驚愕の自宅ダンジョン。いきなりチート暗黒魔導士デバフ無双で貧乏兄妹もふもふ暮らし。

第14話 ＳＳＲにして総合評価９．５点となる暗黒魔導士の出番である。

イモと２人。自宅ダンジョン地下１階へと降り立った。

昨日はこのすぐ近くに親父のゾンビが……そう考えるとあまり気乗りしない場所だが……

「おー。イモ。ダンジョン探索するの初めてだから緊張するよー」

イモはニコニコしながら俺の隣を歩く。

いざとなれば女の方が度胸が据わるとはいうが……イモが全く平気であるなら、兄である俺が臆するわけにもいかない。

周囲を見回し進む自宅ダンジョン。品川ダンジョンはコンクリート造りのダンジョンで天井は高く道も広い造りとなっていたが、自宅ダンジョンは岩肌のゴツゴツとした鍾乳洞タイプのダンジョン。

道幅は約１．５メートルくらいと２人が横に並んで歩くに不自由はないが、モンスターと対峙した際の立ち回りには注意が必要である。

「イモ。用心しろよ？　いざとなったらお兄ちゃんが守るからな」

道幅の狭さとは異なり、ゆうに３メートルはある天井。つららのようにぶら下がる鍾乳石の脇から、１匹のコウモリが飛び出していた。

「コウモリ獣か！　イモ。さがっていろ」

えーと。確か攻略読本に戦うコツが載っていたな……どこだ？

ペラペラとページを繰る俺の横で、イモは右手を突き出すと。

「電撃」

ビシャーン

イモの右手指先を発した電撃がコウモリ獣を貫き、煙に変えていた。

マジかよ……イモのジョブ。電気を放つとかやっぱりチートやん。

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■コウモリ獣。危険度Ｅ

空からの奇襲を得意とするモンスター。

超音波で周囲を探索し暗闇であっても正確に飛来する。素早い動きに小さな身体のため、攻撃を当てづらい。

素早い以外は大きな特徴もないため、首筋に噛みつかれなければ脅威ではない。飛び道具がない場合は腕などに噛みつかせてから叩くのも良いだろう。

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イモが退治し終えた後、ようやく見つけたコウモリ獣のページ。

「集団行動していることが多いため注意すること。か……なるほどね」

「なるほどね。じゃないよー。おにいちゃん。また来るよ！」

イモの言葉に天井を見上げると、さらに１匹。コウモリ獣が俺たちを狙い飛んでくるのが見えた。

「イモ。慌てなくとも大丈夫だ。すでに俺はコウモリ獣の弱点を把握している」

さて。ずいぶんお待たせしたが、ようやく俺のジョブ。ＳＳＲにして総合評価９．５点となる暗黒魔導士の出番である。

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■Ｄジョブ： 暗黒魔導士（ＳＳＲ）ＬＶ１

・スキル　：暗黒の霧（視覚異常）

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自身のジョブは、どういう仕組か本能で理解できる。

「発動！　暗黒の霧。世界を闇に染め上げろ！」

突き出す俺の右手から、黒い霧が宙に漂い出る。

この暗黒の霧に包まれている間、継続してデバフ効果が発動。ＬＶ１の今は相手の視覚を阻害するというわけで、まあ、要は黒い霧に包まれ前が見えづらくなるというわけだが……

