第9話 毒女~山之内沙夜~

動画に映っていた毒性のエイリアン憑きの女性に会うべく、動画が撮影されたと思われる街、渋谷を探索する御影と壮介。


名前も知らず手がかりはあの動画のみ。

静止画にした画像を街行く人々に見せたりしながら地道に探すほかない。


探し始めて半日、それらしい姿は何処にも見当たらない。


「もういいんじゃないかぁ?目付き悪い女だったし性格最悪かもしれんぞ?勝手にエイリアン憑きどもを掃除してもらうとして俺らは俺らでやっていこうぜ?」

面倒くさくなった壮介は駅前で立ち止まってあの女の仲間入りを諦めるよう御影に促した。

「でも、今は1人でも多くの仲間が必要じゃん?さすがにこれだけエイリアンが頻繁に現れる状況であたしらだけじゃ手に負えないって」

御影の最もすぎる意見に壮介は頭をポリポリと掻きながら再び歩き出す。


と、その時、地下鉄の出口から見覚えのある黒髪ボブヘアの女性が出てきた。

モデルばりのスタイルに端整な顔立ち、目付きは悪いが間違いない美人である。

スキニーパンツが長い足を強調していた。


「あれは…間違いなくあの動画の女だ!やっと見つけたぜ!さっそく声かけ…」

「ちょっと待って」

喜び勇んで駆け寄ろうとする壮介を御影が制止した。

「なんだよ?どっか行っちまうぞ?」

「そのどっかについていこうよ。気配から察するにお買い物とか待ち合わせってわけじゃなさそうだし」

御影の提案に従い、壮介は御影の少し後ろを歩いて共に後をつけた。


5分ほど歩いて着いたのはとある商店街。

人々が行き交う中、女性は立ち止まったままですれ違う人を見ている。

キャップを深くかぶった男が若い女性のほうへ近づこうとしたその時、ボブの女性は素早く男の前に立ち行く手を阻んだ。

「昨日の夜、この商店街付近で若い女性2人が倒れてた。2人は衣服は溶けて肌は爛れていたんだと。2人はここで買い物を済ませて帰る途中に忽然と消えてしまった。あんたによく似た風貌の男とすれ違った瞬間に、だ。監視カメラに映ってたぞ」


女性が言うと男の顔は緑へと変色して形はトカゲのように変わっていった。


周囲の人々も悲鳴をあげてその場から逃げ出した。

1人の子供が転んでしまい逃げ遅れた。

母親が駆け寄ろうとすると男の舌がカメレオンのように伸びて母子へと襲いかかった。

その舌の速さは普通の人間の目には止まらぬ速さで母子は気づいていなかった。


が、男の舌は母子に届くことなく、ボブヘアの女性に切断された。


「ギャアァァア!ガッアガッ…」


男は言葉を発することも出来ず、暫し痛みに苦しんだ。

しかし、不適にニタリと笑うとミチミチと舌を再生し始めた。

再生しきると男は女性に飛び掛かり「お前から飲み込んでやる!」と舌は使わず大口を開けて女性を頭から飲み込もうとした。

壮介の「危な…」という声と同時に男は跳躍力を失い、地面に落下した。


「…はえ?なんだ?体が痺れ…いや、こりゃあ…腐って!?」

男の体は黒ずんだ深い紫色へと変わっていった。

「さっきお前の舌を切った刃は私の毒で作ったもんだ。お前の体には既に毒が回りきってんだよ」

男の体からは緑色のエイリアンが分離し始めていた。

「待てよ…再生しろよ!」

エイリアンに向かって男は叫ぶがエイリアンは男の体から逃げ出そうとしている。

「おっと。無駄だぜ?その男とガッツリ一つになってた時に受けた毒だ。お前にも回りきってるよ」

笑いながらエイリアンにも死を宣告する姿は邪悪ですらあった。


やがて男もエイリアンも腐りはて砂塵のように変わっていった。


ボブヘアの女性が手にしていた紫の刃はスウッと消えていった。

「さて…そこのデバガメ2人!なんの用だよ?」

ボブヘアの女性が強めの口調で御影と壮介に問うてきた。

「あ、やっぱりバレてた?いやぁお姉さん強いね!良かったら俺らのチームに入って…」

「強いのか?あんたら」

壮介が言い切る前にボブヘアの女性が聞いてきた。

「え…強いっちゃ強いかな?俺はBクラスくらいをけっこう退治してるし、このJKはバカ強いよ?」

壮介が少しドモリながら答えた。

御影がザックリした壮介の紹介に不満げな顔をしながら言う。

「とりあえずは名前かな?私は幸村御影。17歳。Aクラスのエイリアンのアモンが憑いてる。能力はイメージの現実化。現実に在るものを自分のイメージで攻撃や防御に使える、って感じ」

「ども。草加部壮介っす。三十路。一応Aクラスのエイリアンのギラが憑いてる。特性は青い炎。火力は無限」


2人の自己紹介を聞いて少し間が空いて女性が名乗る。

「山之内沙夜。22。マダラって奴が憑いてる。能力は毒の武器化。で、お前らだけか?チームってのは?」

沙夜の問いに御影が嵯峨根警部がチームのリーダーであることと、暴走するエイリアン憑きの退治、味方になり得るエイリアン憑きを集めていることを話した。


「ふーん、それであたしに入ってくれ、と。いいぜ?ただし、あたしから一本取りな。そしたら一緒に戦ってやる」


沙夜の不敵な笑みと提案に壮介が「いいぜ?やってや…」と言いかけたのを御影が遮る。

「あたしだけでいいよね?時間もったいないでしょ?」

「おーい、御影ちゃん?僕は負けるって決めつけてないかい?ひどない?」と壮介が言うも聞く耳は持ってくれない御影である。


「あたしもやるならお前が良かったから丁度いい。場所は変えようか」


御影VS沙夜。最強JK対最強クールビューティ。

三十路男は特等席にて観覧である。

(忘れてならぬは一応この男は強いのである)







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る