第1話 開かずの扉のその先は - 2

「さぁ、行こうよ。霧山っち」


 夜、一人ぐらしの俺の家の扉を開いた先にいたのは、久我だった。俺は1人で一軒家に住んでいる。家族はいない。戦争で死んだ。両親、妹みんな死んだ。だから俺は、親の遺産を使って1人で暮らしている。今日はカレーを作っていたのだが、夜21時位にこの久我がセーラー服のままやってきた。


「あ、カレーの匂いじゃん。食べさせてよ」


 久我はそう言ってずかずかと部屋に上がり、もうじき完成だった作り置きする予定のカレーの鍋を眺めた。


「デリカシーって知ってる?」


「知ってたら、今スプーン持って座ってないよ」


 俺は久我にカレーをよそって、さらに自分のものもよそった。そして、テレビをつける。


「ありがとう。優しいね」


 久我は笑う。いや、優しいのは俺ではなく久我なのだ。家族が死に天涯孤独になったこの俺のことを、久我はずっと気にかけてくれていた。だからこそ俺はぐれずに普通の高校生になれたのではないかと思う。


”死の国の軍隊が獣の国に侵攻し、数百の死者を出しました”


 そんなフレーズがテレビから流れてきて、辟易とする。この世界には5つの大国と、どこにも属さない無所属の場所がある。俺は元々この場所ではない別の無所属の街の出身であったが、その街は正義の国の進軍により、滅ぼされた。5つの国の大戦だが、無所属の街も領土拡大のために一方的に襲われることがあり、もはやこの世界に住む者達に安寧という言葉はあり得ない。


 この場所も利用価値があると判断されれば、襲われる。


「よし、ごっそーさん」


 久我が手を合わせた。


「行くよ、霧山っち」


「行くってどこに?」


「開かずの扉」


 そう言って、久我は手招きする。


 ジャージに着替えていた俺は、再び学ランに着替えた。


「律義だねぇ」


「学校に行くんなら、制服が当たり前だろ」


 俺はしぶしぶ家から外に出た。


 街頭に照らされる薄暗い道を歩く。


「ねぇ、なんで、今日嘘ついたの?」


 久我が尋ねてくる。


「何がだよ」


「だって、昔っから言ってたじゃん。”俺は戦争を止めるために、この世界の王になるんだって。俺が王になって、戦争なんて起こらない、平和な世界を創るんだって”。あたし、その夢好きだったんだけど」


「俺も大人になったんだよ。サイコロすら持ってない俺がそんな夢語ったって、馬鹿にされるだけだろ? それが分かるようになっただけだよ」


 久我がため息を吐いた。


「偽りの夢を語って馬鹿にされないより、本当の夢を語って馬鹿にされたほうが、100万倍かっこいいのにさ」


 久我がそう口にする、月が綺麗なそんな夜だった。



 


 


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