第10話 付与術師、竜の巣へ

 俺たちは早速洞穴の中へと入ることにした。

 入り口は大きく作られており、緩やかな下り坂が続いている。中は森の中に入ってくる陽光も少ないため闇のように真っ暗である。


 俺はそこら辺に落ちていた木の棒に燃えやすい布の素材を棒の先に付けて松明を完成させた。

 さて、後は火を付けるだけだが……


「使います?」


 ベリルに声をかけられ後ろを振り向くとベイルはもう松明を用意してくれていた。


「あ、ありがとう」


 あれ? 作るの早すぎじゃない? それに火も灯っているし……

 ベリルは器用な子なんだと思いながら、俺はベリルの松明から火を貰った。

 準備が整い、洞穴の中へと下っていくと直ぐに平らな地形へと出た。

 松明の明かりで辺りを照らす。まっすぐに作られた通路には3本の指がついた小さな足跡がついていた。


「この足跡はベビードラゴンの足跡です。この先に卵があるかも知れません。先へ進みましょう」


「分かった。行こう」


 更に通路の奥へと進んでいくと通路よりも開けた場所へと出た。そこには2本足で立つトカゲのような顔、身体よりも長い尻尾をした魔物が5、6体眠っていた。


「居ました。あれがベビードラゴンです。ウィリオさん、奥の方見てください」


 ベリルに指されてみた先には赤い斑点の模様をした卵が1個置かれていた。あれこそが今回のクエストに必要な納品物であるベビードラゴンの卵だろう。

 しかし、卵の周りでベビードラゴン達が眠っているため、取りに行くには静かに行動する必要がある。


「ウィリオさん、私が入り口の警戒をしておきます。なので、ウィリオさんが卵をお願いしても良いですか?」


 そう来たか。まぁ、ミリアからは俺が卵を持つ様に確かアドバイスでは言われていたからな。勿論、俺が卵を持ってきますぜ。


「ああ、わかった」


 そうと決まれば、早速ここで付与術師としての力を見せる時が来たぜ。俺は立ち上がり、自身の足へ向けて魔法を詠唱する。


「風の精霊よ、我足に無音の加護を与えたまえ。【隠密スニーク】」


 すると、俺の足にはまるで霜がかかったように白い靄がかかる。これは人間に対して付与する探索の初級魔法だ。

 この魔法は一定時間の間、足音が鳴らなくなるという力を持っている。寝ている魔物や音を立てずに進むべき場所などに有効な付与魔法である。


「じゃあ、行ってくる」


「き、気をつけてください。あと、な、


「? ああ、わかった」


 俺は言われた通り早足でベビードラゴン達の元へと向かう。流石は【隠密】、普通に歩いても一切音が立たない。

 俺が付与術師じゃなかったら結構苦戦してたぞ。ミリアの時はきっとベビードラゴンと一戦交えたんだろうな。

 だって、アドバイスが戦う前提だったんだもん。

 俺はベビードラゴンが寝ている隙間を歩き、卵の場所へとやってきた。卵は俺の腰ぐらいまである。


 中々でかいな、担げば……お、一応大丈夫か。


 俺は卵を担ぎあげ、またゆっくりと歩き始める。さて、まだ【隠密】の持続時間も余裕があるし、後は来た道を真っ直ぐ帰れば……


 そう思い一歩足を踏み出した時だった。1体のベビードラゴンが寝返りをうち、尻尾を俺の通る経路に乗せてしまったのだ。

 そんなことも知らずに俺は卵を運ぶその足を止めずに進み、見事にその尻尾を踏んでしまった。


「ぴぎゃ――ーーーー!!!!」


 部屋中に甲高い鳴き声が木霊する。ベビードラゴンの鳴き声によって寝ていた別のベビードラゴン達が次々と起き出した。


 やっちまった……


 俺は直ぐにその場から離れようと一目散に出口の方へと走った。しかし、ベビードラゴンの俊敏さは高く、逃げ道は直ぐに2、3匹のベビードラゴンによって封鎖されてしまった。

 到頭、俺はベビードラゴン達に囲まれてしまい逃げ場を失ってしまったのだ。


「やるしか無いのか」


 俺は卵をその場に置き、剣を構える。

 四方八方に敵がおり、俺は周囲全てに気を配らなければ行けなかった。

 早速、ミリアの言っていたアドバイスを破る事になってしまったが、こうなってしまったらもう止むを得ない。

 ベビードラゴンは俺を見て、威嚇をし続けている。そりゃ、寝ている時に急に尻尾踏まれて起こされたら誰だって怒るわなそりゃ。けれど、俺たちにもクエストを全うすると言う大事な用があるので申し訳ないけど竜の御守は勘弁して貰いたい。

 俺が剣を鞘から抜こうとしたときだった。出口の方から勢いよく飛びかかってくる影が見えた。

 そして、出口付近に居たベビードラゴンの首が突然書き切られ、力なく倒れて絶命した。


「ウィリオさん、大丈夫ですか?」


 1体のベビードラゴンを倒し、包囲網の中へと入ってきたのはベリルだった。ベリルの手にはロングソードが握られており、自身の身体よりも大きいその武器を片手で持っていた。


「あ、ああ大丈夫だ」


「援護するので逃げましょう」


 そう言うとベリルは大きく息を吸い込む。そして、一気に口の中にあった空気を吐き出すと何とその空気は紅く染まった火炎へと変わり、火炎はベビードラゴンたちを飲み込んだ。ベビードラゴンはベリルの攻撃によって苦しみ暴れ回リ始めた。


