第8話
砂浜の跡形も無い港。軍港。ここには世界一の戦力が集結している。まず艦隊の核となる原子力空母。CVN-78 ジェラルド・R・フォード、アメリカで最新の原子力空母である。そもそも空母とは航空母艦と言い、航空機を乗せて移動する滑走路である。つまり簡単にいえば空母は洋上を移動する空軍基地だ。
「大きな船ですね。これは本当に動くんですか?」
「動かなきゃ船じゃ無いよ。」
艦橋に書かれた白い文字の78が下から見るとよく目立つ。十万トンある艦は人とは比べ物にならない程大きい。この艦は本来ならニ千五百人はいなければ動かせない。だが俺のスキルには関係ない。
旗艦はこの原子力空母に決定。
次はこの原子力空母を護衛する艦を探そう。タイコンデロガ級、ミサイル巡洋艦である。前後に搭載された砲塔が光り輝いている。この艦はイージスシステムを搭載している空母とこれを合わせれば航空優勢も簡単に取れるだろう。これは2隻ぐらい艦隊に入れよう。
「ミーラは気になる艦とかある?」
「あの真っ黒で小さい船です。あれは何ですか?」
「あれは原子力潜水艦だね。海に潜れる船。」
他とは色も形も全く違う船だ。だからミーラは気になったのだろう。海中優勢も必要だから一隻艦隊に入れよう。潜水艦は簡単には種類が分からないな。あれはシーウルフ級攻撃型原子力潜水艦かな?後は何が必要かな……?
「海に潜れる船ですか……そんなものがあるんですか……。」
後は適当にミサイル駆逐艦を艦隊に入れてさっさと出発しよう。
「ミーラ、出発しよう。」
「ちょっと無視ですか……まぁ良いですけど。」
テラップを登り空母の中へ入る。広い格納庫の中には沢山の航空機がある。凄いF/A-18E スーパーホーネットこれが一体何機あるんだ。双発のエンジンと斜めの尾翼、直線的な形状で心に響く。何て格好いいんだ。俺がマルチロール機を眺めているとミーラから声がかけられた。
「…………いつまで眺めてるんですか?出航するんでしょう?」
トゲのある口調。おかしいなミーラを怒らせるような事をしただろうか?。思い当たるふしがない。俺はミーラをよく見てみる。声とは対称的に耳が垂れている。
「どうしたの?そんなに怒って?」
「別に何でも無いです。ただ……。」
「ただ?」
「兵器に(魅力で)負けているのが悔しいです。」
……?ミーラは何を言っているんだ。俺だってこのF/A-18と戦っても勝てない当たり前の事だ。そもそも一個人が兵器に勝てる訳がない。でも怒っているし適当に相槌を打っておこう。
「大丈夫だよミーラは兵器には(戦闘的に)負けないよ。」
「本当ですか?」
「もちろん。迫りくる敵機をちぎっては投げ、ちぎっては投げやがては敵の本拠地を叩いてくれると信じてるよ。」
ミーラは頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。渾身の冗談が理解され無かった……。まぁ大した問題じゃない。ミーラが始めに言ったとおり出航しよう。俺とミーラは格納庫から操舵室へ向かう。操舵室のスクリーンに白い文字があった。アトランだ。
『出航準備が整いました。指示をどうぞ。』
俺は一番偉そうな椅子に座って命令を発する。ガラス越しの海も悪くない。この世界に来なかったらこんな景色は見えなかっただろうな。
「旗艦、ジェラルド・R・フォード。護衛、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦二隻とアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦二隻。それとシーウルフ級攻撃型原子力潜水艦一隻を第一艦隊とする。
第一艦隊出航!」
空母から見る景色は格別だ。艦隊はゆっくりと北へ向けて進み始めた。俺がぼーっと座っているとミーラからこんな事を言われた。
「その、ユータ様。地図ってどうなったんですか?」
