21.アリエッタちゃんツインテフォーム
「おっ、美味いなこれ。食べた事ない味だ」
「私のお気に入りなんですよ。アリエッタが気に入ってくれて良かったです」
訓練所へポーションの出張販売に出向いていた際に、同じく魔術関係の指南役として訓練所へ来ていた彼女と話す機会はよく有ったのだが、たまたま俺の休みとリアクタの休みが重なったので、彼女からデートに誘われたのだ。
仕事ばかりで未だ王都に不慣れであろう俺を色々と案内してくれるらしい。美少女からのお誘いとあらば断る訳にはいくまい。
ウキウキ気分でリアクタとのデートにやってきた俺は、まずは軽く腹ごしらえということで彼女の行きつけの喫茶店にやってきたのだ。
モッチモッチと異世界のよく分からんスイーツを頬張っていると、リアクタが次の行き先を提案してきた。
「この後なんですけど、お洋服を買いに行きませんか?」
「おっ、いいねえ。リアクタのファッションショーなら見応えがありそうだ」
前世どころか現世でも中々お目にかかれないような美少女であるリアクタの洋服選びなら、ファッションへの興味が皆無な俺でも楽しめそうだ。しかし、リアクタは俺の発言に首を横に振った。
「いえいえ、私じゃなくてアリエッタのお洋服ですよ」
「えっ。俺の?」
「はい。その、失礼かもしれないですけど、アリエッタっていつも同じ様なお洋服を着ているので……私、アリエッタに色々お洒落をしてみてほしいんですっ」
言われてみて、俺は自分の服装を確認した。
清潔感はあるが、装飾が胸元のリボンのみで華やかさが欠片も無い露出ゼロの長袖ブラウスに、足を見せる気が全くないロングスカートにブーツの組み合わせ。まあソシャゲだったら最低レアリティ間違い無しのストロングスタイルなモブキャラファッションである。
Perfect.
俺は内心で自分の完璧なファッションをネイティブな発音で褒め讃えた。間違っても世界のメインシナリオに絡むことがない完璧なモブキャラのファッションセンスである。更に上を目指すなら上下芋ジャージにしても良いかもしれない。
しかしリアクタはそんな俺のモブファッションがお気に召さなかった御様子。
「いけませんっ。せっかく女の子に生まれたんですから、もっと着飾らないと!」
えぇ~。でもなぁ~~~。
防御力も属性耐性も無い服とか、一体何を基準に選べばいいのか全く分からんしなあ。
前世でも平日はスーツ、休日はジャージというクソみてえなファッションで過ごしてきた俺にいきなり服を選べと言われても困ってしまう。
俺がそんな感じのことをこぼすと、リアクタが逃げ道を塞いできた。
「安心してくださいっ。アリエッタに似合いそうなお洋服は既に調査済です。全部私に任せてくださいっ」
どうしよう。リアクタの愛が重い。そして顔が近い。テーブルに身を乗り出してキラキラした視線を向けてくるリアクタに俺は照れくさくて顔を逸らしてしまう。
……仕方ない。ここまでお膳立てしてもらっているのに頑なに拒絶するのも彼女に失礼だろう。俺はリアクタのデートプランに乗っかることにした。
「それじゃあ、お願いしようかな。でも俺そこまで金持ってないから、あんま高いのは勘弁な」
「そこは安心してください。私もよく使ってる大衆向けなお店ですから」
という訳で俺とリアクタは異世界しまむらに行くことになったのだ。
**********
その後、俺とリアクタが軽くお茶と雑談を楽しんでから喫茶店を出た時のことだった。
「お姉ちゃ~~~んっ!」
うげふっ。俺は背後から腰にタックルを喰らって呻き声を上げた。
背後を振り返り、下手人の顔を確認しようとすると、そこには故郷で俺の帰りを待っている筈の少女が俺の腰にスリスリと顔を擦りつけていた。
「ええっ、ミラちゃん?なんで王都に………?」
「お姉ちゃんにどうしても会いたくて………お父さんに無理を言って連れてきてもらったのっ」
「そうなのか?それなら言ってくれれば出迎えたのに」
「ううん。急だったし、お姉ちゃんもお仕事してるんだから、迷惑をかけたくなかったから……」
「ミラちゃんに会えるのに迷惑だなんて思うわけ無いじゃないか。久しぶりに顔が見れて嬉しいよ」
「お姉ちゃん………」
俺は腰に抱き付いているミラちゃんの頭を撫でる。可愛らしい少女にそこまで想われているというのは悪い気はしないな。
