第3話
村長の家に通され詳しく話を聞くとこのような物だった。
一、ドラゴンが来た。畑が荒らされた。
ニ、領主が討伐のために増税する。
三、畑が荒らされているので払えない。
四、借金をする。
五、討伐失敗。
この無限ループが繰り返されたらしい。その結果払えるはずの無い税金と借金が残ったと言う訳だ。まあこれは民衆向けの説明で本当の理由は別にあることが後で分かったがそれは別の話だ。
俺がドラゴンを討伐したから一応、解決はしたが借金が残っているし予定通り武装蜂起するらしい。村長の家には何も無かった。馬や牛もかつてはいたらしいが今は何もない。これで我慢出来る方がおかしい。今、出されている紅茶もずいぶんと薄い味だ。まあ領主には最悪武力で勝てるだろうから関わること自体は問題ない。
村長が久々の客だからと自分で作ってくれた。無下には出来ない。俺は紅茶を飲みながら話を聞く。
「武器を売って頂けますか?」
「ええ、何が欲しいです?何でも取り揃えていますよ。」
「出来るだけ安くて領主に勝てる武器はありますか?」
待てよこの人達、お金持っているか?いや、流石に買おうとしてるんだから持ってるよな。この時代の技術なら自動小銃で勝てるだろう。値段はまぁ後で決めても問題無い。不審に思われないぐらいに安い値段にしよう。あまりにも気の毒だ。
「ありますよ。予算はいくらですか?」
「零です。」
うん?耳がおかしくなったんだ。そうに違いない。俺の武器は無料みたいなものだけど、流石に分かりましたそれで売りますって言ったら不審に思われるよな。
別の窓の外には話を聞きつけた村人が何人か覗き込んでいる全員俺と同じ男だ。最初に会った三人組の村人もいる。楽しそうに馬鹿話しているがさぼっていて平気なのだろうか?
少し骨ばんだ顔の村長は弱々しい声でこう続けた。
「後払いでも構いませんか?無論、担保はあります。」
「担保というと、土地ですか?」
元の世界なら土地が担保という話が多い。というか、戦わないでもみんなで逃げれば良いのに何故それをしないんだ?多少は犠牲が出るだろうが戦うよりは少ないはずだ。
窓の外の少女と目が合う。彼女も気になるのだろうか。白のセミロングの髪に猫耳。猫耳だと。流石、異世界。彼女は瞬きをしながら俺を見ている。気恥ずかしいから俺はスルーして村長との会話を続ける。
「いえ、土地も全て持っていかれました。担保は奴隷です。」
「それでは何も無くなってしまう。何故逃げないんですか?」
「逃げた先のどこの領主も変わりませんよ。いや、一つだけまともなのがいますがここからは遠すぎます。」
奴隷か。人身売買は結局、現代にも存在していた。無くすことは出来ない。だがせめて彼らに一つだけ与えよう。
「一つだけ条件です。担保は一人だけにして下さい。それなら後払いでも良いですよ。」
「ありがとうございます。所で、武器を見せて頂けますか?」
「ええ、何が良いか選んでください。」
さて、商品何て一つもない。召喚すれば良いがスキルは隠しておきたいから輸送機で行うことにする。村長や他の村人も一緒に輸送機に行く。さっき目があった少女もついてきている。彼女も戦うのだろう。
草原にある、オスプレイは他に大きな物がないため目立っている。何の自動小銃を召喚しよう。基本、どれでも勝てるとは思うが使いやすい方が良い。
「少し待ってて下さい。」
俺は輸送機の前で村人を待たせておく。
「Ak-47召喚。」
悪魔の兵器が異世界に現れた。だが元の世界のように拡散される事は無いだろう。まだ産業革命もしてないない世界がこれを大量生産出来る筈がない。
木製のストックとグリップそしてバナナ型のマガジン、俺は弾倉を外す。万が一撃ったら大変だからな。ドアを開けて外に出る。村長や他の村人は不思議そうにマガジンの外れた銃を見ている。
「これが一番のオススメです。遠距離の敵を容易く殺せます。」
「本当にこれが……。どのように使うのでしょうか?」
手頃な的が無い。俺は再度オスプレイに戻って的を召喚し実演する事にした。
