電車で全国回って貧乏神から逃げるゲーム

「みんなー、こんルリー。うわ、もうこんなに沢山待ってくれてるー。そうです、今日はこの間お知らせした通り、わたしにとって特別なスペシャルゲスト、それも二人にお越しいただきましたっ!」


「エリオット・リオネットだよ。今日は後輩がどうしてもと言うから下界に降り立ったけど……。レー、人と喋りなれて無いから何話せばいいのか分からない」


 情けないっ。


 あっというまに配信開始時刻となり始まったトネリコさんとエリオットのコラボ。

 不安しかない立ち上がりだ。


「そうです、エリさんだけではなく、エリさんの配信ではお馴染みのレーさんにも来ていただいておりますっ」


 トネリコさんが妹が滞らせた場を繋いでくれる。

しかしこの調子で気を遣っていたら。もしかしてトネリコさん、今日過労で倒れるのでは?


「あ、えっと。はじめまして。エリオットの兄です。トネリコさんのファンの皆さんには申し訳ないのですが、いかんせん妹がコミュニケーション能力に問題を抱えているので、付き添いで参加させて貰っています。よろしくお願いします」


「ははっ、レー緊張してる。ださっ」

「ぶっとばすぞ!」

「はいー仲良し三人で百鉄やってきますよー」


 そうして、数時間続く百鉄配信が始まった。


〈コラボキター〉

〈だれよ横の女!〉

〈¥2300 お兄さん見てるよ〉

〈ルリルリに手を出したら、分かってるね。俺も出すよボロン〉

〈ルリルリ、よかったね!〉

〈姫、一人だとあんなに喋るのに……〉

〈父兄参加配信、新しい〉

〈家族にしか強く出れないとか誇らしくないの?〉

〈百鉄って最低でも三時間かかるけど、大丈夫かな〉


 コメントに目を通しつつ、あまり喋らないように配慮。

 そんな事を頭の片隅で考えつつ、ゲームは順調に進んでいく。


「レー、どうしてあんま喋らないの。初対面のトネリコいると緊張する?」

「エリちゃんじゃないんだから。ほら、トネリコさんというか、女の子の配信見てるのに男の声が入ったら嫌な人もいるかなって」

「大丈夫です、そんな悪い子はわたしの配信には居ませんので! いたら折檻しますので!」

「だってさ。というか三人いるのにレーが喋らなかったらトネリコ一人で喋る事になるよ? エリ、トネリコと何話せばいいかわからんし」

「そんな奴はコラボ断ってしまえ」

「あ、あの。できればトネリコではなくてルリルリって呼んでくれると嬉しいんですけど。その方が仲良く対戦できるかなって……」

「っていってるけど。オッケートネリコ、仲良くやろ!」

「トネリコさん、負けませんよ」

「ええー」


 こういう時の意地悪さは兄妹似るらしい。


〈折檻してくれるならお兄さん悪くいおうかな〉

〈レーのばーか! うんち! ……折檻、まだですか〉

〈エリちゃんじゃないんだから〉

〈俺でなくちゃ見逃しちゃう妹ディスリ〉

〈三人コラボなのにルリルリしか喋らないの草〉

〈悲報、ルリルリ呼びならず〉

〈さすが兄妹〉

〈トネリコさん呼びとかいうATフィールド〉

〈エリちゃんの攻略難度だけじゃなくて兄の攻略難度も高いやんけ!〉

〈トネリコさん呼びはじわる〉

〈¥10000 藁〉


 コメントが流れていく。妹がいるとはいえ他人の配信に部外者が参加するってのはかなり緊張する。ゲーム画面では……。


「あの、今気が付いたんですけど。この配信画面にいる、エリちゃんの頭にのってる饅頭みたいな顔、動いてません?」


 一頭身? のキャラクターが口をパクパクさせている。


「それ、レーだよ」

「え。僕って饅頭だったの」

「そうだよ」

「あはっ、内緒にしてたんですけどエリさんがそのモデルが出来るまで配信は待ってと」

「トネリコ、余計な事は言わない。刀狩りカード使っちゃうよ」

「わわっ、それは困りますー。ああっ、わたしの特急カード!」

「……なぜ饅頭」


 試しに眉毛を動かしてみる。配信画面の饅頭の眉毛も動いた。……えぇ。


〈気づいてなかったのか〉

〈そうだよ。レーは饅頭なんだよ〉

〈姫、兄のために2Ⅾモデルを依頼〉

〈饅頭たべたい。飯テロ?〉

〈ルリルリ可愛い!〉

〈おいおい可愛いかよ〉

〈自分が饅頭だと自覚したとたん眉毛動かしてて草〉

〈僕って饅頭だったのって、一生言う機会ないやろ〉

〈姫ー、頑張れー〉

〈あ、刀狩りされてる〉

〈悲報。トネリコさん、迂闊な一言で財産を失う〉

 ゲームが進み、段々とその楽しさも分かって来た。

 妹もだんだんと楽しくなってきたようで徐々にトネリコさんと喋る事が増えている。


 …………。


 ……。


 これが、社会復帰?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


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