「でも、よく俺がここに居るって分かったな。テイムやマスターにも行先までは伝えてなかったのに」
「お姉ちゃんが今日はお休みなのは事前の調査で知ってたから、朝からこっそりと後をつけてたの」
「……うん?あ、ああ、そうなんだ……」
何だろう。俺の聞き間違いじゃなければ、俺は12歳の少女にストーキングされていたらしいぞ。
………まあ、きっと俺が何か勘違いしているんだろう。追及するのが怖いので俺はミラちゃんの発言をスルーすることにした。
「もしも、お姉ちゃんがゴミ……んんっ、都会で悪い男の人に騙されていたら、私が出て行って助けるつもりだったんだけど、綺麗なお姉さんとお茶をしてるだけだったから、安心したら隠れてるのが我慢出来なくなっちゃって……」
「そっかそっか。今日ってめっちゃ天気良いよね。お日様サイコー」
俺はミラちゃんからチラチラ見えてる闇を直視したくなくて、話題を変えようとした。
だが、俺が話題を変えるよりも先にリアクタがおずおずと発言の許可を求めるように挙手をする。
「えっと、アリエッタ。その子は……?」
「ああ、紹介が遅れてごめん。この子は俺の故郷の友達でミラちゃん。ミラちゃん、この人はリアクタ。王都で出来た俺の友達な」
俺が双方にお互いの紹介をすると、リアクタが軽く屈んでミラちゃんに目線の高さを合わせた。
「初めましてミラちゃん。アリエッタのお友達のリアクタです。よろしくね」
「ミ、ミラです。よろしくお願いします」
リアクタがにっこりと微笑むと、ミラちゃんは恥ずかしそうに俺の後ろに隠れてしまった。
ミラちゃんは元々ちょっと人見知りな所があるし、リアクタみたいな美少女に見つめられて照れ臭くなってしまったのだろう。
リアクタはそんなミラちゃんを見て微笑むと、名案を思い付いたといった感じで、ポンと両手を合わせた。
「ミラちゃん。もし良ければ、私と一緒にアリエッタのお洋服を買いに行きませんか?」
「えっ。私も付いて行っていいんですか?」
確かに、せっかく俺に会いに来てくれたミラちゃんとこのまま別れるのも忍びないし、リアクタとミラちゃんさえ良ければ一緒に行動するのはやぶさかではないのだが………
「でも、俺の服を選ぶだけなんて……ミラちゃん退屈じゃないかな?」
「分かってませんねえアリエッタ。女の子は自分を着飾るのも好きですけど、誰かにお洒落をさせるのも大好きなんですよ?」
そういうものなの?ミラちゃんがリアクタの言葉にコクコクと首を縦に振っているので、そういうものらしかった。
「それじゃ、行こうかミラちゃん」
「うん!」
俺はミラちゃんに手を差し出すと、彼女の小さくて柔らかい手が俺の手のひらをギュッと握った。
「あっ、いいなミラちゃん。それじゃあ私もっ」
その様子を見て、リアクタが反対側の空いている俺の手をギュッと握りしめた。
「さあ、行きましょうアリエッタ!」
「そこはミラちゃんの手を握るところだと思うんだけど……まあ、いいか」
両手に花という奴である。リアクタの手から伝わる体温にちょっぴりドキドキしながら、俺は歩き出そうとしたのだが、ミラちゃんの様子がおかしい。
「……リアクタさんからも危険な匂いがする……お姉ちゃんも何だかデレデレしてるし……」
何やらブツブツと呟きながら虚ろな目をしているミラちゃんがとっても怖かったので、俺は何も見なかったことにした。
**********
「思った通り!凄く似合ってますよアリエッタ!ミラちゃんもそう思うよね?」
「お、お姉ちゃん……かわいい……!」
異世界しまむらに連行された俺はリアクタとミラちゃんによって羞恥プレイを強要されていた。
俺は試着室で口をむにゃむにゃさせながら、ファッションコーディネーターのリアクタとミラちゃんに抗議した。
「う、うぅ~~~……リ、リアクタ……このスカート短すぎないか?太ももが見えるスカートとか初めて履いたぞ俺」
「そこが良いんですよ。生足を出せるのは10代の特権ですよ?」
「ブラウスも何か肩丸出しだし………ミラちゃん、露出がもうちょい控え目な上着を……」
「お姉ちゃんはお肌が綺麗なんだから、もっと見せないと勿体ないよっ」
クソがっ!二人して俺の反対意見を悉く潰してきやがる。おやおや?ミラちゃん、その手に持ったフリフリの黒リボンはどちらから?あっちのアクセサリコーナーから?うんうん、ミラちゃんによく似合うと思うよ?えっ、違う?
