第7話


「ミーラ、教えて欲しいんだけど。この世界の地図ってあるかな?」


「地図ですか?私は持って無いですけど少し待ってて下さい。」


 かつて地図は軍事技術の結晶であった。どこに道があるのかどのくらいの距離なのか、全て昔は大切な情報だった。今でも地図に載っていない場所があると噂半分に話されているぐらいだ。さて、俺は気になった。俺のいるこの島はまず知られているのか?


 ミーラは近くの木の枝を手に取り地面に川や山町の名前を少し書いた。


「え?これだけ?」


「はい。これ以上は私も知らないです。」


 ミーラが地べたに書いた地図。そこにはミーラが住んでいた村と大きな港町そして王都へ続く街道と地形が書かれていた。狭い。もっと大きな大陸や大洋といったものはミーラは知らないのだろう。


「それにしても小さいな……。」


「これ以上知ってる人はほとんどいないですよ。これが普通です」


「本当に普通?」


「普通です。」


 今は地図を作るとしよう。現在俺が持つ偵察手段は前回使ったグローバルホークと他の偵察機だけだ。足りないものがある。

 俺が生きた時代にはあともう一つ大切な偵察手段があった。それは宇宙に浮かぶ偵察衛星だ。陸海空と来たからな次は宇宙だ。


「逆にユータ様の普通は何ですか?」


「全ての人がリアルタイムに自分の位置が把握できて、目的地までの経路が分かって、それが惑星のどこでも可能ぐらいが普通かな。」


「何を言ってるんでしょうか……?」


 頭がおかしくなったのかみたいな目をされても困る。正直、俺も初めに考えた奴は未来を生きていると思う。ミーラは瞬きをして話題を変える。


「ユータ様、そういえば今いる島はこの地図のどの辺り何ですか?」


「……大陸の南だからこのへんかな?」


 余り自信を持って断言できない。自分の位置を確認するにはGPSも必要だな。とりあえず召喚するのは偵察衛星とGPSで良いな。


「ミーラ、倒れるけど心配しないで、スキルの副作用だから。」


 俺はミーラに説明してからスキルを発動した。


「GPSと偵察衛星それに付随する全ての施設を召喚せよ。」


 また視界が暗転する。しかしこれで情報以外のドメインは完璧になった。これで地図が作れる。二度目はそこまで苦しくないな。何故かは分からないが。


◆sideミーラ


 突然変な質問をしてきたと思ったら倒れてしまいました。何を考えているんでしょうか?私にはさっぱり分からないです。倒れるからよろしくって……。あまりに支離滅裂すぎます。

 ここは砂浜。彼の寝顔が太陽に照らされます。灰色の迷彩に砂が少しかかっています。


「……呆れた事です。」


 他人に出来ないことは出来るのに当たり前の事は出来ないのです。さっきの会話もそうですけど、この間も私と料理をした時にコショウ何て高くないよと笑っていました。金銭感覚が私と何処かずれています。不思議と私は彼の隣に寝て自然に頭をなでていました。


「聞いていない今だから言いますけど私、あなたと過ごすこの暇な時間嫌いではないですよ。」


「本当に寝てるんですよね……?これで嘘とか冗談とか言ったら怒りますよ。」


 彼は何故か私の近くに手を伸ばしています。場所的には私に触れるか触れないかぐらいの距離ですけど気になります。一旦撫でることをやめて私は彼の手を元の場所に戻そうとします。すると彼は私の手を逆に掴んで話しませんでした。


「冗談も程々にしないと私、怒りますよ。」


 ただ波の音が辺りに響きます。その時です。後ろから一本の道が現れました。私は彼と手を繋ぎながら道をよく見てみます。今までには無かった物です。ということはやはり彼は寝ているようですね。


「仕方ないですね。」


 私はもう一度彼の隣に寝て空を眺める事にしました。みんなは元気かな?私は今、可もなく不可もなくといった所です。きれいな海です。濃紺の海が私と彼の前で穏やかに波打っています。




 何時間が経ったのか少なくとも太陽は西の水平線に近づいている。俺が手をついて起き上がろうとすると彼女が隣にいた。何故か手をつないでいるが彼女は何をしているのだろうか?

