第5話 付与術師、報告する

 俺はミリアをおんぶしながら、ガミジンへと戻って来た。

 ガミジンの中へと入り、俺は焦りながら駆け足で街の中をかけ走る。

 俺達はガミジンの人々から見られ、目立つのも気にせずギルドへと駆けこんだ。


「いらっしゃいませ……ってウィリオさんでしたか。一体どうかなされたのですか?」


 マリンの目の前まで走り、焦った表情を向けた。


「ミリアが怪我を!! 早く治療をしてください!」


「何ですって!? すぐに治療いたします!!」


 そう言いながら、マリンはすぐに受付の奥へと走って行った。

 ミリアを椅子に座らせると、受付の奥から初老の男が出てくる。


「どれ、見せてみなさい」


 男はミリアの足を手に持ち、じっくりと眺める。俺は隣で心配そうに見ていることしかできなかった。

 ある程度男はミリアの足の傷を見た後、傷口に向けて手を向けた。


「精霊よ、癒しの風を吹かせたまえ”治癒ヒール”」


 男が魔法を唱えると、手から緑色の風が生まれる。その風がミリアの足の傷に当たると傷口が塞がっていった。

 傷口が完全にふさがったのを確認すると男は笑みを見せた。


「ただの刺し傷だ。毒などの症状は見られなかったから安心しろ」


 男の言葉に俺は頭を下げた。


「ありがとうございます! あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」


「俺はドリドだ。ギルドで医者をしている。何かあったらいつでも俺のところに来い」


「ドリドさん! ありがとうございました!」


 ドリドはギルドの受付の奥へと戻っていく。それに合わせてマリンがこちらへとやって来た。


「ミリアさん! 大丈夫ですか!? 確か……お2人の受けたクエストは『ゴブリン10頭の討伐』でしたよね? 珍しいですね、ミリア様がゴブリン如きでこんな傷を負うだなんて……」


 マリンの言葉にミリアの尻尾の毛が逆立ち、釣り目になって受付嬢へと怒りを露わにした。


「私だっておかしいと思ってるわよ!! そのゴブリン如きが出てくるF級ダンジョンに入ったのにどうしてオーバーランクのゴブリンウォーリアーやゴブリンキングが居たのかしら!! 何がF級ダンジョンよ!! おかげで死にかけたんだから!!」


「オーバーランクの魔物が現れた? それは一体どういうことですか!?」


「それは僕が説明します」


 俺は改めて今回のハプニングについてマリンに事情を説明した。

 依頼を受けたときに教えてもらったダンジョンの場所と確かに同じダンジョンへ向かったが、そのダンジョン内でD級とC級の魔物と遭遇したことを話した。

 そして、遭遇した魔物によってミリアが怪我をしてしまったこともしっかり伝えた。


「……っと言う事なんです」


「ええっ!? てことはオーバーランクの魔物を討伐しちゃったってことですかぁ!?」


「ギルド側が間違えたんでしょ! 今回向かうダンジョンはF級じゃなくてC級辺りのダンジョンと間違えて教えたんでしょ!!」


「ちょちょちょちょっと待ってください!! そ、そんなはずはありません!! このダンジョンは前にしっかりダンジョン調査員たちが調査を行ったばかりなんですよ!!その時の査定もしっかりとF級だと認められているんです!!」


「じゃあ、そのダンジョン調査員たちが間違ったって可能性もあるじゃない!!」


 ミリアはもう既に怒りが頂点に達していた。そうなるのも無理はない。

 俺達は危うく殺されかけたのだ。ミリアもあの様子だと今まであまり失敗をしてこなかった人物らしいから、悔しいのも分かる。

 俺にとっては初めてのクエストだったんだが、トラウマにならなくて本当に良かった。


「まぁまぁ、ミリアも落ち着いて。ともかく、俺達はとりあえず生きていますし、クエストの報告に必要なゴブリンの素材も持ってきていますから一応、クエストはクリアと言う事で良いですか?」


「は、はい! そうですね……こちらでダンジョン内の確認と今回のクエストに必要なゴブリンの素材はこちらで確認いたしますので少々お待ちいただけますか? もしこれが本当のことなら重大な事態だと思われますので……」


「よろしくお願いします」


「ムキーー!! ちょちょちょちょっと!! まだ話は終わってないんですけどーー!!」


 俺は怒るミリアを制止しながら、ゴブリンの素材が入った袋を受付嬢へと渡す。受付嬢は袋を受け取るとすぐに受付の奥へと向かって行った。

 待ち時間が生まれ、俺はふくれっ面のミリアへと声をかけた。


「ミリア、足が治ってよかったな」


「ふん、まだ話は終わってないんだから」


「はいはい、そうだね」


「……ところでウィリオ、ダンジョンでのことだけどあれは一体どういう事なの?」


 ミリアは急に俺の方に向き直り、顔を近づけてきた。


「ど、どういう事って?」


「貴方、レイドール家の付与術士だったんでしょ? でも、私の剣を持った瞬間にまるで人が変わったかの様だったわ。しかも、あの身のこなしは素人の動きじゃなかった! 剣士の私が言うんだから本当よ! ウィリオはレイドール家で剣術とか習っていたの?」


 俺がレイドール家に居た時のことを思い出すが、1秒も剣に触れた時間など無かった。


「いや、剣術は習ってない。ずっと魔法について学んできたから」


「えぇーー!? てことはあの時って!?」


「初めて、剣を抜いたんだ……」


 俺の言葉にミリアは開いた口が塞がらない様子だった。

 少し硬直して黙り込んだ後、ミリアは椅子から立ち上がって俺の手を掴む。


「ウィリオすっごいよぉーー!! それってつまり才能ってことじゃないかしら!?」


 ミリアは目を光らせて俺を見つめる。ブンブンと尻尾を振り回して興奮状態だった。


「きっと魔法が使えない分、剣の才能があるってことなんだわ!! ええ、きっとそうよ!! でないとあんな動きできないわよ!!」


「才……能……」


 その時、俺はミリアの腰の剣を見た。

 俺が剣を持った時の感覚は確かに何か違う感覚だった。


 ミリアの言っていた俺の才能がもし、魔法ではなくて剣だとしたら、俺は……


 そう考えているとミリアは俺の手を引っ張る。


「そうと決まれば早速行きましょ!!」


「行くってどこへ?」


「武具屋よ! 私、行きつけの武具屋さんがあるからそこで剣を見に行きましょう!!」


「でも、クエストの報酬がまだ」


「それは武具屋に行った後でも大丈夫だからほら行こ!!」


 そう言ってミリアは俺の腕を掴んでギルドから外へと出た。

 そして、俺はミリアに腕を引っ張られながらガミジンの街中を歩くことになった。




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