第4話 付与術士、剣を持つ

 剣を持った瞬間、俺はどこか安心感を感じた。杖を持った時よりもどこかしっくりと来る。

 身体の底から熱くなるその感覚はまるで、剣と身体が一体化したかのように。


 ゆっくりと瞳を閉じて、俺は初めてここで魔法を詠唱する。


「炎の精霊よ、刃にその火の力を与えたまえ”火炎付与エンチャントファイヤ”」


 俺が魔法を唱え、剣の刃を手でなぞると、刃に炎の熱が付与された。剣は熱を帯び、燃え盛る炎の剣となる。

 これは俺が覚えている付与術師としての魔法の一つだ。

 俺はゆっくりと剣を構える。

 おかしい、初めて剣を持つのにどこか落ち着く。そして、杖を持った時よりも一気に集中力が上がっていく。

 荒かった呼吸が一気に落ち着き、視線は真っすぐと3体に向けられた。


「グギャギャーー!!」


 黙っていることに痺れを切らしたゴブリンウォーリアーの1頭がロングソードを向けて俺へと襲いかかる。


「来るよ!」


 後ろからミリアの声が聞こえた。

 しかし、俺は動じることは無かった冷静に、真っ直ぐに相手を見る。

 すると、俺から見た相手の動きがゆっくり動いているように見えた。


 遅い?


 振り下ろされてくる剣の動きが鈍く感じ、俺はそれを直ぐに避けた。


 遅い、遅すぎる。


 ゴブリンウォーリアーの単調な剣の動きを華麗に避けていく。

 そして、俺は一瞬の隙をついてゴブリンウォーリアーの胴体を切り裂いた。

 切られた瞬間ゴブリンウォーリアーの身体は真っ二つに切られ、傷口から炎が広がっていく。

 苦しく悶える前に魔物の身体は灰となってしまった。


 こんな動きは知らない。


 俺はレイドール家にいた時から剣など持った事がない。だから、俺は剣を振るった事もなければ剣術など習ったことがない。でも、どうして、どうして動けるのだ?


 もう1体のゴブリンウォーリアーが間髪入れずに襲ってくる。

 しかし、俺はそれを見切り、ゴブリンウォーリアーの懐に入って胸を串刺した。


「グゴォ……」


 俺はすぐにゴブリンウォーリアーから剣を抜く。

 力なく膝から崩れ落ち、そのまま傷口から火が広がりそのまま灰となった。


「す、凄い……」


 後ろでミリアが俺の姿を目を輝かせて見ている。しかし、俺はそんなことなど気にせず、目の前の敵に集中していた。残りの敵はゴブリンキング1体となった。

 ゴブリンキングは2体の従者を失い驚き戸惑っていたが、すぐに背中の巨大な斧を取り出すと俺を威嚇するように雄叫びを上げる。


「……来い」


 俺の目線は更に鋭くなり、剣を構える。

 ゴブリンキングは俺へ斧を振り回してくる。その大振りでありながらも激しい猛攻で襲い掛かる敵の動きを俺は先の先まで読むことが出来た。


 自分でも疑問だった。ここまで動けるのはやはりおかしい。だが、今はミリアと自分の命を守ることに集中しろ。


 またゆっくりと呼吸を整え、剣の刃先をゴブリンキングへと向けた。ゴブリンキングは俺の鋭い視線が威圧となったのか一瞬後ずさりする。

 だが、すぐにゴブリンキングは自身の誇りを全うするように再び大きく雄叫びをあげて、襲ってくる。

 またしても先ほどと同じ動き……やはりな、こいつらの動きはよく見るとワンパターンだ。

 横殴りに斧を振るった後、斧の柄で突き、そしてまた横殴りに振る。この法則性を理解した俺に対して絶対に攻撃が当たるはずがない。


 相手の行動は分かった後は、俺が攻撃を叩き込むだけだ。


 俺はゴブリンキングの横振りの動きに合わせて飛びかかり、剣を振る。


「これで、終わりだ!」


 俺はゴブリンキングの首に向けて剣を振りぬく。一瞬、ゴブリンキングがこちらを振り向こうとした。しかし、その時にはゴブリンキングの身体は力なく地面へ倒れ込んだ。

 身体と首が離れ、ごろっと首が地面に転がった。そして、身体は一瞬にして炎が燃え広がり、灰となった。


「ふぅ……」


 俺は剣を鞘に納めた瞬間、集中力が一気に切れた。


 さっきのは何だったんだろう……


 そう考える前に俺は大事なことを思い出す。ミリアの事だった。

 俺は辺りを見回し、ミリアの方を見た。ミリアはぼーっとした様子で俺の事を見つめていた。


「ミリア! 大丈夫か!!」


 俺が駆け寄ったときミリアは犬耳をおっ立て、尻尾をぶんぶんと振り回し、目を輝かせた。


「す、凄すぎる!! 凄すぎるわ!! あなた一体何者!? 格上のゴブリンキングをあんな達さばきで!!」


 ミリアははしゃぎすぎて足の痛みなど気にしないようであった。

 何て通良い子なんだと思ったが、今はこうしてはいられない。


「俺も分からない、とにかく早くギルドに戻ろう!」


 俺はミリアをおんぶし、ダンジョンの出口へと歩き出す。

 ミリアは赤くなった顔を隠していた。傷を負った足が痛み出したのだろうか?


「ミリア、大丈夫か?」


「だ、大丈夫……」


「すぐにギルドに戻ろう!!」


 俺はミリアの傷が痛まないように注意しながら急いでギルドへと戻る帰路を辿った。

 早くこのハプニングをギルドに伝えなくては!!


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