湧き出した暗黒の霧に頭から突っ込むコウモリ獣。

デバフ発動：コウモリ獣は視覚異常。

前の見えないままに霧を突っ切り、俺の右腕に噛みついた。

カプリ

痛い。

チューチュー

やめろ。人の血を勝手に吸うんじゃない。

俺は右腕に噛みつくコウモリ獣を左手で取り押さえ、地面に叩きつける。懐から取り出した包丁でもって、そのまま突き刺した。

うーむ……スライム獣とは異なる。哺乳類を突き刺す独特の柔らかい感覚。さすがにこれは慣れるまで気持ち悪くはあるが……

突き刺す包丁をグルリ捻ると同時。コウモリ獣は煙となり消えていた。

やれやれ……肉を切らせて骨を断つ。さすがは攻略読本。完璧な対処法である。

俺は品川ダンジョンで購入、半分残っていたポーションを傷口に振りかけ自画自賛する。

「おにいちゃん。そのやり方じゃ無理じゃないかなー？」

いったい何が無理なのか？　攻略読本どおりの対応。動きの早いコウモリ獣を倒すに完璧な手順ではないか？

「だって、ほら」

天井を指さすイモ。その先には３０を超えるコウモリ獣がぶら下がって見える。

いやいや……確かに集団行動していることが多いとは書かれていたが……少々多すぎではないだろうか？

誰も立ち入る者のない自宅ダンジョン。モンスターを退治する者もいないため、繁殖し放題だったというわけか？

「とりあえず発動。暗黒の霧」

俺の手先からモワモワ広がる暗黒の霧は洞窟内に広がり、天井にぶら下がるコウモリ獣を覆い隠していく。

暗黒の霧に包まれるその間、相手の視覚を阻害し続けるわけだが……

デバフ発動：コウモリ獣は視覚異常。

天井を離れたコウモリ獣は暗黒の霧を意に介せず、標的を見つけたとばかり一斉に俺を目指し降下していた。

まあ、さっきのコウモリ獣もそうだが……やっぱりそうなるよな……

だいたいさあ……初戦の相手がコウモリ獣とは俺に対する嫌がらせか？　コウモリといえば超音波で有名な相手。コウモリ相手に霧で視覚を阻害したところでまるで意味がないではないか。

仕方がない。えーと。１匹を倒すのに１回噛まれて血を吸われるとして……１回に吸われる血液量は何ＣＣだ？　血液の３０％を失うと生命の危険性があるとして、俺の体重を考えると……

「おにいちゃん。動かないでよ？」

必死に計算する俺をよそに、イモは右手を掲げると。

「連鎖電撃」

ビシャーン　バリバリバリー

右手を発する電撃がコウモリ獣に命中。そのまま俺の周囲を飛び回るコウモリ獣３０匹まとめて電撃が連鎖、貫通していた。

マジかよ……もしも俺にまで電撃が跳ねていたら……

「ちょー怖いのだが……」

「だいじょうぶ。フレンドリーファイアだもんねー」

感電し地に置ちたコウモリ獣が３０匹まとめて魔力の煙に変わると、イモと俺の身体へ吸い込まれていく。

身体が熱い。これが魔力の奔流。モンスターを倒して得られる経験値。

イモが全て倒したにもかかわらず、得られる経験値はパーティで等分割される。もっともいくらパーティだからといって、戦闘に何も貢献しないのでは雀の涙程度の経験値しか分割されない。

暗黒の霧。意味がないとはいえコウモリ獣相手に視覚異常のデバフを与えていたため、問題なく等分割されたというわけだ。

しかし……ただお手付きしただけ。何の役にもたっていないのに経験値だけ掠め取るとか……

これが野良パーティなら俺は袋叩きの上パーティ追放されても文句は言えないヒドイ地雷野郎。相手が身内のイモで助かったというわけで……

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■Dジョブ：暗黒魔導士（ＳＳＲ)　ＬＶ２（↑１ＵＰ）

・スキル　：暗黒の霧（視覚異常、聴覚異常）

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ジョブのレベル上昇にともないスキルが強化される。暗黒魔導士ＬＶ２になったことで、暗黒の霧に聴覚異常の効果が加わていた。

「む？」

全てのコウモリ獣を退治したかに思ったがまだ１匹残っていたようで、しょうこりもなく天井から俺を目がけて降下する。

「発動。暗黒の霧ＬＶ２」

湧き上がる暗黒の霧に空中から突っ込むコウモリ獣。

デバフ発動：コウモリ獣は視覚異常。

デバフ発動：コウモリ獣は聴覚異常。

ドカーン

その勢いのままに俺の足下。地面へ勢いよく激突していた。

ふっ。これがＳＳＲにして総合評価９．５点となる暗黒魔導士の実力。

コウモリ獣が超音波を感知する耳。その聴覚を阻害することで地面との距離感の狂った結果、やつは地面に激突。自滅したというわけだ。

「おー。おにいちゃんすごーい！」

「やれやれ……真の強者は戦わずして勝つもの。直接に武器を振るうなど蛮人のやることよ。イモも覚えておくと良い」

「あ。でもまだ動いてるよ？」

地面に激突したコウモリ獣。羽をモゾモゾ再び飛び立とうとしていた。

ファック！　嫌がらせか？　せっかく俺が格好良く決めたというのに……

「しねー！」

ブスリ。包丁を突き刺し始末する。

とにかくこれで付近のコウモリ獣は全て片付いた。