第9話 付与術師、E級昇格試験へ
俺達は早速ギルドから昇給試験の依頼を受けた。E級へ昇格をするための試験の内容は『ベビードラゴンの卵の納品』だった。
ベビードラゴンとはドラゴネットの幼体である竜種の魔物である。ベビードラゴンはドラゴネットからレッサードラゴン、そしてグレータードラゴンと身体の大きさだけではなくその凶暴さも進化していく。
今回はその竜種の中でもE級と低ランクなベビードラゴンの卵を1つ以上納品することが今回の依頼である。
ベビードラゴンの卵はギルド内ではかなり美味であると言う話を聞いてそれはそれはかなりギルドの食事が楽しみになった。
ベビードラゴンの生息地はここガミジンから南西に位置する
俺達はギルドが出してくれた荷馬車に乗り、暗闇の大森林へと向かった。
現場へ向かったのは俺とベリルの2人だけ向かうことになった。ミリアは今回はお留守番である。
クエストに向かう前にE級冒険者であるミリア先輩からアドバイスを頂いていた。
『良い事? ベビードラゴンは複数体で居ると厄介だけど単体だけなら危険は少ないから戦術はしっかり工夫することよ! あと、卵はちょっと大きいからウィリオが持ってあげてね!』
だそうだ。なんともまぁ頼もしい助言で……参考にさせて頂くことにした。
俺たち2人は馬車の荷台に揺られながら暗闇の大森林を目指している。
ベリルは相変わらず俯いたまま、フードを深く被って俺の顔を見ようとはしなかった。
うーーん、何か気まずい……ミリアみたいに
折角一緒にクエストを行うのだから少しくらい話をして親睦を深めておいた方が良いんじゃ無いかとか、いざ話かけるとして何を離せば良いのかとか、頭の中でそんな思考がぐるぐると渦巻いていた。
「あ、あの」
そんなとき、先に声をかけてくれたのはベリルだった。
「すみません、私なんかと一緒に試験を受けてくださって……」
「そんなことないさ、俺も丁度試験を受けたかったから」
「そ、そうですか」
はい、これで会話は終了してしまいました。また、お互いの間に沈黙が生まれる。
俺は頑張って話題を絞り出して、話を続けることにした。
「そう言えば、ベリルはどうしてE級試験を受けたかったんだ?」
「あ、えっと、F級のクエストだけじゃ報酬が安いから……」
「ああ、そうなんだ……」
「……」
「……」
「そう言えばベリルの職業って何だ?」
「私は一応剣士です」
「そうか、俺はこう見えて付与術師なんだ」
「そ、そうですか」
「……」
「……」
またしても会話が続かず! 不味いな、でも下手に会話をして地雷を引いたらクエストが始まる前に不仲になってしまいかねない。
こう言う会話スキルをもっと鍛えておくべきだったな。でも、田舎暮らしの俺に話をする相手など母親か弟くらいだったから俺の出生を呪うよ、色々と。
「あ、あの、ウィリオさんって付与術師なんですよね?」
お、話しかけてきてくれた。ベイルから話しかけられるとちょっと嬉しい。
「ああ、そうだけど」
「なんで、剣を持ってるんですか?」
「ああーー、えっとそれには深い事情があってね」
「……そうなんですか」
「うん」
「……」
「……」
結局、悶々と会話をしないうちに試験会場に到着してしまった。
俺たちは馬車の荷台から降りて、周囲を見渡した。矢張り、名前の通り薄暗い森の中と言った様子だ。
上を見上げると複雑に入り組んだ木々の枝や厚い葉っぱによって陽光が遮断されている。
足場も蔦が足を絡んだりして悪そうだ。この森に入ったら注意して進んだ方が良い。
あと、俺たちパーティは2人と少ない。その人数不利な状況も加味して先へと進もう。
「じゃあ、行くとするか」
「は、はい」
俺たちはギルドの馬車から離れ、ベビードラゴンが住んでいそうな場所を探る探索へと出た。
草木をかき分けながら、足場に注意して慎重に進んでいく。
聞き耳を立てながら魔物が近くにいないかなどの警戒も怠らない。
暗闇の大森林は広大な土地の広さによってF級やE級などの低ランクの魔物に加えそれオーバーランクの魔物さえいるのだ。E級試験だからと言ってもそれなりの危険が伴っている。
俺たちがいるのは森の入り口付近だから、まぁ余程運が悪くない限りオーバーランクの魔物と鉢合う事は無いだろう。
間違っても森の奥深くに入らないように気を付けることも冒険者としての必須スキルだ。
少なくとも俺たちの中でそんなへまを起こす奴なんているわけが無いと信じているが……
森の中を探索すること1時間くらいが経過した。
未だにベビードラゴンが潜んでいそうな場所は見当たらなかった。今日のクエストは長期戦になりそうかもしれんな。
俺がそう思っていた時だった。ベイルの歩みが突然止まった。
「おい、どうした?」
「……感じる、こっち」
そう言って右側の方向を指さした。
ベリルは指さした方向に突然歩き始めたので、俺も後ろを追うようについていく。
ベリルの足取りは軽く、まるで何かに導かれているかのように森の中を進み始めているようだった。
俺は不思議に思いながらも黙ってベイルの後ろについていった。
ベリルの後をついていくと地面に大きな洞穴が出来ていた。
「多分、ここにベビードラゴンが居る」
「本当か?」
ベリルはこくりと頷く。まさか、時間が掛かると思っていたがベイルが見つけてくれたのは正直驚きだった。
「良く見つけたな! 凄いぞベイル!」
「いや、その、えへへ」
俺が褒めるとベリルが少しだけ笑みを見せてくれた。その時、ベリルの腰辺りが何か動いた気がしたが、そんなことよりもベリルが少しでも表情を表に出してくれたのが嬉しかった。
さて、早速ベビードラゴンの巣だと思われる洞穴の探索を進めようか。
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