「リアクタさん!私、お姉ちゃんをツインテールにしてみたいですっ!」
「名案ですミラちゃん!」
やめろォーーー!前世の年齢を考慮しなくても、俺もう17歳だぞ!?この歳でツインテとか二次元美少女以外やっちゃ駄目な奴!
俺は全力で抵抗しようとしたがリアクタにガッチリと両腕を拘束されてしまった。
すごい力だ!全く抵抗出来ない!
細い見た目をしてるのに流石は勇者パーティーの一員である。抵抗が無駄であることを悟った俺は全てを諦めて死んだ目でミラちゃんにツインテをセットされるのだった。
**********
その後、数時間にわたって二人に着せ替え人形として弄ばれた俺は、二人のセレクションの中から出来るだけ露出が控えめな服を選んで購入し、異世界しまむらを後にした。
「うぐぐ、足がめっちゃスースーする……」
「お姉ちゃんって村では足が見えるスカート全然履かなかったもんね。すごく似合ってるよっ」
「あんまり恥ずかしがってると、逆に目立っちゃいますよアリエッタ?」
膝上丈スカートの防御力に不安を感じている俺の頭の両サイドでピョコピョコと尻尾みてえなものが跳ねる。ツインテ継続中である。
こんな頭で街歩きなんて死んでもしたくなかったのだが、ツインテを解こうとするとミラちゃんがとても悲しげな瞳を向けてくるので、俺は我が身を犠牲にすることにしたのだ。
「今日はとっても楽しかったです!また一緒に遊びましょうねアリエッタ!」
「ああ、次はリアクタの服を見に行こうな………」
気が付けば夕暮れが街を赤く染め始めていた。俺はリアクタと次回のデートの約束をしつつ別れを告げる。
次回のデートでは、今回の報復としてリアクタに絶対ドスケベな服を着せる。俺は心に固く誓った。
「……さて、それじゃあ俺達も帰ろうか。ミラちゃんはどこの宿に泊まってるの?送っていくよ」
「ありがとうお姉ちゃん。……でも、その前に一個だけお願いがあるの……」
「ん、なんだい?」
「……その、少しでいいから、お……お姉ちゃんの部屋に行ってみたい……」
なんだそんなことか。俺はもちろん快諾した。
マスターから借りている部屋ではあるが、少し見せるぐらいなら別に構わないだろう。もしかしたら、ミラちゃんは王都に住んでみたいのかもしれないな。
「構わないけど、もう遅いし少しだけだよ?」
「う、うんっ。ありがとうお姉ちゃん!」
**********
「ただいまー」
ミラちゃんを連れて銀猫亭に戻ると、テイムが閉店の準備をしているところだった。
「おう。おかえりアリ……エッ……タ……?」
テイムがぎょっとした顔で俺の全身を爪先から頭まで確認する。
「……アリエッタだよな?」
「……深い事情があるんだよ。そっとしておいてくれ。あと足を見すぎだ」
「見、見てねえよっ!」
いや、見てただろ。
男だった時は分からなかったが、女になってから他者の視線に妙に敏感になった気がする。
まあ別に何とも思っていない相手でも、ふとももやおっぱいが目の前にあれば見てしまうのはホモサピのオスにデフォルトで付与されている呪いだ。
元男として気持ちはよく分かっているのでこれ以上は突っ込まないが。
テイムがあらぬ方向に目線を逸らしながら話題を変える。
「あー、そ、それよりもだ。アリエッタの隣の小さいのは誰だ?」
