田舎の魔術師の名家から【魔力極小】の無能付与術師だと絶縁されたけど、剣の才能があったので第二の人生は《魔剣聖》になる ~俺が剣を持ったら仲間達から必要とされるようになった件~

霞杏檎

才能開花編

第1話 付与術士、絶縁される

 レイドール家、それはとある田舎で暮らす、有名な魔術師の家系である。俺はそのレイドール家の長男ウィリオ・レイドールだ。


「ウィリオ、大事な話がある」


 そう父親のドグラ・レイドールに言われ、俺はいつも食事を楽しむ円卓のテーブルの前に座らせられた。

 対面には父がおり、その右隣には弟のテリオス・レイドールが、その左に母親のマリナ・レイドールが俺に心配そうな目線を向けていた。母に至っては瞳に涙が潤んでおり、その様子から俺はきっとこれから良くないことが起こるんだと確信した。


 テーブルの中央には大きなキャンドルの火がゆっくりと揺れる。

 その揺れが収まる頃、父が口を開いた。


「今日を持って、お前はレイドール家から出ていってもらう。お前はもう家族ではない」


 衝撃の一言だった。


「な、何を言ってるんだよ父さん!」


 俺は焦りながら、2人を見るが、母も弟も目を伏せていた。

 どうやら、嘘ではなく本当のことらしい。


「お前は由緒正しきレイドール家の子でありながら、1日2、3回魔法を使用するだけで魔法が使えなくなるなどどう言うことだ!? 弟を見てみろ、魔力量、魔法威力、全てにおいてテリオスこそ、魔術師としての才能が数多くあるではないか! それに引き換え、お前は付与術師でありながら、魔力が極小、威力も中の下など我が家系の恥晒しだ!!」


 確かに俺は魔力を1日2回、多くて3回唱えることが出来るだけでも凄いと思うほどの魔力の少なさだ。一方で弟は初級魔法を全て理解し、どれほど魔法を唱えてもへばる事のないほどの魔力量だ。

 それに比べたら確かに俺は出来損ないかもしれない。


 だが、俺はそんな出来損ないでも、日々の鍛錬は頑張ってきたはずだ、母に付与術師の初級魔法を教えてもらい、1日数回程度の練習を毎日やってきた。

 どれほどきつかったと思っているんだ。


 しかし、そんな努力もこの父は認めてはくれない。

 家系の誇りの方が彼に取っては大事な事なのだ、例えどんな息子を持ったとしても。


「お父さん、やっぱり考え直しましょう!」


 横から母のマリナが話に割って入ってくる。


「この子も魔力は少なくとも、レイドール家の子です。今はまだ芽が出なくとも、鍛錬と努力をすればいずれ立派な付与術師となってくれるはずです」


 母は涙交じりにそう言うが、父の考えは変わるはずもなかった。


「立派なレイドール家の子なら大器晩成などと言う甘い言葉はでない」


「そ、そんな。ウィリオもガミジン魔術学校に通わせれば、力だってつくと思います」


「こんな出来損ないに通わせる学校もないわ」


 母はその場で項垂れた。

 ガミジン魔術学校、ここから馬で数日のところにある大きな都市ガミジンにある、超エリートな魔術師たちが通う学校である。

 俺達は大きくなり、順調ならレイドール家の血筋として入学をする予定だった。しかし、俺にはそんな話はなかったことになるらしい。


「と言う事だウィリオ、今日からお前はもう我が家族の一員ではない! この家から出ていくのだ」


 前々から思っていたが、いつも良くするのは俺ではなくて才能のある弟の方だった。この家に居ても居心地が悪かったし丁度いい。


「ああ、分かったよ! こんな家出て行ってやるよ!」


 俺は階段を駆け上がり、自室で身支度をしていた。この家から出ていく為、着替えや必要最低限のお金を鞄に詰め込む。


「俺なんてどうせここに居たってしょうがないんだ……」


 そうぶつぶつと言いながら荷物を整理していた時だった。扉からノックの音が聞こえた。


「兄さん、いるかい」


 この声は弟のテリオスの物だった。


「なんだよ」


「入ってもいい?」


「……構わない」


 俺の言葉を聞いて、ゆっくりと扉が開かれる。そこには優しい瞳で、俺を憐れむ顔をしたテリオスが居た。


「兄さん、ごめん」


「なんでお前が謝る」


「だって、僕が才能があるせいで……」


「それ嫌みで言っているのか?」


「そうじゃなくて……」


 俺は深い溜息を吐いて、荷造りが完了した鞄を背負うとベッドから立ち上がる。壁に掛かったレイドール家の紋章が付いた帽子をかぶり、テリオスの前に立った。


「テリオス、お前は良かったな才能があって。俺が居なくてもうまくやれるとは思うけど、身体に気を付けろよ」


「に、兄さん……」


 俺はテリオスの横を通り、階段を降りる。

 そして、俺は玄関の前で帽子をとり、深々と家族、いや、家族だった者たちに向かって頭を下げた。


「今までお世話になりました。それじゃあ達者で」


 そう言って、俺は玄関のドアを開けて外へと出る。


 こうして、俺は魔術師の家系であるのレイドール家から魔力が少ないと言う理由で追い出されることになった。



 ☆☆☆☆☆



 家を追い出されてから俺は何日も街道を歩いた。昼はずっと歩き、夜は野宿をしてを繰り返す。

 そして、運が良いことに途中で荷物を運ぶ馬車と出会うことができ、乗せてもらうことが出来た。

 この馬車の荷台には剣や盾などが沢山積まれていた。どうやら武器を運んでいる馬車のようだ

 どこでも良い、家から離れられるなら俺は場所を選ばない。そう思いながら、馬車の荷台に揺られながら眠りについた。


 そして俺が次に起きたのは数時間後の出来事だった。


 突然、馬車が大きく揺れだす。ガタガタと上下に激しく揺れだす馬車の荷台から俺は外を見た。

 先ほどよりも馬車の速度が上がっている。一体どういう事だ?