「今、今のうちです! 卵を一緒に!」


「分かった!!」



 ☆☆☆☆☆



 俺とベリルはベビードラゴンが炎によって苦しんでいる間に卵を担ぎ上げて、この場所をから逃げ出した。

 巣の入り口へと戻ってくると俺たちは卵を一度地面へ下ろした。


「た、助かりました……」


 ベリルはほっとした様子でその場に座り込んだ。

 安心しているベリルだが、俺は色々と驚いていた。まず、それらを確認しないと。


「な、なぁベイル。君って火が吹けるのか?」


「あ……えっと」


 ベイルはもじもじとしながら、何かを言いたげな様子だったが凄く恥ずかしそうにしていた。何だろう、コンプレックスでもあるのだろうか?


「嫌なら言わなくても良いけど、信じてくれ。俺は人の生い立ちを馬鹿にするような人間じゃないから。それに折角一緒にパーティを組んだ仲なんだ。俺は君と仲良くなりたい」


「な!? 仲良く!?」


 俺の言葉を聞くとベイルは更に顔を真っ赤にした。そして、更にもじもじをし始めてしまった。

 あれ? 何か変なことを言っただろうか。

 俺はベイルの隣りに腰を下ろし、ベイルの事が離しやすいように先に自分の話を始めた。


「実は俺、家族から絶縁されたんだ。レイドールって言う家で生まれて、魔法の才能が無いとかどうとかで突然親父から家から出て行けって言われてさ。そんで、ガミジンに向かってくるときも魔物に襲われて、死にかけて、不運続きだったさ」


「レイドール……名前だけは分かります。それは災難でしたね」


「ああ、でももう良いんだ。何か俺にも出来そうな事見つけられそうだし」


「それが、剣なんですか」


「……まぁそういうことだな」


「……」


 俺のことを話したら黙り込んでしまった。あれあれ? もっと良くない方向に進んじゃったかな? 話重かったかな?

 そう思っているとベリルは立ち上がり、顔を真っ赤にして俺の方を見た。


「ぜ、絶対に笑わないって……や、約束してくますか?」


「ああ、もちろんだ」


 俺の言葉を聞いてベリルは大きく深呼吸をすると今まで頑なに被っていたフードを外した。

 すると、今まで隠れていたベリルの顔がしっかりと見えるようになった。

 綺麗な赤いショートヘアは右目を隠していた。そして何より目に入ったのは岩のようにゴツゴツとした角が2本、ベイルの頭に生えていたのだ。


「わ、私……実は竜人なの。この大きい角があるのもそうだし、お尻に尻尾だってある。昔、これで人にいじめられてから人前で自分の姿を見せるのが恥ずかしくなっちゃって。竜人だってばれたくなかったら極力ばれないようにしてたけど、初めての人と一緒のクエストで遂調子にのっちゃって火とか吐いちゃった」


「そうだったんだ。じゃあ、あの時松明に火を付けたのは」


「私が火を付けたの、息吹で」


「ベビードラゴンの場所がわかったのも」


「同じ竜種だからベビードラゴンの場所を感じ取ったの」


 つまり、今回のクエストはベリルが大活躍だったと言うことか。しかし、ベリルはまるで後悔したかのように目線を下に落としていた。


「やっぱり、変ですよね……竜人がここに居て」


「変じゃないよ!!」


 俺は気がつくと叫んでいた。


「変じゃない。寧ろ今日君と組めてありがたかったよ! 色々助けて貰ってさ。それに、言っただろ俺は人間だろうが異種族だろうが何も馬鹿にしないって。だからさ、勇気出して言ってくれて嬉しかったよ。ありがとう」


「……くすっ、初めて言われましたよ、そんなこと」


 ベリルは笑顔でそう言った。その微笑んだベリルの顔はなんとも可愛らしい顔をしていた。

 やっぱりミリアもそうだが、女の子は笑顔で居て欲しいよな。


「さて、じゃあ長話も何だしそろそろ……」


 そう言いかけたときだった。

 ミリアが大空を見上げ、何か警戒し始める。


「待ってください……これは……不味いかもです!」


 そう言うと急に大きな風が吹きあられ、俺たちを襲う。


「な、何だ!?」


「き、来てしまったかもです……親が!!」


 俺は上を見上げるとそこには上から大きな羽根を羽ばたかせながらゆっくりとここへ降りてくる竜が見えた。その大きさはベビードラゴンの大きさの一回りも二回りも大きな竜である。

 そして、その竜は地面へと降り立ち、俺たちの方をギョロリと大きな目で睨んだ。


「話をしすぎちゃいましたね……ここの巣を作った親である竜が来てしまったようです。あれこそがC級の魔物、ドラゴネットです」


 こうして俺たちの目の前にベビードラゴンの親であるドラゴネットが姿を現してしまったのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後までお読み頂きありがとうございます!


「面白かった!」


「次回も頑張って欲しい!!」


「続いて欲しい!」


もし、以上の事を少しでも思ってくださいましたら是非評価『☆☆☆→★★★』して頂く事やブックマーク登録して頂けるとモチベーションが高まります!

それでは次回作でお会いしましょう!


※現在書き溜め中の為、投稿を止めさせて頂いております。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る