「危ないから少し離れて私より前に出ないようにして下さい。」
村人を下がらせて、俺は的に向けて発砲する。ターンという短い音が辺りに響く。村人は大きな音に驚いて耳を塞いでいる。近づいて的を見に行くと穴が空いていた。銃が手に吸い付くように自然と扱えたことに少し驚いた。これもスキルの力だろうか。
「なんと!こんな硬い的をいとも簡単に貫通している。しかも弓よりも遥かに遠い距離で。これにします。是非ともこれを村人全員分下さい。」
「分かりました。予備も含めて明日にでも持ってきます。」
この場で人数分出すのは簡単だが帰りたい。ここに居たらスキルを簡単に使えない。俺は村長に安全装置をかけてマガジンを外したAk-47を渡す。
「お待ち下さい。担保を先に渡しておきます。」
「すいません忘れていました。それで担保はどこに?」
「あなたの前の彼女ですよ。」
村長はさっき目が合った子を指差す。彼女は今にも泣きそうな悲しい表情をしている。悪い事をしてしまった……。彼女は俺の所に来るのが嫌なのだろう。彼女は周りの村人に別れを言っている。やがて名残惜しそうに輸送機に乗ってきた。草原にオスプレイの影が長く伸びている。
「明日また来ますのでそれでは。」
「ええ、さようなら。」
村長はオスプレイから離れて村へ帰って行った。
「南の空港まで、護衛機に連絡し護衛させて帰投せよ。」
プロペラが回り始める。最初はヘリコプターのようにやがてプロペラそのものが回転を始めて飛行機のように飛び始めた。少女はコックピットから空を眺めている。
「ありがとうございます。」
ポツリと彼女はつぶやいた。夕日に照らされた彼女の顔は少し赤く感じる。オスプレイは雲の上を飛んでいる。夕日が地上よりも眩しい。
「お礼を言われるような事はしてないよ。」
「いえ、私を連れ出してくれたことです。村のみんなも感謝しています。」
まさか、だって俺がやっている事は人身売買だ。感謝されるわけが無い。俺は酷い人間だ。でも俺に出来る事はあれぐらいだった。無人兵器で領主を殺しても後に残されるのは混乱だけ。その後の対応が出来ない俺が軽々しく行ってはならない。だから武器を売った。感謝されるわけが無い。
「何故?」
彼女は少し驚いた表情をして俺の短い質問に答える。軍用機特有の振動音が答えを聞きづらくした。
「みんなは死ぬ気なんです。既にほとんどの子供と女性は他の村に逃げています。私だけが親族もいなくて逃げられなかったんです。でもドラゴンを倒せるあなたが来た。あなたは武器商人だから村のみんなは一芝居打って私を逃がしてくれた。みんなにとって武器はどうでも良かったんです。」
あぁそういう事か。気づけなかった。彼らは彼女を逃がせれば他はどうでも良かったのか。思えば村人は男の人が多かった。村長も一人で紅茶をいれていた。騙された。初めての商売は大失敗だな。
「ごめん、聞こえなかったよ。それより君の名前は?」
「え、私の名前ですか……。私はミーラです。私はあなたを何と呼べば良いですか。」
聞かなかった事にして話題を変えたけど、どうしよう。名前が思い出せない。それどころか前の世界の知識は沢山覚えていても身近な事が何も思い出せない。家族。住んでいた家。友達。そういう物が俺の記憶から消えている。
「好きに呼んでくれていいよ。名前が思い出せないんだ。」
「ではご主人様と。」
「いや、それはやめてくれ出来れば別のに。」
ミーラは猫耳を手で弄りながら、考えてこう告げた。
「ユータ。昔昔、魔王を倒した勇者の名前です。その人も黒髪、黒目だったそうです。どうですか?」
「うん、ありがとう。その名前大切にするよ。」
「あ、あれは何ですか?ユータ様。あの前から飛んでくるのは」
「F-15。あれは戦う鳥。あれがドラゴンを倒したんだ。」
一機のオスプレイに一機のF-15戦闘機が護衛に加わった。一行は再び無人島に向かう。
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