第16話・宵闇の襲撃者


 そして無事に宿場町に到着。

 すでに早馬で連絡が届いていたらしく、すぐに予約してあった宿へと向いました。


「それじゃあ、今日はこの街で休むことにしよう。宿は借り切っているので、ウル・スクルタスの皆さんもシフトを組んで休むようにしてください」

「ありがとうございます。では、折角ですのでお言葉に甘えさせていただきます。あとは私たちにお任せください」


 父とジャービスさんの話が聞こえてきたかと思うと、侍女たちが私たちの荷物を持って部屋へと移動します。そしてほ私も割り当てられた部屋に移動すると、ようやく動きやすい服に着替えて体を伸ばすことが出来ましたよ。


「うん、今回の護衛の皆さんは強いですね。おかげで道中も安全に旅を続けることが出来ましたし……」

「そうですね。ウル・スクルタスは王家からの指名依頼も行われるほどの実力派チームです。噂ではファイヤードレイクを1チームだけで討伐したとか」

「へぇ、それは凄いですね」


 そんな話を侍女としていますけど、私はファイヤードレイクの強さを知りません。

 なので人差し指をこめかみに当てて、記憶保管庫からファイヤードレイクの情報を検索。


『亜竜種、魔物強度11。炎耐性を持つ巨大なサラマンダーであり、その皮膚はアダマンタイトの剣でなければ貫き通すことが出来ないという。また、炎系魔術を使用してくることもあり、好戦的で凶暴である』


 大きさは大体、全長で16メートル前後、翼をもち空を飛ぶこともできる。

 うん、ドラゴンじゃないのかよと突っ込みを入れたくなってきましたけれど、この世界のドラゴンというのは『真竜種・地水火風』の4種と『神龍種・光闇虚無』の3種、合わせて7体しか存在していないそうです。

 しかも、全て神話や伝承の中に存在するものがほとんどであり、風竜以外はその存在も明らかになっていないとか。

 っていうか、貴方、どうしてオーガのことは知らないのにファイヤードレイクのことは知っているの?

 え、格好いいから?

 もう、この自由さについていけないですよ。


「……それと、ジャービスさんたちの装備って、どう考えても魔導具ですよね。それもかなり強力なものばかりのようですけど」

「迷宮産の、それも上位魔導具という噂は聞いたことがあります。では、私は隣室で待機していますので、御用の際はそのベルを鳴らしてください」


 侍女がテーブルの上にベルを置いてから部屋を出ていきます。

 これも魔導具であり、彼女の部屋に置かれる小さなチャイムと繋がっているそうで。

 私の記憶の中では、旅先でほぼ10分とか15分おきにベルを鳴らしては、侍女を呼びつけて色々と命じていたシルヴィアの姿が思い浮かんできますよ。

 足が疲れたから揉みなさいとか、この服は飽きたので別の服を用意しなさいとか。

 しまいには『暇だから何かして』といった無理難題を押し付けては、侍女が困っている姿をニマニマと笑って見ていたようで……。


「うん、もしも私が転生するときは、その頬に力いっぱい張り手をするから覚えて居なさい!」


 暴君令嬢、まさにその呼び方がふさわしすぎて涙が出てきますよ。


………

……


──夜

 夕食を終えてから、軽く汗を流してベッドへ。

 そのまま旅の疲れが出ていたのか、私はすぐに眠りにつきました。

 いつもよりも深い深い眠り。


──グゥゥゥゥゥゥ

 そしてなり始めた私のお腹。


「はあ、夜はお腹いっぱい食べたし、夜食用にバスケットいっぱいにパンとぶどうジュースの瓶もひと瓶貰っているのに。どうしてこんな時間に空腹迷子?」

 

 いつもの空腹タイムよりも早いですね。

 それに心なしか、甘い匂いが部屋の中に漂っているように気がします。


「はあ、この匂いに誘われてお腹が鳴ったのですか……って、へ?」


 こんな匂いが普通に起こるはずがない。

 部屋の中でクッキーを焼いていたとか、そんな感じでなければこんな香りは部屋にこもるはずがありません。


「普通じゃない……」


 こめかみに指を当てます。

 すると、常時発動型スキルの『毒抵抗強化』が反応しているのに気が付きました。

 これは部屋の中に毒が流し込まれている。

 私の部屋だけ? それとも屋敷全体?