 後ろには昨日無かった道がある。島の中央の山へ真っ直ぐ続いている。どうやら召喚に成功したようだ。


「起きましたか?」


「うん。えーとその……これはどうして?」


「もしかしてこれの事ですか?」


 ミーラは繋いだ手を少し挙げる。彼女の少し得意げな笑顔が俺の余裕を削る。彼女の方がこういった事に慣れていそうだ。


「ユータ様が寝ぼけてやったんですよ。」


 少し照れくさそうに彼女は言った。俺がそんなことを?恥ずかしさからだろうか手を離してしまった。


「あっ……。」


 悲しそうな顔を彼女がしている。彼女のトレードマークである猫耳は垂れている。だめだ恥ずかしすぎる。俺は急いで話題を変える。


「ミーラ、それより早く新しい兵器を見に行こう。」


「はい……。」


 俺は彼女と一緒に島の真ん中の山へ続く道を歩く。その道は地下へ繋がっていた。

 薄暗い地下に蛍光灯の明かりが満ちている。やがて物々しい扉が見えてきた。扉の隣には生体認証の機械がある。俺はそれに手をかざす。扉からカチッと音がした。俺はドアを開けてミーラについてくるように合図する。

 部屋の中は多くのパソコンとスクリーンがあった。


「ユータ様、ここは何をする場所ですか?」


「ここは……多分軍の心臓部というかうーん何て言えば……。」


『中央指揮所です。お待ちしていましたマスター。私は武器使役スキルの高次概念です。なんとでもお呼びください。』


 目の前の大きなスクリーンに文字が映る。音はしていない。黒い背景に白い文字でプログラムみたいだ。ミーラは驚いたのか俺の後ろに隠れてしまった。少し暗い部屋、そこに波なき声があった。


「ミーラ、何かいい名前の案ある?」


「わ、私ですか……ええとアトランはどうですか?」


「アトランってどんな意味なの?」


 アトランまで来るとアトランティスとかアトランタとか色々思い浮かぶな。ミーラは変な事は言わないしきっと大丈夫だろう。


「秘密です。」


「……言いやすいからそれにしよう。武器使役スキルの高次概念だっけ?これから名前はアトランとする。」


 ミーラは唇に人差し指を当てて教えてくれなかった。どんな意味なんだろう、秘密にされると余計気になるな。そんなことを考えているとスクリーンにふたたび文字が浮かんだ。


『私はこれよりアトランとなりました。マスター指示をどうぞ。』


「まずは召喚した人工衛星の状況を教えてくれ。」


 スクリーンに宇宙から見た景色が何枚か現れる。偵察衛星からの写真だ。写真の右下に小さく時間が書いてある。今から一時間前に撮ったようだ。


「空からの景色何て……凄いです。」


まぁただの森の写真ばかりだけどね。ただ森を突っ切る街道が通っているのは中々凄いと思う。ここまで整備していると軍の移動も迅速だろう。

俺はアトランに本題を頼むことにした。


「アトラン、世界中の地図を作れるか?」


『偵察衛星の増強と偵察機の発進許可を求めます』


「許可する。」


『命令を実行します。』


 これで地図が完成する。さて次は不味い飯をなんとかしよう。この辺で一番大きな街の港湾都市へ行って見るとしよう。


「ミーラ、港湾都市へ行くけど案内とか頼める?」


「すいません……港湾都市行ったのはだいぶむかしで……。それよりどうやって行くんですか?」


「港町だからね船で行こう。」


 最初にいた場所に軍港がある筈だ。どうせなら艦隊を作って行くとしよう。ふふふロマンあふれるな。薄暗い地下で俺は一人にやけていた。

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