開かずの扉を抜けた先は、双六の世界だった。

人間 計

第1話 開かずの扉のその先は - 1


 俺の高校には、1つの扉がある。銀色のその扉は、ただただ校舎の裏庭にぽつんと存在しており、不可思議に思う。


 それはただの扉だ。両開きで鍵はついていない。だけど開かない。クラスの力自慢の男が3人で開けようとしても、びくともしなかった。別に力自慢でない俺も、それを開けようとしてみた。だけど、それはまるで開かず、少し面白くなってしまったのを覚えている。


 その扉の最も不可思議であるところは、扉が単体で存在しているってところだ。普通、扉ってどこかとつながっている。だって扉は、部屋ないし建物に入るために存在しているものなんだから。でも、それはただただ単体で雑草の中にポツンと存在している。

 

 高校の授業は退屈で、俺はあくびする。 “サイコロ学“の授業は俺の最も嫌いな授業で、それは当然なのだ。みんな2つのサイコロを持っていて、それは齢15歳になった際に、枕元に現れる。色とりどりカラフルで、人によって色は違うそんなサイコロを、みんな持っている。”俺以外は“

 

 15歳になる前日、子供たちはとてもわくわくして眠る。翌日起きると、その不思議なサイコロが手に入るんだから。でも、俺の15歳の誕生日、俺のわくわくは全くの意味をなかった。朝起きても、枕元にサイコロはなかったのだ。そのことをみんな、そうみんな不思議がった。もちろん俺も。だけど、ないものはないし、それは俺のコンプレックスだ。


「サイコロを振るとサイコロ能力、通称サイ能と呼ばれる特殊な力が発現するのは周知の事実だが、その能力の強弱はなにで決まる? はい、出席番号順で霧山、いや、その次の久我、答えてくれ」


 なぜか俺が飛ばされ、次の久我が当てられる。先生、ありがとう、サイコロを持っていない俺への配慮ですよね。でも、俺は別に大丈夫です。


 そう言いたいが俺は言葉を口に出さない。


「サイコロの出目です。2つのサイコロを振った出目の和が確率的に出にくいほど能力は強くなり、出やすいほど能力は弱くなります」


「はい、そうですね。だから、確率的に出にくい合計2と12が最も強く、合計7に近付くにつれ弱くなります」


 そんなサイコロ学の授業だ。ああ、退屈だ。そんな真っ昼間。太陽はまあまあ上がってきて、眠くなる5限目。


「ねぇ、知ってる? 開かずの扉、開いたんだってさ」


 後ろの席の久我優花がこそこそと喋りかけてきた。


「なんかさ、その類の噂っていっつも出回ってない?」


 高校生の性だろう。そんな不思議な扉があると、ついつい噂話の1つ2つしてしまいたくなるのだろう。


「いや、ほんとなんだって。だって1組のよっちゃんが言ってたもん。この前の深夜0時、あの扉が開くのを見たんだって」


 よっちゃんって誰だよという突っ込みは野暮で、さらになんで深夜0時に学校にいたんだよという突っ込みも野暮で、とりあえず俺は頷く。


「あ、そう」


「あ、すっごいどうでもいい時の返事した。あたしショックだよ?」


「そりゃあかわいそうに」


 そんな平穏な昼下がり。先生にばれないように喋る。


「今日の夜さ、見に行こうよ」


「嫌だよ」


 あまり大きく声を出せない関係上、言葉も短文になる。


「ぶー」


 久我がそんな声を出した。この女はスラっとした高身長でなおかつ容姿も端麗で頭もいい。目鼻立ちの整った顔に真っ赤な口紅。黙っていれば恐ろしいほどもてるのだろうが、めちゃくちゃ喋る。そんな5限目、昼一の授業であった。


 6 限目、道徳の時間。今日はみんなが将来の夢について各々発表するらしい。昨日の宿題でやらされていたその作文を、俺は読む。


「俺の将来の夢は、公務員になることです。公務員になって、安定したそこそこの生活をするのが夢です」


 そんなことを原稿用紙2枚、すなわち400字程度で書いたものを、ただただ読んだ。


「嘘つき」


 後ろの席の久我がそうぼそりとつぶやいた。そんな6限目であった。

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