第12話 よし。イモ。お兄ちゃん行って来るぞ!
俺がパーティメンバーを集めるにあたっての条件。
基本的に他人のジョブを窺い知ることは出来ない。ジョブを獲得した本人だけが、その名称、どのような能力を持つのかを本能で理解する。
よって、自己申告を信用するしかないわけだが……仮にジョブとして奴隷ジョブを獲得した者が素直に申告するだろうか?
そもそも何故に奴隷などというジョブが存在するのかというところだが……まあ、言っても仕方がない。
もちろん本来と明らかに異なるジョブ。例えば奴隷が魔法使いを自称しようものなら、おめー魔法使ってみろよ? と即座に嘘が判明する。
しかし、奴隷が戦士を自称しようが、どちらも身体能力でもってゴリ押しするジョブであるため、明確に判別するのは難しい。
ダンジョン協会が管理するデータベースには探索者各人のジョブが記録されているというが、個人情報がうんぬんかんぬんで部外者が知ることは無理である。
例外的に他人のジョブを覗き見できる諜報員などのジョブも存在するが……当然、俺には無理である。
ふむむ……早くも挫折しそうであるが、まあ次だ。
俺に絶対服従であること。か……これも簡単なようで難しい。
本来であればSSRにして総合評価9.5点の暗黒魔導士に従うのは当然の話。俺がパーティメンバーを募集しようものなら、誰もがこぞって俺の下へ馳せ参じてもおかしくはないのだが……
俺がSSRで最強の天才暗黒魔導士であるのはダンジョンの中での話。ジョブの活動には魔素が必要となり、ダンジョンを出たジョブは本来の力を発揮しない。
つまりはダンジョンを出た俺はただの高校生。世間一般でいうなら、まだまだケツの青い生意気なガキでしかない。
おまけにダンジョン経験も乏しく、というか養殖場でスライム獣をつついた程度のダンジョン素人。いくらジョブがSSRと言われようとも、そのような青二才の素人をリーダーとして従う探索者がいるだろうか?
仮に今の俺がマウントをとれるとするなら、俺より年下でダンジョン未経験。世間知らずで温室育ちの甘ちゃんだけだろう。
なかなかに世間の波風は厳しいもの……まあ最後。
可愛い女性であること。か……
なんだこれは? 驚くほどに難題ばかりではないか……
まずもってダンジョンにおいては、女性探索者それ自体が希少な存在。
駆け出しのうちこそ東横キッズが多数存在するが、ある程度のベテランとなればその数は一気に減少する。
何せダンジョン探索は、きつい、汚い、危険の3K職場であるのに加え、力仕事とあって女性向きの職場とはいえない。これは男女における生来の肉体的強度の問題。戦場の最前線において男性が圧倒的に多いのと同じ理屈である。
そんな中、女性でダンジョン探索を続ける者がいるなら──
それは男女の肉体的問題を越える能力を得た者。すなわち希少なジョブを獲得した者くらいである。
そんなわけで女性探索者は当然の如く取り合いであり、特に若くて可愛い女性となれば尚更。わざわざ素人青二才である俺のパーティメンバーになろうという奇特な女性探索者など居ようはずがない。
むぐぐ……無理難題すぎる……
せっかくSSRのジョブを得たというのに、パーティメンバー集めの段階で苦戦を強いられるとは……
となれば、もう1つ。全く異なる選択肢として、俺が他人のパーティに入るという選択肢もある。
何せ俺はSSRにして総合評価9.5点の暗黒魔導士。名乗りを挙げれば声をかけるパーティは間違いなく存在する。
しかしだ。品川ダンジョンに多く存在するリストラおっさんパーティや、東横キッズパーティに俺が入ったところで、上手くやっていける自信はまったく存在しない。
仮にリストラおっさんパーティに加入したなら、最年少の俺は便利な小間使いとして奴隷のようにこき使われる。そして仮に東横キッズパーティに加入したとして、陰キャの俺が陽キャの中で上手くやっていけるはずがない。
……仕方がない。危険ではあるが、とりあえずはソロで行動するしかないか……
だが、俺はパーティ結成を諦めたわけではない。先ほどの考察で俺はメンバー集めの突破口を見つけていた。
それは、「SSRにして総合評価9.5点の最強天才暗黒魔導士がパーティメンバーを募集するなら、誰もがこぞって俺の下へ馳せ参じるであろう」という点。
これに関しては事実。例えダンジョンを1歩でればクソザコ高校生であっても、ダンジョン内で最強となれば人は集まる。
問題となるのは、今の俺がまるで最強ではない点。実戦もまだ経験していないジョブLV1のクソザコ暗黒魔導士という点にある。
ジョブは獲得しただけでは意味がない。モンスターを退治して魔力を吸収。ジョブLVを上げてはじめてその力を発揮する。
LV1のクソザコ暗黒魔導士である俺の元には誰も集まらないが、LVを上げて天才暗黒魔導士となった暁には、パーティメンバーを希望する者が大挙押し寄せるはずである。
後はその中からSSRもしくはSRのジョブを持った可愛い女の子を厳選すれば良いというわけだ。
よし。やるべき道筋は見えた!
まずは品川ダンジョンのモンスター養殖場でスライム獣を倒してジョブLVを上げる。ジョブLVが2となってから自由狩場に挑戦してみるとしよう。
そうと決まれば、俺は自室で探索用装備を整える。
包丁1本。ロープ。手袋。水。携帯食料。懐中電灯。ライター。昨日買って半分残ったポーション。
そして忘れてならない100パーセント攻略読本。これらをリュックに入れて背負い、バットを手に取り準備完了。
デパート勤務の母は日曜日も仕事であるため、イモに留守を任せて出発である。
「よし。イモ。お兄ちゃん行って来るぞ!」
「あれ? おにいちゃんどこ行くの?」
「むろん。品川ダンジョン。今日こそはお金を稼いでお土産にお菓子を買ってくるから留守番を頼むぞ」
「えー? なんでわざわざ?」
何でと言われても、自宅から近いお勧め公営ダンジョンが品川ダンジョン。他に選択肢は存在しない。
「え? だってイモの部屋にダンジョンあるよ?」
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