第15話
午前二時半の事だ。俺は突然鳴ったスマホのアラームで起きた。ものすごく眠い…久々にロックを解除して見ると見たことの無いアプリが入っていた。『アトラン連絡窓口』とアプリの下に表示している。俺はアプリを起動して見る。
『お呼びですか?マスター。』
白い文字と黒い背景がスマホに映る。自動で書かれる文はさながらハッカータイパーのようだ。
「呼んでないから……取り敢えず寝かせて……。」
『しかし地図が完成したので早急にお伝えしようかと思いました。』
辺りにはブルーライトと星の光しか無かった。今は二時半何だよ……。ただ人の声によく似た機械音声からは何処か嬉しそうな事が伝わった。仕事をしてくれてありがとう。でも時間を考えてくれ。
「……寝る。」
『了解しました。アラームをセットします。』
そんな事は頼んでないんです。睡魔に負けて俺は眠りについた。アプリ作ったり、起こしたり……頼んで無いことまでしないでも良いのに……。
◆
七時だ。時計塔の鐘が街中に鳴り響いている。俺は鐘の音ではなくて、スマホのアラームで起こされた。九時とか八時に起きる自堕落な生活は今日で終わりのようだ……。
『マスター七時になりました。』
「これはエラーコード5(命令が武器の概念から離れすぎています。)に抵触しないの?」
『まさかあなたが新たなるドメイン(作戦領域)を知らない筈が無いですよね。』
目覚しとサイバー戦を一緒にするなよ……。まてよ、俺のスマホが勝手に操作されてるって事は……怖。アトランは俺の恐怖を棚に上げて地図について話し始めた。
『これが世界地図です。』
「これって星系?」
『名前はご自由に決めて下さい。』
宇宙まで地図を広げてたのか。俺は自分のいる星を拡大する。すると既視感がある。前にミーラと見たフロント王国と孤島が見えてきた。
「広いな……。」
世界の広さは地球と同じぐらいの気がする。そして大きな大陸が2つある。地名は一切書かれていない。俺が名付けるか……。地名をあーでもない、こーでもないと考えていると再びアトランの文字がスマホに浮かび上がる。
『マスター、他に伝えたい事があります宜しいですか?』
今度は何だ……。予想外の事が起きてももう驚かないからな。
「衛星からの情報によると反乱軍の弾薬が残り乏しくなっています。直ぐに向かうべきかと。」
そんな馬鹿な、弾はありったけ渡したはずなのにもう無くなったのか。人数が増えたのか?とにかく急がないと!ミーラとの約束を守らないとならない。
俺は部屋を出ようと扉を開ける。扉はいつもより軽く、勢い余って前に倒れてしまった。
「ひゃあ!だ、大丈夫ですか?」
「うん、ミーラの方こそ平気?」
恐らく彼女もドアを開けようとしていたのだろう。俺が彼女を押し倒すような形になってしまった。彼女の鼓動が聞こえる。心拍数は俺と同じぐらい早い。
「すいません。」
「俺もごめん。直ぐに退くよ。」
俺は急いで立ちあがる。嫌われたのだろうか?彼女の耳と尻尾は垂れている。機嫌が悪いのか……。いやそれよりも大事な事があった。説明しないといけない。
「ミーラ、リベレ達の弾が足りないらしい。出掛けてくる。」
「え……えっと。彼等は無事なんですか?」
「もちろん、でも急がないといけない。」
「私も付いていきます。」
その凛々しい表情と彼女の白い髪に少し見惚れてしまった。ミーラもリベレ達に会いたいのだろう。
「良いよ。準備してとにかく直ぐに行こう。」
「はい、待ってて下さい。」
ミーラは俺よりも素早かった。俺達は急いで手続きや準備を済ませて港湾都市の外へ出た。後ろには門が高くそびえ立っている。とにかく急いで移動しないとならない。またあの航空機に頼ろう。
「V-22オスプレイ召喚。」
いつも通りの光と共にそれは現れる。この反動の眠さも光も慣れた物だ。既にプロペラは上を向いている。このティルトローター機の特徴はプロペラの向きを変えてヘリにも飛行機にもなれる事だ。この輸送機も慣れた。
アラームが再び鳴る。俺がスマホを取り出すと上の通知にアトランの文字があった。
