第7話 付与術師、試し切りする
ディドリーの後ろについて行くと、武具屋の裏庭へと出た。
ここには訓練用の畳表を着ける台座や練習用の木偶坊が複数個並べられており、地面にはロングソードやスピアなどが雑多に転がっているのが見える。
ディドリーは小屋から畳表を担いで持ってくると、台座へと乗せる。
「さぁ、切ってみろ」
俺はディドリーから貰ったロングソードを見る。何の変哲もないロングソード。
ただ違うとすれば、ミリアのショートソードよりもかなり重くなっているところだけだ。
「ウィリオ、見せちゃってよ!」
後ろでミリアが応援してくれていた。正直、自身は無い。
ダンジョンでの時は、勢いとミリアを助けなければならない夢中な思いで行った咄嗟の行動だったから出来た偶然の事だったのかもしれない。
だが、もしそれが必然と出来た事だったとしたら?
俺はゆっくりとロングソードを鞘から抜き、畳表の前へと立って構えた。
上から風が吹き、静かに構える俺の頬を撫でる。
俺は深呼吸をして、呼吸を整える。
すると、ダンジョンでの
そして、俺は剣を到頭思い切って振った。
一迅の風と剣の刃が振れる音が重なり合う。剣は水平に振られ、畳表に触れた。
切れた音はせずにそのまま俺は剣を振り切る。
一瞬の静寂の後に俺はゆっくりと剣を鞘に納めた。
こんな感じで良いかな?
「も、もしかして、空振りしちゃった!?」
思わずミリアが頬に両手を付けてショッキングな顔を見せていた。しかし、冷静に見ていたディドリーだけはまるで何か面白いものを見たかの様に興奮した表情を見せた。
「いや、そうじゃない……」
その時、訓練場に一迅の強風が吹く。
ウィリオの目の前にあった畳表が風に靡かれた時、畳表が真っ二つに切られて地面に倒れた。
「嘘? 切れてる?」
ミリアは驚き、開いた口が塞がらずにいた。
「切れてたんだ……だけど、早すぎて、切れていた畳表が畳表の上に乗っていたんだ」
切れた畳表は風によってどこかへと転がっていく。
俺は再び剣を見て、自身の動きを思い出す。
今の動き、やっぱりどこかで……そう考えていた時、横から拍手が聞こえた。
「まさか、ここまでの力とは凄いよ。本当に素人か?」
拍手をしながら歩いてきたのはディドリーだった。
「あんた、付与術師って言ったか? 面白いよ、こんなに剣を使いこなす付与術師なんてあたしは見た事ないからねぇ……うん、気に入った。おいミリア、あたしはこいつの為に剣を打ってやることにする」
「……あ!? え!? 本当!?」
ミリアは我に返り、嬉しそうな顔をする。
「ああ、こいつの実力は分かった。しかも魔法まで使えるってことは……こいつは将来有望な剣士になるぞ」
ディドリーはニヤニヤしながら俺の身体をまた嘗め回すように見る。
じっくりと見た後、腕組みをして考え始めた後、口を開いた。
「うーーん、お前さんはやや細めの身体をしているからロングソード向きではないな。だとすると、ミリアと同じタイプのショートソードだな。剣の動きも速さに特化しているから軽いものが良くなじむだろう」
「俺の身体からそんなに分かるのか?」
俺が驚いているとディドリーが笑う。
「はっはっは! あたしは人の身体を見るだけで、その人に合った剣を作ることが出来るのさ。これが長年の職人の経験ってやつかな」
ディドリーは訓練所から鍛冶場へと戻ると、一本の棒状の金属を持ってくる。
「こいつは鋼を棒状に加工したやつさ。最近加工した上等な鋼だ。この鋼でお前の剣を打ってやるよ」
「えーー!! いいなぁーー!! 私にも作ってよ!!」
「ミリア、お前にはもう素敵な剣を打ってやったじゃねぇか。それが悪くなったらいつでもお待ちしておりますので!」
「いいなぁ~ウィリオ」
ミリアは尻尾を振りながら羨ましそうにこちらを見ていた。
剣を貰うのは良いが話をしていて忘れそうになっていたことがあった。
「あ! 報酬貰ってこなきゃ!」
「ああ!! 確かに!!」
そう、俺達が頑張って成功させたであろうクエストの報酬をまだもらっていなかった。
貰いに行かなくては剣の代金も払うことはできない。
「まったく、こいつらは。あたしはウィリオの剣を作るからその間に用事は済ませてきた。あたしも爆速で作ってやるからな」
「分かりました! では、よろしくお願いします!!」
「あ、おーーい! ちょっと待ちな!!」
俺達が勢いよく外へと出ようとした時、ディドリーから突然、呼び止められた。
「剣ができるまでそこの樽の中に入った売り物のショートソード貸してやるから好きなの持って行きな」
ディドリーに指された方を見ると、大量のショートソードが入った樽があるのを見つけた。
「ありがとうディドリーさん!」
「おうよ! 剣、楽しみにしてろよ」
「うん!」
俺は樽からショートソードを一本取り、腰へ身に付ける。そして、俺達は一度ギルドへ報酬を貰いに戻るため、ディドリー武具店を去った。
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