第13話 え? だってイモの部屋にダンジョンあるよ?
「え? だってイモの部屋にダンジョンあるよ?」
……もちろん知っている。
本来であれば発見したダンジョンは国に報告。ダンジョン協会の調査の後に土地も含めて国が買い上げ。競売にかけられ民間の企業ダンジョンとなるわけだが……
俺はいまだ国にダンジョン発見を報告していない。
あの自宅ダンジョンは親父をこ……親父の死んだ場所。正当防衛だろうが緊急避難だろうが親父が死んだことに変わりはない。
であればイモの嫌な記憶が薄れるその時まで、しばらくはこのまま触れずにおくのが最良だろう。
別にダンジョンが存在するからといって周囲に何の害もなく、ダンジョンのモンスターが外に出るといった事態も報告されていないのだから。
「イモもしばらくは親父のこと。思い出したくはないだろう?」
「え? もうあんな男のこと、イモは何も気にしてないよ?」
「へ? そうなの?」
「うん。だから、おにいちゃん。一緒に自宅ダンジョンへ行こう。イモも一緒にお金を稼ぐんだから」
「いやいや。イモはまだ14歳だろう?」
ダンジョン探索証の発行は満16歳から。残念だが兄妹でパーティを組むことはできない。
「だいじょうぶ。だってイモの部屋だもん。自分の部屋の地下に降りるだけだもん」
屁理屈ではあるが……実のところ確かに入れないことはない。
ダンジョン探索証がなければ入れないというのは、あくまでダンジョン協会の管理する公営ダンジョンや企業ダンジョンの話。
まだ発見の報告されていない野良ダンジョンは規制の範囲外となる。そうでなければ、いつ何処に突然現れるか知れない野良ダンジョン。巻き込まれた民間人が処罰されることになる。
「しかしだな。探索証が必要なのには理由があって……危険なんだぞ? 素人が準備もなしに入っても死ぬだけだぞ?」
「イモ素人じゃないよ? ジョブだってあるもん」
そういえば……イモは落ちた時にスライム獣をお尻で踏みつぶし、ジョブを獲得したのだった。
それでも問題はある。
イモは簡単に一緒に行くというが、俺はSSRにして総合評価9.5点の暗黒魔導士。生半可なジョブを獲得した所で俺の足を引っ張るだけの存在にしかならない。
残念だが、イモにはお留守番してもらうほかないというわけだが……
「ちなみにイモはどのようなジョブを獲得したのだ?」
「
全く聞き覚えのないジョブだが……まさか……
慌ててページをめくるも案の定。100パーセント攻略読本に記載のないジョブ。つまり、いまだ習得報告のない未知のジョブ。
「マジかよ……」
「マジだよ? って、おにいちゃん? 何をそんなに驚いてるの?」
俺また何かやっちゃいました? なキョトン顔を披露するイモだが……
通常、ジョブの最高レアは
だが、世界広しといえど同じ物は存在しない。世界に1つだけのジョブ。それが
例え獲得しようとも他には漏れ出ない情報となるため、URにどのようなジョブが存在するか分からないが……1つ判明しているのは俺のライバル。ダンジョンランカー
「イモ。その
「んーとね。雷を操る能力だよ。指先からビシャーンってやるの」
イモは右手の指先を銃を引くよう構えて見せる。
雷か……俺のゲーム脳で考えるなら、どう考えても強い予感がするその能力。しかし……待てよ?
俺は、目の前でふんすと意気込むイモを見つめる。
俺のパーティメンバーに相応しい条件といえば──
・1つ。SSRもしくはSRのジョブを習得していること
イモが持つ雷轟電撃はUR。SSRよりさらに希少なジョブであるからして、条件はクリアしている。
・1つ。俺に絶対服従であること
イモはお兄ちゃん大好きっこである。たぶん。
俺の言う事を守ってくれるはずだからして、余裕のクリアーである。
・1つ。可愛い女性であること
イモは世界で一番可愛い。圧倒的にクリアーである。
マジかよ! とても無理だと思っていたパーティメンバーが、今、俺の目の前にいるではないか!
「……イモ。お兄ちゃんと一緒にダンジョンに潜るか?」
「おー!」
念願のパーティメンバーゲットである。
「それじゃパーティ結成の儀式をするぞ」
「なにそれ?」
ジョブは人知を超えた超常能力。ダンジョン内でジョブを持つ者同士が意識を共有することで、以下のメリットが得られる。
・お互いの体力、魔力を把握できる。
・退治したモンスターの経験値を等分割で獲得できる。ただしモンスター退治に貢献していない場合の配分はスズメの涙となる。
・お互いの攻撃によるダメージを緩和する。
ダンジョン協会では、これら意識を共有した集団をパーティと定義付けていた。
ゲーム脳で考えるならHPとMPが見える。パワーレベリングが可能となる。フレンドリーファイアが緩和されるというわけだ。
「おー。なんか面白そう。どうやるのー?」
「お互いの手を繋ぐ。イモ。ほら」
俺の差し出す手を、ちゅうちょなく握るイモ。
「よし。アクセプト。イモ」
「お? おぉぅ!?」
アクセプトには承認して受け入れるという意味があり、パーティリーダーである俺の呼びかけにイモが応えたことで、パーティが完成する。
「へー。おにいちゃんを感じる。なんか不思議な感じー」
確かにいつもより近くにイモを感じる。パーティを組むのは初めてだが、これが意識を共有するということか。
つないだ両手が暖かい。
自宅ダンジョン。イモには親父のことを思い出したくないからとしか言っていないが、本来、野良ダンジョンを発見した者には報告の義務があり、探索者が違反した場合は罰則もある。
だとしても……親父のゾンビを殺して間もない自宅ダンジョン。今、野良ダンジョンを報告したなら即座にダンジョン協会の調査が入り、発見当時の事情を根掘り葉掘り探られる。
ダンジョン協会の調査員。相手の嘘を看破するスキルを有する者もいるというのだから、しばらくは報告するわけにはいかない。
時とともに過去の記憶は薄れゆき、嘘も何もなくなるその時まで……
そうなればイモの親父殺しの罪は消えてなくなり、後に残るのはただ俺の罪だけ。野良ダンジョンをすぐに報告しなかったという、野良ダンジョン隠匿罪。
探索者でない者はそれがダンジョンであると判別できないため、罪には問われない。探索証を持たないイモには、何の関係もない話なのだから。
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