『天候悪化が予測される為、航空機での移動は推奨しません。』
この忙しい時に……。でも確かに上を見ると黒い雲が多かった。辺りはいつもより暗く、遠くでは雷の光も見える。
「状況に適する物を好きに召喚してくれ。」
『了解。M1エイブラムス召喚。』
アメリカ陸軍の主力戦車だ。まさか戦車で移動する日が来るとは……。乗用車の数倍はあるそれに俺は一瞬気圧された。
『○データリンク……出発準備OK。』
「ユータ様、雨が降りそうです、早く乗りましょう。」
「うん。ミーラも気をつけて。」
戦車の乗る場所は乗用車とは違い上にある。俺が先に乗って、彼女を手伝う。
彼女の手を取って上に引き上げる。どこか肌寒い今日だからか手が暖かく感じられた。
「ユータ様、大丈夫ですか?疲れているように見えますけど……。」
……もしかしたらミーラよりも体力が無いかもしれない。
「大丈夫。」
さぁ、出発しよう。
「待って!」
アイスが地面を滑ってこちらに来る。彼女の重力魔法は地面を滑る事も出来るのか初めて知った。アイスは更に地面を蹴って一瞬でこのM1エイブラムスの上まで来た。その様子を見て俺は感動した。格好良すぎる。所で何の用だろう?
「どうしたの?」
「どうしたのって……あなた明日暇って聞いてたじゃないの。」
やばい。すっかり忘れていた。確かに俺は昨日そう言っていた。なんとか許して貰おう。
「ごめん。ただ急な用事が出来て、今すぐに行かないとならない。また埋め合わせする。」
「……何処へ行くの?」
「反乱軍の本拠地。」
アイスは合点がいったのか分かったわと小さく呟いてからある一通の手紙を俺に渡した。
「私もそこに行かないと行けないの。連れて行ってくれない?お願い。」
どういう事だ?メラージ家は反乱軍の事を黙認するだろうって……。いやそれは彼女の見解か。本当は違うかもしれない。
「良いけどこの手紙は何?」
「それは領主からリベレに向けた手紙よ。あなたに渡して欲しいの。」
「付いてくるなら紹介するから自分で渡した方が良い。」
「それもそうね。」
アイスは少し考えてからそう言った。俺はハッチを開けて中に入る。中は思っていた通り狭かった。ただ子柄な俺とミーラはアイスよりも狭くは感じなかった。
「えっと……私は何処に座れば良いですか?」
「そこの戦車長の椅子でいいよ。俺は装填手の所に座る。」
「なら私はここね。」
「皆、何処かに捕まって。目的地へ進め。」
砂埃と白煙を上げて戦車は西へ進み始めた。時々街道を外れてショートカットしたから揺れる事もあった。途中でV-22の回収をした旨がアトランから言われた。
そしてアトランの読み通り雨が降り始めた。凄まじい雨だ。雷の音まで聞こえる。戦車が上げる砂埃も無くなった。
◆
やがて川と橋が見えた。流石に重い戦車でこの橋を渡るわけにはいかないだろう。
「ユータ様、渡らないんですか?」
「渡ったら多分橋が壊れる。……どうしよう?」
架橋戦車でも召喚するか。俺がそう悩んでいるとアイスが良い提案をしてくれた。
「私が何とかするわ。」
「どうやって?」
「ユータ、私のスキルを覚えてるわよね。」
彼女はそう言うと、外に出て重力魔法を使う。戦車は大地の楔を外して見事に向こう岸にたどり着いた。
「すごいな……。ありがとう。」
「私から見たらあなたのスキルの方がすごいわよ。」
「アイス様、タオルです。」
「ありがとう、拭いてくれるかしら。」
ミーラが雨で濡れた彼女を乾かす。少し、ミーラの目が潤んでいるような気もした。雨が降っているからだろうか。
やがてスキルの反動なのか彼女は眠ってしまった。彼女は横に座るミーラに寄りかかっている。俺もたくさん召喚したからかゆっくりと瞼を閉じそうになる。唯一スキルを使っていない彼女は俺が眠りそうなのを見て少し影がありそうな笑顔でおやすみと言っていた。声が小さくてよく聞こえなかったがそう言っていた気がする。豪雨の中で俺たちはただ西へ進み続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます