電子妖精はコラボする

 マリリ発情事件から数日。


 リビングのソファに座っていると、ソファの周りをウロウロする妹が目に映る。


「なに、エリちゃん」

「コラボ。決まった」


 フットワーク重いな。トネリコさんと連絡とってから結構な日数経ってるぞ。


「で?」

「付き添って。エリ、一人じゃむり」

「やだよ、めんどくさい」

「レー」


 妹が隣に座りスマホの画面を見せつけてきた。


「なにそれ」

「お母さんに、今後の生活費はエリが払うって言ったらオッケーって来た。どういうことか分かる?」

「えっと、エリさん?」

「レーの食費などはエリが払うって事。よく考えてね」

「……」


 妹として甘えてくる方がまだましな方法で交渉されてしまった。母が本当に妹の交渉に乗ったとも思えないけれど。この妹、イヤな成長を遂げている。


「わかったよ。妹の為にやらせて頂きますよ」

「つまりエリのこと好きってこと?」

「金で交渉してくる妹はちょっと」

「……」


「まあコラボに関して何を手伝うのかは知らないけど、良いよ。エリーゼちゃんに協力しましょう」


 と、言っているとDMが届いた。


〈企画のお話しよっ、もしくはお話しよっしよっ〉


 なんだ、悪魔か。


「だれ?」

「知り合いの変態。エリちゃんは知らないだろうけど、スマホって実は連絡用のツールだから家族以外からもメッセージが来たりするんだよ」

「知ってるし」


 とりあえずマリリは無視しておくとして。


「それよりコラボってゲームでもするの?」

「うん。百太郎電鉄。エリ、やった事ない」


 昔は妹と二人でゲームをした事はあったけれど、一人用のRPGを二人でやる事が多くてああいうパーティゲームには縁遠かったか。百太郎電鉄は人生ゲーム的なボードゲームで電車で日本各地を移動しながら収益をあげていくゲーム。コラボで遊ぶには丁度良い。


「ああ、じゃあコラボ前に一緒に練習すればいいの?」


 パーティーゲームを一人でやるのって寂しいもんな。


「違うけど。エリとレーと、トネリコ、それにコンピューターでやるの」

「いつ」

「今日」

「家で?」

「事務所で」


 とりあえず妹のおでこを人差し指で突く。話が急すぎる。


「だって。レーがいない時に連絡きて、よく考えないまま返信したら、家から出る事になってたんだもん」

「よく考えて返事しな。というかバーチャルアイドルなのに出張りすぎじゃない?」

「最初は直接会った方がうちとけますよって。それにトネリコ、楽しみにしてたから、断りにくい」

「……それは、しょうがないか」


 かくして。

 僕らはラインオーバー株式会社へと向かった。



・・・



 雑居ビル八階。

 ペイントパレットと比べると何というかラインオーバーの事務所は地味だ。


「いくつかスタジオあって今日はここ。配信環境がトラブった時も使わせてくれる」

「へえ」


 伸びた髪を僕はポニーテールに纏め、黒いキャップを被ったままの妹は卸したての黄色いワンピースを着ている。初対面の人には明るい印象を持ってほしいのだろうか。


「こうやって集まってゲームするって事あるの?」

「やれやれ。それをエリに聞く?」


 そういえば初コラボでしたね、エリちゃん。兄を含めても二度目。随分豊富な経験だ。


「あー、来ましたねエリさん、今日も可愛いっ。お義兄さんもお久しぶりです」


 マネージャーさんが現れた。


「正直来ないんじゃないかと思ってましたけど、お義兄さんが連れて来てくれたんですね」

「レーがどうしても一緒に来たいって言うから連れてきただけ」


 すぐばれる嘘をつくな。


「あはは」


 案の定乾いた笑いが響く。


「そ、それで。トネリコは?」


 妹が後ろに隠れ肘を掴んでくる。こいつ、いざという時も僕を盾にしそうだな。


「あちらのお部屋で待ってますよ。配信開始までまだあるので仲良くなってください。私は別室で仕事しているので、何かあればすぐに駆け付けますよー」


 妹が僕の後ろに隠れて腰に頭を押し付ける。どうやら緊張しているらしい。この兄妹合体形態を見られる方が恥ずかしいとは思わないのだろうか。


 僕らはパカラパカラと蹄を鳴らしながらトネリコさんが待っているらしい部屋の扉を開けた。


「あっ、お待ちしていました、はじめましてトネリコ・ルリカです」


 大学生くらいのお姉さんが深々と頭を下げて僕らを出迎える。


「初めまして、エリの兄の礼です。ほら、エリちゃん」

「は、はじめまして。エリオットだけど?」


 コミュ力が無さすぎる。

 気持ちはわからんでも無いとはいえ、これは人間社会への復帰第一歩だ。隠れる妹の尻を叩き一歩前へ進ませる。


 すると。


「――――」


 トネリコさんはエリを見て固まってしまった。


金髪に染め忘れた妹の髪はよく分からない煌びやかな色に光って見る人間を困惑させる。髪を染める時間があればまだよかったけれど。


 昔から妹の髪の色は変だ。人ではない何かなのかも、と思うほどで。まあ何者であろうと妹である以上は面倒を見なくてはならないのが兄の悲しい運命なのだけど。


「トネリコ、おきて」

「はっ、すいません。エリさん、すっごく可愛いくて」

「知ってる。可愛すぎるエリを見た人間はみなそうなる。恥じる事はないよ」

「調子にのるな」

「事実だから」

「事実陳列罪っていうのがあってさ。エリちゃん警察に掴まるよ?」

「それは困る」

「嘘だけど」

「レー」


 この妹めっちゃバカ。


「ふふ、仲が良いですね」


 エリの間抜けさを見て緊張が和らいだのか、トネリコさんも微笑む。


「レーさんも今日はありがとうございます」


 なんやかんやで、僕らは兄妹揃って配信機材の前に並んだ。


 でもこれってさ。

 連れてくるまでが仕事で、一緒に遊ぶ必要は無いんじゃないか?



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