第2話 付与術士、ギルドへ

 気がつくと、俺は馬車の荷台で寝ていた。

 昨日の夜の事は夢だったのだろうか?

 俺が起きて馬車の操縦者へ声をかけた。


「あの、昨日は……」


「ああ、目が覚めましたか、昨日は災難でしたね。まさか、魔物に襲われてしまっていたとは思いませんでしたよ。私が通りかかった頃に君だけが生き残っていたものでしたから思わず拾い上げて来ちゃいましたよ」


 昨日のことは夢じゃなかったんだ。

 俺は一言お礼を言ってまた座り込む。

 あの日の夜、俺は剣を持ったら人が変わったようだった。

 でも、あれは偶々生存本能がそうさせたのだろう。

 人間、命が懸かればどうなるか分からないものだ。


 そう思っていると、また眠気が襲ってきた。

 俺はまた眠りに落ちた。


 ――そして数十分後


「兄さん、着きましたぜ」


 荷馬車の運転手に起こされて俺は眼を覚ました。俺は荷物を持って荷馬車から出る。

 目の前には大きな壁に囲まれた巨大な都市にやって来た。


「ここは?」


「ここは都市ガミジンだよ」


 ガミジン……って俺の家から一番近い都市か。まぁでも俺は場所を選んでいられない。

 俺は運転手に軽くお礼を言ってから、ガミジンの中へと入った。

 都市に入って俺はとりあえず冒険者ギルドへ行くことにした。


 ギルドとは依頼を請け負い、魔物を討伐したり、物資を納品したりするいわば冒険者呼ばれる者になる為の場所だ。

 俺はそこで取り敢えず冒険者登録をして生活する資金集めをしようと思う。

 ガミジンの街並みを歩いていくと、大きな看板が見えた。


 《冒険者ギルド〜不死鳥亭〜》


「ここがギルドか……」


 俺はギルドの扉に手を触れ、ゆっくりと扉を押す。

 入った際にベルが鳴り、一斉にギルド内にいた者達がこちらを注目する。

 俺は少し驚いたものの、皆は直ぐに目線を逸らした。

 俺は息を漏らしつつ、冒険者ギルドの窓口へと向かった。


「いらっしゃいませ! こちらは冒険者ギルド、不死鳥亭でございます! 私は受付嬢のマリンです!」


 窓口にはメガネをかけた元気な女性がいた。


「あの、冒険者登録をしたいのですが……」


「はい! かしこまりました! それではこちらに必要事項をお書き下さい!」


 マリンはスクロールと羽ペンを差し出す。

 スクロールを開くと名前と職業ジョブを書く欄があり、俺は直ぐに必要な情報を書いた。


「ありがとうございます! 職業は付与術師で名前はウィリオ・レイドール……レイドール!?」


 マリンは驚いた様子でスクロールを見直していた。


「あの、何か?」


「もしかして、貴方はレイドール家の方で?」


 うーーん、どう返事をして良いのやら。

 今はもうレイドール家ではないが、名義上レイドール家なので、答えるしかない。


「まぁ、一応」


「どうしてレイドール家の方がここへ?」


「い、色々あって」


「色々?」


「事情はあまり聞かないでくれ」


「か、かしこまりました! では、これにて登録完了です。ウィリオ様は最低ランクのF級からスタートになり、階級試験をクリアすることによってどんどん階級が上がっていき、高難易度・高報酬のクエストに挑むことができるようになります!」


 話を聞くと、冒険者ギルドには階級システムがあり、下はF級から上はSSS級まであるらしい。

 取り敢えず冒険者登録ができて一安心だ。


「何かあればいつでもお声がけください! それでは良き冒険者ライフを!」


 そう告げられ、俺は早速冒険者ギルドにあるクエストボードを見ることにした。俺が受けられるクエストはF級のものだけだが、仕事内容はウサギの狩りや薬草の調達のみで低報酬。

 まぁ、最初はこんなものか。

 そんな感じで眺めていると、急に後ろから声をかけられた。


「おい! てめぇ、レイドール家の人間だろ!?」


 俺が振り返るとそこにはゴロつきのような厳つい面の冒険者2人が絡んできた。


「いや、違うが?」


「嘘つけ! さっき受付で聞こえてたぞ!!」


「お前みたいなのがどうしてギルドに来てやがる!!」


「色々訳があってだな……」


 説明がめんどくさい。そして、初日から変な奴らに絡まれるのはもっとめんどくさい。ここはスルーしよう。


「訳もへったくれもあるかお前らみたいな魔術師風情がここにくるんじゃねぇ!!」


 レイドール家は本来ギルドではなく、超エリートのガミジン魔術学校に通うことになっている。通えない、もしくは通える資格のない者達からは嫌われ者なのだ。


 俺はクエストボードを見るのをやめて、離れようとした時、1人のごろつきが俺の腕を掴む。


「何をする、やめろ!」


「うるせぇ! 俺は本当は魔術師になりたかったんだ! お前に俺の苦しみを味合わせてやる!!」


 男が腰から剣を引き抜き、俺に向けて振り下ろそうとした時だった。

 ギルドの扉が勢いよく開かれる。


「辞めなさいあんた達!」


 扉の方を見ると、そこには長い栗毛に犬耳とモフモフの尻尾がついた可愛らしい少女がいた。腰には自身より若干短いショートソードを身に着けている。


「ミ、ミリアの親分!!」


 男達は突然現れた少女を見て剣をしまい、俺の手も直ぐに話した。


「あんた達、また変なことしてないでしょうね!」


「そ、そんな事はないですよぉねぇ?」

「ああ、そうだなぁ」


 明らかに目が泳いでおり、それを少女は見透かしていた。


「ともかく! 直ぐ新人さんを虐めない事! 良いね!?」


「「わ、分かってますよぉ」」


 2人はそう言いながら、逃げるように冒険者ギルドから立ち去った。


 少女は俺の方に向き直って笑顔を向けた。


「大丈夫だった?」


「あ、えっと、ありがとう」


「遠慮なんて要らないよ。あいつらだってF級のくせに態度だけは威張り散らかすんだから……私はミリア、ミリア・グランダーレ。E級冒険者、職業は剣士よ! 貴方は?」


「俺はウィリオ、一応付与術士だ。今日冒険者登録したばかりなんだ、よろしく」


「ふーーん、やっぱり新人さんだったんだね。珍しい顔がいるなって」


「そうかい?」


「うん、もし何か困ったことがあったら私にも声かけてね!」


 困ったことならもう既にある。

 このチャンスを逃すまいと直ぐに口を開いた。


「あの! お願いがあるんですけど」


「お! きたきた! 何々?」


「俺と、一緒に、クエストして貰えませんか!」


 そう、俺は一人では戦えない。誰かをサポート……できるか分からないけど一緒に戦闘を手伝ってくれる人が居ると助かる。

 まるで、女性に告白したかのように右腕を差し出す。すると、少女は優しく俺の右手を握った。


「それくらい、朝飯前よ! 君のクエストならいくらでも手伝ってあげちゃうんだから!」


 少女はガッツポーズを俺にして見せた。


「本当かい!? ありがとう!」


 こうして俺は早々に獣人の少女ミリアを仲間になった。この少女が今後長い付き合いになるとはだれも予想していなかった。



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