第14話
あれから
「機嫌が良いですね。」
「そう?」
「はい、気づいてないだけですよ。」
隣のミーラは俺の事をよく分かっている。彼女が言うのだから恐らくそうなのだろう。俺は宿屋の新聞を探す。国が俺の事を探していないか確かめないといけない。
「ミーラ新聞貸して?」
彼女は無言で俺に渡してくる。彼女はもう読み終えたのか少し嬉しそうな顔だ。一体何が書いてあるのだろうか?
『深まる謎。灰の船はどこから?』
……そろそろ帰った方が良いのかな。ずっと騒がせているみたいだし。これだけ騒いでいると王国も俺を探していそうだ。
『西方領主の大敗。恐るべき反乱軍の誘引戦術。』
『王国直轄領にてさらなる重税。王国はどこへ向かうのか?』
あれ……。ラッキー俺の事は探して無い。王国は俺が思っているよりも無能な気がしてきた。
「まずは一安心かな……?」
「大丈夫ですよユータ様、リベレ達も恐らく元気ですし、あなたに王国は構ってる暇はありませんよ。」
「いや、安心させておいて、後ろから肩を叩かれて逮捕みたいな事も……。」
トントンと後ろから肩を叩かれる。背筋が凍る。ここまで早いフラグ回収は俺が初めてだろう。
「何、あなたは
この口調……この声……。まさかね。俺は後ろを振り向いて確かめる。アイスだ。この店にいるとよく会う。
「ま、まさか。俺は善良な一市民だよ。
「冗談よ。第一、あなたが何をしようと衛兵には突き出さないわよ。」
アイスは呆れたのか腰に手を当てて言う。彼女は貴族のはずだが国への忠誠心はそこまで無いのだろうか?
「いや俺が犯罪者だったら普通に捕まえてくれよ……。」
「それもそうね。それで何をしたの?私の予想だと反逆罪に近いものだと思うのだけど。」
おかしいな。彼女のスキルは重力魔法で真実を見抜くとか心を読むとか、そういう物では無い筈なのに何故ばれた。
「えっと、取り敢えず続きは私の部屋で話しませんか?」
ミーラは凄い慌てていた。こんな様子を見るのは初めてだ。そしてじわじわと自分のした事の重大さが分かってきた。喉元に短刀を突きつけられている気分だ。
「そうね。行きましょうか。」
アイスは俺の手を掴んでくる。別に逃げる気は無いんだが……俺が視線でアイスに手を離す様に訴えるが彼女はニコリと微笑むだけで手は離さなかった。
ミーラの部屋に初めて入った。部屋の内装は俺と全く同じだった。強いて言えば俺の部屋よりもよく整理されている。現実から目をそらしているとアイスから質問が来た。
「それで、何をしたの?」
「黙秘権を行使する。」
「だから、私は捕まえたりしないわよ。」
「…………。」
……。何だこの状況。というか黙秘権って通じるのか。まぁアイスは証拠を持っていないし俺を捕まえられる訳がないか。
俺を本当に捕まえようとするなら考えられる全ての武力を超えた力を持たねばならない。無理に決まってる。
「アイス、例えば俺が反乱軍にほぼ無償で武器を渡してたらどうする?」
アイスは大分驚いた顔をしていた。ミーラは心配そうに俺とアイス双方を見ている。ここまで彼女は何も喋っていない。
「貴族は一枚岩では無いわ。皆が皆、国王に忠誠を誓っている訳ではないの。恐らく私の家なら黙認するわね。」
これは良い事を聞いたかもしれない。どうせ捕まらないと高をくくっていたが本当になるとは思わなかった。
「あなたが裏にいたのね。それなら反乱軍が異常な強さを持つ理由に説明がつくわ。」
彼女は納得がいったという表情だ。例えばって、一応断りをいれた筈なのだが完璧に事実と思われている。隣を見るとミーラは別の意味で驚いた様子だ。
「まぁ、もしかしたらそうかもね。所で話は変わるけど、暇な日はある?」
「いつでも暇よ。」
「仕事とかしてるの?」
「私は貴族だからしなくても問題無いわ。それよりあなたは?」
そういえばまだ一つも武器を売っていないな。俺には香辛料っていうチートがあるから金には困らない。あれ……武器を売る意味が……。いやリベレ達に申し訳ない、関わった以上最後までやろう。
「最近は一つも売れてない。平和だよ。」
「そうね、ここはあなたのおかげで平和ね。それでいつにするの?」
「明日は?」
「大丈夫よ。」
ミーラはここまで一言も喋っていない。一体どうしたのだろうか。元々、彼女自身がおとなしい性格だからアイスといると目立たなくなってしまうのかな?
何やら女子同士で話すことがあるのか俺はミーラの部屋から追い出された。
暇とは最高の贅沢だ。何をしようか……。
◆
「それで、何故隠してたの?」
「ユータ様に捕まってほしく無かっただけです。」
「馬鹿ね、ユータを捕まえられる人間はそうそういないわ。変な心配は無用よ、私に全て教えて。お互いの為よ。」
「……ええ分かりました。彼が言うには……。」
この日、アイスは彼の出自やスキル、本拠地の無人島、そして何より反乱軍の黒幕という事を知った。彼女はそれを直ぐさま、叔父である領主に伝えた。そして領主から手紙で以下の返答が来た。
『我が姪、アイス・メラージへ
報告を聞いた上で再度命ずる。作戦は続行せよ。西での反乱軍との戦闘を見る限り次の時代を握るのは恐らく、灰を手にした物だ。メラージ家繁栄の為に、迅速に2つ目の手紙を彼を介して反乱軍に届けよ。なおこの手紙は読み終わり次第、速やかに焼却する事。』
「一体、叔父は何を考えてるのかしら?私を呼び戻して……。ユータは確かに強いわ。でも彼の性格があまりにも権力とか政治とかそういう物に向いていなさ過ぎる。」
彼女は手紙をロウソクで燃やしながら考える。
◆
「ックシュン。」
「大丈夫ですか?」
誰か俺の事を噂してるのだろうか。だとしたら辞めてほしい。既に日が傾き始めている。きっと直に噂も終わるだろう。
「あ、うん。それよりミーラはアイスと何を話してたの?」
「秘密です。ただ悪口ではないですよ。」
「どうしても秘密?」
「言っても良いですけどアイスさんが可哀想ですから……言えません。」
俺に聞かれるとまずい事でもアイスにはあるのだろうか?まぁあの性格だと隠していても直ぐに分かりそうだ。
「分かったよ。なら聞かない。」
「ユータ様は何してたんですか?」
「空を眺めてた。」
「……確かに、綺麗な夕焼けですね。本当は黄昏れてたんですか?」
「ミーラには隠し事は出来ないな……。」
「ユータ様は隠し事なんて向いてないですよ。」
「そうかな?」
「商売は誠実さが大事って聞きました。ユータ様の良いところですよ。」
「……商売のことは耳が痛いな。」
互いの間に流れる沈黙。でもすごく心地が良い。このまま彼女とこんなくだらない話を続けていたい。こんな事を思うぐらい俺は彼女に魅せられていた。
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