「おい! 一体どうなっているんだ!?」


 俺は操縦者の方へと声をかける。すると、操縦者の男は焦ったような口調で返した。


「後ろから、後ろからま、魔物が襲ってきているんだよ!!」


「何だって!?」


 俺は荷台から後ろを見ると、そこには巨大な狼たちの群れがこちらへ向かってきているのが見えた。

 特徴からして、山奥に住むダイアウルフと言う魔物だろう。

 俺は思わず言葉を失った。ああ、今日は何てついてない日なのだろうか。

 そんな絶望感に打ちひしがれていたその時、俺達に追撃するようには続いた。


 馬車の速度についてきた複数のダイアウルフたちが馬車の横に来ると、馬へと噛みつく。

 噛みつかれた馬は堪らず鳴き声を上げてその場に倒れた。

 倒れたことによって馬車は大きく横転し、街道に武器が散らばった。


 勿論、俺も外に身体を投げ出され、地面に転がり落ちた。

 鈍痛によって立ち上がるのが遅れる。

 立ち上がるり、まず目に入ったのはダイアウルフ達がぴくりとも動かなくなった馬の体に寄って集り、肉を喰らっていた。


「や、やめろぉ!! 助けてくれぇ!!」


 助けを懇願する声が近くから聞こえた。この声は恐らく俺を乗せてくれた馬車の男性のものに違いない。


「ぎぁあああああああああああ!!!!」


 俺がその声の方へと向かった時、大きな断末魔が聞こえた。

 男の方へと俺が向かった頃には、ダイアウルフの餌食になっていた。男の肉を貪り喰らうダイアウルフの姿が俺を恐怖させる。


 そんな……嘘だろ……


 俺はすぐに逃げ出そうとしたが、周りを見るとダイアウルフの群れに囲まれていた。


「くそっ!! 魔法の刃よ! 彼の者達へ飛んで行け! ”魔法弾マジックバレット”!!」


 俺はダイアウルフの一体へ向けて付与術師が初期に覚える攻撃魔法を唱える。

 魔法で圧縮された大気の塊が1匹のダイアウルフに飛んで行く。

 攻撃は見事命中するが、ダイアウルフはすぐに立ち上がって俺へと襲いかかってくる。俺はもう一度魔法弾を飛ばして応戦するが、精々一体の動きを少し止める程度でしかない。

 もう一度魔法弾を放とうとするがここで到頭俺の魔力が尽きてしまった。


「くそっ!? もう切れたのかよ!!」


 俺は横転した荷台の中へと入り、入り口を荷物で塞ぐ。

 ダイアウルフ達は俺を食しようと荷物に体当たりをしてくる。

 このままでは俺も食べられてしまう。


 何か武器は無いのか……


 ふと、俺は荷台の荷物を見た。樽の中に大量のショートソードが入っている。

 もう魔法が使えない俺にとって生き残る術は剣を持つ事だった。


 だが、俺は剣術など習ったことがない素人同然だ。

 魔物に勝てるかどうかなど考えるまでもなく絶望的だった。

 だが、希望を持てば0%が1%に変わる。

 その思いを信じて俺は剣を持った。


 一本の剣を取って鞘から剣を引き抜いた時だった。


 これまで感じたことのない、感覚が俺の身体に電流が走ったかのように駆け巡る。


 あれ……


 すると意識が少し遠のきかけたと同時に集中力が最大限までたかぶった。

 俺は荷物を蹴飛ばし、気がつくと外へと出ていた。

 周囲のダイアウルフは唸りながら俺の方へと牙を向けている。

 そして、一斉にダイアウルフが俺へと飛びかかった。


 しかし、俺はダイアウルフの隙間を縫って攻撃を素早く回避する。そして、一瞬の隙を突いて一気に剣を振るった。

 ダイアウルフの身体は引き裂かれ、そのまま地面へと落ちる。

 それを見た他のダイアウルフ達は戸惑う様子を見せた。


 俺は目線をダイアウルフへと睨みつけ、手招きをする。


「来いよ……」


 ダイアウルフは挑発され、全員が俺へと襲いかかる。

 だが、ダイアウルフの動きはあまりにも遅かった。


 遅い、遅すぎる。


 俺は自分でも知らない、柔軟な動きでダイアウルフ達の攻撃を避ける。そして、1匹1匹の隙を見逃さず剣を入れる。


 そして、気がつくと俺の周りにはダイアウルフの屍が大量に出来上がっていた。


 俺は思わず自分の手を見る。


「何だこれ? お、俺がやったのか……?」


 そう我に帰った時、身体が一気に脱力すると俺はその場へと倒れた。


 意識が少しずつ薄れていく。俺は身体に広がる疲労感に身を任せるように瞳を閉じた。

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