「アトランどうなった?」
『現状ではここまでです。』
画像がスクリーンに映る。海の方が多いな。さして地球と大差がない。俺たちが今いる位置が赤く光っている。こうして地図で見ると遠いな。
「世界って広いですね。予想より何万倍も大きな地図です。」
孤島の字がよく似合う。海に閉ざされた島に俺は住んでいた。一番近い大陸にもこの時代なら何ヶ月かはかかるだろう。地図は少しづつ今も広がっている。何て広い世界だ。
「ミーラ、他に気になる事とかある?」
「村のみんながどうなっているかとか分かりますか?」
「どうかなアトラン分かる?」
スクリーンの地図が拡大されて航空写真が見えた。ミーラの村を上から撮った図のようだ。某地図アプリよりも軍事用の物は解像度が良くすぐ分かる。上にアトランからの説明が書いてあった。
『要塞化された村に対して領主軍は包囲を実行。これに対して村人はAK-47を使い反撃。突然の新兵器に与えられた多大な損害によって傭兵は次々と契約を解除しました。また近隣から徴兵された農民の兵も反乱軍側に合流しました。これによって傭兵を主力とした領主軍は瓦解。防衛戦に成功しました。』
「ユータ様な、何て書いてあるんですか?」
彼女は地図よりももっと興味があるようで真剣な眼で聞いてくる。村人が勝ったみたいで良かった。理由は士気の高さとホームグラウンドで戦えた事だろうな。二度目、三度目はどうなるか分からないからまた行った方が良さそうだ。
「ミーラ、良かったな勝ったみたいだ。」
「そうですか……良かったっ……っ」
彼女は泣いていた。手で涙を拭いながら泣き続けた。それはきっと嬉し涙で俺はかける言葉が見つからなかった。
三日ほど経った。
彼の五隻の艦隊は港湾都市を騒がせている。この時代にしては大きすぎる船は人々の興味の的だ。灰色の船。最初はそう呼ばれた。それが短くなりいつしか灰の船と呼ばれるようになった。
「でかい。ここまで大きな船を作るとはどれだけの技術力を持っているのだ……。」
「領主様、灰の船に人がいるらしいです。」
窓を開けて彼は普段とは違う海を見ていた。その船は王国の所有する物よりも何倍も大きく何よりも帆が無いことが不思議だった。
いつもと変わらぬ潮風が今日は少し違う気がする。あまりにも大きな船が風の流れを変えているのだ。
「して、灰の船の持ち主は一体誰だ?」
「それが年端のいかない少年で武器商人と言っています。」
「まさか……。」
マジックアイテムによって割り出された素性は領主からすれば信じられないものであった。ここは港湾都市の中枢。そこに座る領主はメラージ家当主である。彼はしばらく考えた後、自分の姪を呼んだ。
王国一の港町であるここには異国の装飾品が集う。この部屋も例に漏れず豪華絢爛であった。この部屋にあるものだけで庶民は一生食べていけると評判で領主の力を示していた。
「さて我が姪、メラージ・アイスよ。我が家の家訓は何だ?」
「『戦争は他家に任せておけ、幸運なメラージ子孫よ、汝結婚せよ』ですわ。」
自信のある表情でアイスは答える。当然であるこの家はかつて結婚だけで大陸西部を制した。現在も西方世界において多大な影響力を有している。だからこそ結婚というものに重きを置いているのだ。彼女の表情は何か察したのか少し固い。
「ならば為すべきは分かるな?アイスよ武器商人を落とせ。そのためには何をしても構わん灰の船の件に関して全てを一任する。」
「了解しました。」
アイスと呼ばれる彼女は血筋的な理由でさして期待をされていなかった。故に余っていた。婚姻政策の駒ではあるが盤上からこぼれ落ちていた。
今その駒はふたたび盤上に戻りミーラの敵となろうとしている。この二人の戦いの行方は風だけが知っていた。今日も潮風が吹く。いつもとは少し違う風で、その風の行方は誰も知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます