第8話 第2章:出会いの記憶ー004ー
ケタケタケタケタケタ。
再び上がる音は単なる打ち鳴らしなのか、笑い声なのか。
マテオの一刀で白黒仮面の姿を曝すと共に暗い路地裏へ響かせた。
心胆寒からしめる不気味さだが、白銀の髪が特徴的な少年は違った。
「なに、その格好にその音。僕には笑えるだけなんだけど」
人間としての形を失うほど悲惨な事例を幾度となく目にしてきたマテオには滑稽にしか写らない。けれども苦笑する顔と裏腹に神経は尖らせている。何かは解らないが、これまでにない相手だと直感が囁く。
仮面から外に出る黒髪と肌の色合いからアジア系と推測する。場所が場所だけに日本人か。
「おまえ、何者なんだ。やっぱ、ここの人間?」
気を緩めてはいけない。世界で、ここだけなのだ。殺人が許容され、解明不能な能力の異常現象をもたらす場所は『
ケタケタケタケタケタ。
仮面の、たぶん男と思われる人物が笑いとも奇音ともいえる声を立ててくる。
またか、とマテオは少々うんざりだ。
もしかして相手は喋れないのかもしれない。素性や秘密を漏らさないよう喉が潰されているのかもしれない。下手すれば頭の中だっていじられているかもしれない。
裏の世界ではよくあることだ。
捕らえても無駄な可能性を見出せば、マテオは気持ちを固めた。
始末しよう。
言葉を封じられ、暗殺を行うのみとする生き方を強いられているなら、ここで終わらせてやったほうが幸せだ。
そう断じられるだけの経験を踏んできたマテオだった。
実の両親に売られて姉と共に放り込まれた場所で、一人だけ生き残るまでの殺し合いをさせられた。後にケヴィンから聞いたところによれば、どうやら暗殺者の選定儀式だったようである。
洗脳されて殺戮マシーンと化す未来が敷かれていた。
こいつはもう一人の自分みたいなものか、とマテオは考えついたら、思わず口許に笑みが浮かんだ。とても重要事を失念していた。
「おまえ、もしかしてPAOの手のモンだったりする?」
答えは期待していなかった。マテオとしては憐れむ気持ちを変化球をもって吐露しただけだ。
「ヨウヤク、キガツイタカ」
金属を擦り合わせたような耳触りな声で答えた後である。
ケタケタケタケタケタ。
例の音を立ててくる。はっきり笑い声だったと流れから教えてくる。
このヤロー、となったマテオである。でもこれくらいで感情的になどなりはしない。
「そりゃーまさかだよ。わざわざ僕を追ってここまで来るなんてね。よっぽど支部を叩き潰されたのが頭にきたか」
こちらも余裕を持っての挑発だ。
ケタケタケタケタケタ。
発する間隔が短くなった奇音が笑いと判明していれば、少々癪な気分のマテオだ。なにが可笑しい、と訊きたくなる。
仮面の男が抑揚のない声調で解答を示してきた。
「オッテキタノデハナイ。オマエ、ミズカラ、トビコンデキタノダ。マテオ・ヘイズ」
かっとなったマテオだ。
普段なら決してこの程度で感情を爆発させたりしない。けれども、ヘイズ、とする一言は我慢ならない。
「ふざけるなっ」
マテオは叫んだ。
とっくに捨てたファミリーネームだ。ケヴィン・ウォーカーとその組織によって救出されて以来、マテオとアイラはファーストネーム以外を口にしていない。名前だけで姓などいらない。
思い出したくもなかった。
衣食住を碌に与えなかった両親の姓を、どこでどう調べてきたのか。
これから『ウォーカー』なるファミリーネームを与えられようとしているタイミングで聞きたくなかった。
マテオは能力を発現した。
その界隈では『白銀の双子』の異名を取るアイラと共に備わった力を使用する。
瞬く間もなく、マテオの刃は仮面の男の喉を斬り裂いてみせる。
瞬速。マテオ並びアイラは『目にも止まらない速さで移動』を果たす。
一瞬の攻防において付いてこられる者は、ほぼいない。
ケヴィンやサミュエルといった圧倒的な能力にはひとたまりもないが、通常の対峙なら最強に類すと言っても過言ではない。
気持ちにためらいもなかった。
やった、とマテオが思った瞬間だ。
身体から血飛沫が派手に舞った。
傷の痛みを感じるより驚愕が勝るマテオであった。
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