エピローグ 電子妖精に翅はない


 エリオット・リオネットのユアチューブチャンネル配信画面にて。



『この間は最悪だった。はぁ』


 ため息に反応するように沢山のコメントが流れていく。


『まあまあ。レーさんも心配しての事だと思うし』

『トネリコだってぐるだったんでしょっ、もう! レーだって、もう知らないんだからっ』


 画面の中のエリオットは揺れて怒りを表現している。


『キッズが来なかったらホントに結婚しようかと思ってたけどねー』

『なんでマリリがいるのっ、帰って! 呼んだ覚えないんだけどっ』

『あははっ、ピエロの叫び声は五臓六腑に染み渡るわ~っ』

『ううっ』


 エリオットは先日のドッキリの傷が癒えていないのか、しばらくマリリには勝てそうもない。もっとも語彙力に乏しい愚妹があのお喋りモンスターに正攻法で敵うとも思わないけれど。


「完全復帰おめでとう、エリオット」


 画面に映る彼女に言葉を送る。


 それにしても。

 随分とマリリに対抗心を燃やしている様子だったから、もしかしたら引っかかるかなと試したドッキリにああも鮮やかに引っかかるとは改めて将来が心配ではある。

 やっぱり中学校くらいは行かせた方が良いか。

 というか義務教育だしな。

 

 これまでは適当にいなしたり甘やかしたり、そんな対応をしてきたけれど案外イジれば面白い性格をしているのかもしれないし、お笑い枠として中学再デビューとかどうだろう。


 ……なにはともあれ。これでエリオットは復活、マリリとのアレコレも終わってようやく気分が楽になった。

 もちろん、用が済んだマリリはしっかりブロック済だ。


『それでさ、キッズ。待っていてくれたファンのみんなに、なにか一言ないの?』


 アフターサービスのつもりなのかブロックされたことに気がついていないマリリがエリオットのファンに気を遣っている。


『待つ?』


 キョトンとした様子のエリオットの視線が反れる。

 コメントを読んでいるのだろう。


『別に頼んでないし。……でも。エリのこと、エリの居場所なんて、ここにも、どこにも無いって。思ってたけど。人間って愚かで、救いようが無いって。どうしようもない人ばかりでとてもかんしょーには耐えられない存在だと思ってたけど』


 エリオットは胸にそっと手を当てた。


『でも、違うのかな。こんなに、エリのことを見てくれる人がいて。お帰りって言ってくれる人が居て。少しだけ、お前達を見直しました。少しだけ、今後も期待してあげる。だから。それを教えてくれた事には感謝してる。だから一回しか言わないからちゃんと聞いてねあのっ』


 まっすぐな瞳でエリオットが告げる。


『レー、大好きだよっ!』

『いやファンはどうした!』

 マリリの声が響き――。



 ――――本日の配信は終了しました――――





                           『翅のない妖精編』 完

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