第2話

 何日が過ぎたのだろうか?頭がまだ痛む。全身も動かすだけで痛い。召喚の反動で過ぎた空白の時間はとてつもなく長く感じた。

 しかしスマホの時計を見てみると意外にも1時間程度しか進んでいなかった。


 辺りを見渡す。コンクリートで整備された道、埠頭、遠くには管制塔も見える。軍港、空軍基地、駐屯地は無事召喚出来たようだ。俺が今いるのは軍港。さっきまで砂浜だった場所は多数の艦船が停泊する港へ生まれ変わった。

 すごい。元の世界では簡単には見れなかったのに。それが今、俺の手の中にある。俺は車から降りて歩きながら艦船を見る。

 ジェラルド・R・フォード級航空母艦、シーウルフ級原子力潜水艦、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦……数えていくときりがなさそうだ。名前は後で調べるとして、他の基地にも回ってみよう。


「ハンヴィー、空港まで連れていってくれ。」


 ハンヴィーは俺の近くまで来て止まった。遠くからでも使役のスキルは使えるらしい。空港までの道も整備されていた。このスキルは優秀すぎる。命令していない事までやってくれる。快調に車は飛ばしてくれる、機嫌がいいのだろうか?まさか兵器に感情は無い、ただの勘違いだ。

空港の格納庫には沢山の航空機があった。F-22ラプター、F-15イーグル、B-52その他諸々。戦闘機に爆撃機、後は電子戦機もあった。とりあえず島の周りに人がいないか探したいから偵察機を探す。RQ-4グローバルホーク。無人偵察機だ。こいつに任せよう。まだ駐屯地を見てないが陸軍は長距離の偵察任務はこなせない。

偵察任務は空か宇宙の仕事だ。


「島の周囲を偵察せよ!」


 RQ-4グローバルホークが滑走路に移動し飛び立っていく。

 無人偵察機なら落とされても問題ない。いや、ここでは全て無人だった。有人兵器はここでは無人兵器。無人兵器は無人兵器。人が俺以外に誰もいない。

 大陸を探そう。人を探そう。既に半日が経過している。ここでずっと生きているのも飽きてしまう。いや兵器を見てればもしかしたら出来るかもしれないが、おかしくなってしまう。

たった半日でも、辛い。寂しすぎる。


「会話がしたい。」


 誰も人がいない状況なんて、あり得ないと思っていた。

奇妙な気分だ。

 もし、人と会ったらどうするか考えて時間をつぶす。こんな力を持つ俺は社会に溶け込めるだろうか?例えばあのラノベの主人公の様に冒険者になって稼ぐとしよう。どれだけ強力な武器を持とうと命はたった一つだ。人は簡単に死ぬ。人は強力な力を恐れる。味方も敵になるかもしれない。

 左手の文字には不老不死と刻まれているけどこれを検証するには一度死なないといけないし、危ないことはしない方がいい。

 この力を使って世界征服でもするか?いや全て無人兵器だから権力者を倒せてもその後の統治が出来ない。反乱を起こされてゲームオーバー。

 社会で生きるにはお金がいる。お金を稼ぐにはやっぱり武器を売るか。俺は武器の召喚と使用する事しか出来ない。お金を稼ぐには武器を売るのが一番手っ取り早い。

よし決めた。武器商人になろう。


「俺は武器商人になる!」


 誰も反応してくれない……。駄目だ、ずっと独りでおかしくなりかけてる。早く村とか街とか見つからないかな。


 空が暗くなる頃に無人偵察機から送られてくる映像に変化があった。ダークブルーの海では無い。

 大陸だ。村や港湾都市、城塞都市も見える。やっと見つけた。明日はここへ向かおう。この世界の身分証明書もお金も無いがきっと何とかなる。

 戦闘糧食で晩ごはんを終えて俺は車の中で眠りに付くことにした。缶詰のご飯も美味しいが慣れ親しんだ普通のご飯が食べたい。村に行ったら食べられるだろうか?


 グローバルホークが帰ってきた。偵察任務を終えたその機体は格納庫に再び戻っていた。

 飛び立つ前と変わらない機体状況。整備はしなくても大丈夫らしい。見た目でしか判断できない自分がもどかしいが壊れたら新品を呼べばいい。

 村に向かう。港湾都市と悩んだが、何か失敗をしたときに逃げやすい村にする。

船も良いが早く行きたいから飛行機で移動する。

滑走路が無いからVTOL機(垂直離着陸機)にしよう。V-22オスプレイ。名前ぐらいは聞いた事があるだろう。行動半径は広く、なおかつ着陸も滑走路無しで出来る。これ以上に最適な機体は無い。航続距離が少し不安だがいざとなれば空母を召喚して燃料を補給すればいい。


 俺は早速、操縦席に座り命令を発する。


「行き先はここから北の村!グローバルホークと情報を共有し、E-767(電子戦機)とF-15(戦闘機)は護衛をせよ!発進!」


 電子戦機は現代ではレーダーを積んで敵を発見し、戦闘機に指示して撃墜させる役割を大まかにいえばしている。戦闘機は字のままだ。これだけ護衛機がいれば、例えドラゴンが来ても大丈夫だ。安心したのか、疲れからか俺は眠ってしまった。


 目を覚ますと村の近くの草原にオスプレイは着陸していた。上ではF-15戦闘機が旋回して警護してくれている。護衛しろ、という命令を忠実に守ってくれたのだろう。


「護衛任務を解く、基地に帰投せよ。」


南へ向かって旋回して戦闘機達は飛び去っていった。いつの間にかオスプレイのエンジンも切れている。俺はドアを開いて外に出る。弓とくわを持った三人ぐらいのグループが俺の目の前にいる人とようやく会えた。


「こ、こんにちは。」


「あ、こんにちは。」


 挨拶はコミュニケーションの基本だよね。村人さんは挨拶をぎこちなく返してくれた。

 仲間の一人がどこかに向かっていく。いや、避けないで欲しい。気まずい沈黙。風が草原をなびかせている。

 オスプレイ独特の大きなプロペラがちょうど日陰になっていて涼しい。最初に沈黙を破ったのは村人だった。


「名前を教えてくれませんか?」


「俺は……、俺は……あれ。」


 おかしい。名前が出てこない。すぐそこにある気がするのに。どうして。何故名前が言えない?とりあえず適当に名乗ろう。


「まぁ武器商人さんって呼んでくれ。あ、下さい。」


「では武器商人さん、まずはお礼をさせてください。」


 危ない。商人は敬語で話さないと。そしてお礼って何だ?俺は何もしていないはずだ。やった事はせいぜい移動して寝てたそれだけ。


「ワイバーンを倒して頂いてありがとうございます。村人を代表して感謝します。」


 なる程ここにずっと居たらワイバーンが来て戦闘機が迎撃してくれたっていう所か。起こしてくれたら良かったのに。

戦闘シーンが見たかった。


「いえいえ、当然の事をしただけです。それより武器はいりませんか?ワイバーンを余裕で倒せる武器がありますよ。」


「では、領主を倒せる武器が欲しいですね。」


 …………うん?反乱かな?武器を売りに来たけど不穏な事に巻き込まれそうだ。

 更に強い風が吹き、オスプレイのプロペラが少し動いた。

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