「ああ、この子はミラちゃん。俺の故郷の友達なんだけど、たまたま王都に来ていてな。俺の部屋が見たいって言うから連れてきたんだけど構わないか?暗くなる前には宿に帰すからさ」
「それは別に構わないが……さっきから、そいつが凄いジッと俺を見てくるんだが……」
……ミラちゃんがテイムを無表情でガン見していた。完全に瞳孔が開いてやがる。
何だか分からんが嫌な予感がしたので俺はミラちゃんの手を引いて、さっさと部屋へと案内することにした。
**********
「ここが俺が使わせてもらってる部屋だよ。何も無くてミラちゃんが見ても面白くもないだろうけど」
「お、お邪魔します……」
ミラちゃんがおずおずと室内に足を踏み入れる。俺の部屋は殆ど寝る場所といった感じなので、飾り気のない殺風景な部屋だったのだが、それでもミラちゃんは興味深そうに室内を見回していた。一つしかない椅子をミラちゃんに勧めると、俺はベッドの端に座った。
「……ありがとうお姉ちゃん。今日は本当に、とっても楽しかった」
「どういたしまして。俺も久しぶりにミラちゃんと遊べて楽しかったよ」
「そのお洋服、ちゃんと着てね?いつもの飾らないお姉ちゃんも素敵だけど、せっかく可愛いんだからもっとお洒落しないと」
「うっ……ま、まあ、埃が被らないように気を付けるよ……」
俺はスカートの端を摘まんで苦笑した。正直タンスの肥やしになりそうだけど、折角リアクタとミラちゃんが選んでくれたのだ。気が向いた時には着てみるのもいいだろう。
………おっと、忘れるところだった。
「ミラちゃん。ちょっと目を閉じてくれる?」
「えっ、えぇっ?ど、どうして……?」
「いいから」
「……は、はい……」
ミラちゃんがギュッと目を閉じた。俺が彼女を抱きしめるように腕を背後に回すと、ミラちゃんはビクッと肩を震わせる。
「はい、出来た。目を開けてもいいよ」
「……えっ?あっ……これ……」
ミラちゃんの胸元に細い鎖で繋がれた小さな細工が輝いていた。
「お姉ちゃん、このネックレスは……」
「今日のお礼。俺の服を選んでもらってる時に見つけたんだ。ミラちゃんもそろそろ大人っぽいアクセサリが欲しいかなと思って」
うん、よく似合っている。俺の見立ても捨てたもんじゃないな。俺は満足げにミラちゃんに微笑んだ。
「よく似合ってる。凄く綺麗だよ、ミラちゃん」
「………お姉ちゃんっ!」
次の瞬間、ミラちゃんが飛びつくように俺に抱き着いてきた。ぐへぇっ。貧弱なモヤシ娘である俺はミラちゃんの質量を支えきれずに背後に倒れこむ。……必然的にミラちゃんにベッドに押し倒されるような形になってしまった。
「あはは、そんなに喜んでくれるなら、俺もプレゼントした甲斐があったよ」
「お姉ちゃん……私、お姉ちゃんのことが好き。大好き」
「お、おう。俺もミラちゃんのこと好きだよ」
ミラちゃんからのストレートな好意に、俺は照れ臭くなって顔が少し赤くなるのを感じた。
「………違うの」
「ふぇっ?」
ミラちゃんが潤んだ瞳でジッと俺を見つめた。
「私の"好き"は………こういう"好き"なの………」
次の瞬間、ミラちゃんの小さな唇が俺の唇に重ねられた。
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