異世界の死の商人

ワナワナ

第1話

 気づいたらそこにいた。

 ただ一人。砂浜にたたずんでいた。俺はGPSで自分の位置を確認しようとスマホを開いた。しかし自分の持つスマホは繋がらず、目の前には海が開けている。

 濃紺の海。水平線の上に広がる入道雲。眩しい太陽。どこか現実離れした景色。こんなにきれいなダークブルーの海、前に見たのはいつだろうか?思い出せないほど遠い。バシャン、バシャンと波が砂に打ち付ける。自分の足元まで波が来た。

 きれいだが状況は一刻を争う。俺は人を探すことにした。とにかく情報が欲しい。携帯が繋がらない今、頼るべきは人だ。そのために俺は海沿いを歩き続ける。でも歩けど歩けど一切の人が見当たらない。


 六時間ほどだろうか、また見た覚えのある景色になった。ここは島。それも無人島。俺は一周して来たということだ。この事実にたどり着くまで数分を要した。生きて行ける訳がない。俺はここでは何の価値もない金とスマホしか持っていないのだから。

 南の島なのだろうか、暑い。俺は服を脱いでとりあえず休む。足が棒のようだ。もう歩ける気がしない。砂浜に足を広げて休み、ただ海を見る。海風が悲しくもこれが現実である事を突きつける。 陸地も見えやしないただの海。ここは絶海の孤島。


 あまりにも暇で俺はスマホを取り出した。そしてある事に気づいた。スマホを持つ右手。そして何も持たない左手。左手から文字が浮き上がっている。不思議な色の文字。色が青、水色、黄色、緑、橙、赤とくるくると変わっている。


スキル

武器召喚

武器使役

特性

不老不死


武器召喚……?俺は右手で武器召喚の文字をタップする。


武器を召喚するスキル。


この一文しか書かれていなかった。

ならこっちはどうだ?俺は武器使役をタップする。


武器を使役するスキル。


 不気味だ。あまりにも短い。ゲームのようなスキルだと言うのならもう少し説明してほしかった。

 手抜きにも程がある。きっとこの世界の神は面倒くさがりに違いない。俺はこの左手に刻まれた文字でここが異世界であることを悟った。


 まずはスキルを試してみる。

ハンヴィー召喚。

 沈黙。しかし何も起こらなかったようだ。みたいな字幕が流れてもいいぐらいだ。ただ俺の前の砂を波が叩いているだけ。さっきより海が俺に近づいている。スキルが働いていない。

 この島で生きていける唯一の可能性が潰えた。待てよ現実としてこの左手に浮き上がる文字があるのにスキルが使えないのはおかしい。

 おそらく俺の使い方が悪いんだ。


「まじで、ハンヴィーさん来てくださいお願いします。何でもしますから。」


 波打ち際に四輪の軍用車両が現れた。もう一度言おう、ハンヴィーが来た。ハンヴィーとは、アメリカ軍の軍用車だ。車体の割に小さいフロントガラス。重厚感のあるドア。上にあるM2重機関銃。水で濡れた砂のような色。間違いない。これはハンヴィーだ。実物は見たことは無いが直感で分かる。

 俺は車の中に入る。運転免許は持っていないが警察もいないし問題ない。俺は運転しようとしたが分からなかった。どこを押せば動くのかさっぱり分からない。スキル、武器使役を使ってみるか。

 前進!……動け!……こいつ動く素振りも無い。スキルが壊れているのか?まさかそんなはずはない。

 なるほど。スキルの使い方がわかった。


「前進!波の来ない場所で停車せよ。」


 エンジンに火が入った。まるで誰かが操作しているかのようにハンドルが回る。やがて車は森と砂浜の境界線で停車した。思った通り。


 スキルは言葉にしないと発動しないんだ。


 運転席に座って考える。このスキルがあればおそらく俺は余裕で生きて行ける。モンスターもまだ会った事もないが多分倒せる。そう確信した。

せっかくこんなスキルを貰って異世界に来たのだ。俺のミリオタの血が騒ぐ。召喚できるものは全て召喚してみよう。


「軍港、空軍基地、駐屯地、それらに付随する全ての兵器を召喚せよ!」


 視界が暗転した。耳鳴りが聞こえていたけど、それすらも遠のいていく。頭が揺れる。知らなかったこんな反動があるなんて……。

次はきをつけて……。あとは のみみず をてにいれないと……。いや、 ひと とあうことがさき?

だめだ、しこうすらも ふ め い り ょ に…………。

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