──スッ

 アイテムボックスからミスリル飴を一つ取り出して口の中に放り込むと、それをがりっとかみ砕いて飲み込みます。


(チャージされたオーラは5、拳術の理・上級格闘術の3を発動)


 全身に力がみなぎっていくのが判ります。

 そしてベッドに横になったまま様子を見ていると、誰かが部屋の鍵を開けて室内に入ってくる気配を感じました。

 数は二人、足音が聞こえていないところから暗殺者の可能性が濃厚。

 もしも闇ギルドの連中なら、私の能力についてなにか聞いているかもしれません。

 だから、ギリギリまで引き付けてから取り押さえるしかない。


──ドスドスドスッ

 そして勢いよく布団の中の私に向かって何かを突き刺してくるのと、私がベッドの横に飛び出してパンの入ったバスケットを捕まえて窓辺に移動するのはほぼ同時。


──モグッモグッ

「あ、あなたたひはいったいだれでふか!!」

「……」


 素早く一本、また一本とパンを飲み込んでいきます。

 この瞬間、パンは飲み物であることが確定しましたけれど、そんな私の心中など知る由もなく二人の暗殺者は左右に分かれてから、一瞬で私の真横まで間合いを詰めてきます。 

 そして一人は私の首筋に、もう一人は腹部に向かって斜め下からナイフを突き刺してきますが。

 その刃先を指先で掴むと、そのまま力を入れてへし折ります。


──バギッ

 まさかナイフが突き刺さるどころか、へし折られると思っていなかったのでしょう。

 すぐさま後ろに飛んでまた間合いを取って様子を伺っています。

 そして、三人目はずっと扉の前に立ち、右手で印を組んだまま動きません。


「……沈黙結界の印ですか……」


 そう呟いても、声出ても響くことなく。

 また時間差で間合いを詰めてきて殴る蹴るの連続攻撃を打ち込んできますけれど。

 

「防護の理、コマンドアーツから『パリ―』を開放っ」


 そう小さくつぶやいてから、すべての攻撃を左腕で全て受け流します。

 よく見ると左腕に魔法によって形成された籠手が填められていますし、しかもそれが金色にうっすらと輝いています。

 そして先ほどへし折ったナイフの切っ先を口の中に放り込みますと、これを爆食して暴飲暴食レッツチャージ


──キィィィン

 よっし、これはミスリルナイフで確定。

 しかもご丁寧に毒まで塗布してありましたか。

 ですが、この毒の強度は今の私には効果がありません。

 毒抵抗強化3は伊達ではありませんよ。


「さて、それじゃあお相手してもらいましょうかね」


 ゆっくりと両手を前に突き出して構えます。

 そして二人をじっくりと見てから、今の私のを状態を見て動揺している左の暗殺者に向かって素早く間合いを詰めると、右肘を相手の胸元めがけて打ち込みました!

 

──ゴギベギッ

 はい、骨の砕ける嫌な音。

 そして口から大量の血を吐きつつ、お暗殺者は床に転がって呻いています。

 さらにもう一人が倒れた暗殺者に一瞬だけ意識を奪われた隙に、右拳を構えて力いっぱい正拳突き!


──ギン!

 でも、私が拳を突き出した直後、暗殺者の前に六角形の透き通った壁のようなものが浮かび上がり、私の一撃を阻止しました。

 

「砕けていない……っていうか、拳が痛い」


 数歩下がって警戒しつつ、扉付近の男をちらっと見ます。 

 やっぱり、先ほどとは別の印を左手で組み上げています。

 つまり、二つの魔法を同時に操ることが出来るというのですか。

 しかも無詠唱で印を組むだけで魔法を発動するだなんて大したものですよ。

 普通は魔法を使う際には、杖とか魔導書といった発動媒体を片手に持ち、もう一つの手で印を形成しつつ詠唱をおこなうのが普通なのですからね。

 それを無詠唱で印を組むだけで魔法を使えるなんて、どれだけ強い魔法使いなのでしょうか。


「せめて音が立てられたら、ジャービスさんたちが駆けつけてくれるのに……」


 そう呟いたところで声は出ず。

 それよりも、サファイア級冒険者に気付かれないなんて、闇ギルドの暗殺者のレベルはどれだけ凄いのでしょうかね。

 それよりも、今のこの状態をどうやって切り抜ければいいのでしょう。

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