る」


実際に品川ダンジョンでモンスターを退治、魔石を獲得するだけの実力があると証明するなら何の不審もなくなる。くわえて。


「魔石を換金する際、自宅から持ち出した魔石をいくつか混ぜて換金する。毎日こつこつ小分けに混ぜるなら疑われることもないだろう」


「おー。さすがおにいちゃん。悪知恵が得意だよ」


悪知恵は褒め言葉ではないが、褒められて悪い気はしない。


「でも、それだと魔石を少しづつしか換金できないね」


「俺のジョブLVが上がり品川ダンジョンで無双できるようになれば、換金する魔石の量が増えても不思議はなくなる。それまでの辛抱だ」


「そっかー。分かった。じゃあおにいちゃんのLVが上がるよう、イモ、もっともっとモンスターを倒すね」


「イモ。MPは大丈夫か? 頭が痛いとかないか?」


「ぜんぜん大丈夫だよ。どんどん行こー!」


張り切るイモに引っ張られるよう洞窟の奥へ進むと、その先。ズルズル地面を何かが這いずる音が聞こえてきた。


「イモ。ストップ。この先に何かいる」


上下に起伏の激しい洞窟内。さらには付近に大岩が転がるとあって、洞窟の先は見通せない。


「えーなんだろー? イモが見て来るー」


大岩を越えて先へ進もうとするイモの服をつかみ、俺は制止する。


「待て待て。何がいるか分からないのだ。うかつに近づくんじゃない」


「でも相手が見えないと倒せないよ?」


「それはそうだが……そもそもイモは前衛で戦うジョブじゃないよな?」


「うーん……そうなのかな?」


これまで見て分かったイモの戦い方は、遠距離から電撃を放って戦うスタイル。どうやら後衛に分類されるジョブと思われる。


そして俺もまた後衛ジョブ。魔導士なのだからして当然である。


ここにきて判明したパーティバランスの悪さ。まあ、イモの電撃があれば半端な相手は近づけないだろうが……さらにこの先。ダンジョン下層へ降りることを考えれば不安要素ではある。


「とにかくここで迎え撃とう。岩陰に隠れるぞ」


地面に転がる大岩の裏に2人して身を隠す。


「うー。せまいよ」


背中にくっつくよう隠れるイモだが、モゾモゾ身体を動かすため、くすぐったい。


「静かに。近づいて来ている」


ズリズリ這いずる音が近づいたところで、岩陰から頭を出して覗き見る。


見える姿は体長1メートルほどのアメーバーにも似たモンスター。スライム獣である。


その数は5匹。うちの1匹。中央に位置するスライム獣の身体は金色に輝いていた。


「マジかよ……」


「ん? どしたの? イモにも見せてー」


背中に覆いかぶさるイモが首を覗かせる。


「わ。何か綺麗なのがいるね」


「あれは黄金スライム獣……超レアモンスターだ!」


全身を溢れる金の光は輝く魔力の煌めき。100パーセント攻略読本によれば、めったに見かけることのない希少種であり、倒すことができれば莫大な経験値を得られるという、いわゆるボーナスモンスターである。


「あれー? あれイモが踏んづけたのと同じやつだー」


マジかよ? イモの初撃破モンスターが黄金モンスターだと? どうりでイモが強いわけだ。


もちろんイモのジョブ自体が強いのもあるだろうが、それだけではない。30匹を超えるモンスターを退治して尽きないMP。さらには直進する電撃。連鎖する電撃。2種類の電撃を使っていた。


つまり2種類のスキルを習得しているというわけで、すでに相応のLVに達しているということ。


「よし。やるぞ。発動。暗黒の霧」


モワリ俺の手から広がる暗黒の霧がスライム獣5匹を覆いつくす。突然霧に包まれピョンピョン飛び跳ね驚くスライム獣たち。


「おっけー。連鎖電撃」


ビシャーン バリバリバリー


黄金スライム獣に当たる電撃が周囲に連鎖。

5匹全てを煙に変えると同時、2人の身体に大量に流れ込む魔力の煙。


──────

■Dジョブ:暗黒魔導士(SSR)LV6(↑4UP)


・スキル :暗黒魔法(視覚異常、聴覚異常、嗅覚異常、味覚異常、触覚異常、攻撃減少)


・スキル:暗黒抵抗:暗黒魔法に対する抵抗力上昇。

──────


原始生物のようなスライム獣に対して視覚聴覚を阻害して意味があったのかどうか……疑問に思わないでもないがとにかくレベルアップ。そして新スキルとして俺は「暗黒抵抗」を習得した。


ジョブLVが5となった時点で新しいスキルを習得する。イモが2種類のスキルを使えたのも、そのためだ。


しかしダンジョン初日でLV6まで上がるとはな……

攻略読本によれば公営ダンジョンを利用した一般的な探索であれば、LV5まで3ヵ月はかかるとあるのだから、いかに黄金モンスターの経験値が多いか分かるというもの。


「お? おにちゃーん。こっちこっち!」


嬉々として魔石を拾い集めるイモが、手を振り俺を呼んでいた。


「なんだどうした?」


「これこれ。なんだろ?」


イモが指さす先には金色に輝く魔石。そして金色に輝くゼリーのような塊が落ちていた。


さすがは黄金モンスター。落とす魔石も金色となれば高額での買取が期待できそうだが……


これを売却するのは今は無理である。滅多に出会わないレアモンスター。俺のような素人がどこで倒したのか? 不審に思われるのは間違いない。


そしてもう1つ。金色に輝くゼリーだが……これはモンスタードロップか?


倒されたモンスターは稀にアイテムをドロップする場合があるというが……えーと。なになに。スライム獣のドロップアイテムは……


■スライム肉:ゼラチンのようなスライム獣の肉。コラーゲン豊富で食べると美容に良い。


「スライム肉。どうやら食べ物のようだな」


「わ。やったー!」


金色に輝いていることから普通のスライム肉ではない。黄金スライム肉。買取価格も相応に高くなると思えるが……これも黄金魔石同様に売却は無理である。


となればせっかくの初ドロップアイテム。放置して腐る前に、後で俺たちのデザートにするとしよう。

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