第17話・暗殺者と辛勝と



 闇ギルドの暗殺者3名が寝室に侵入。私の命を狙っていた件について。

 現在、一人の暗殺者は再起不能状態、残りは魔術師型暗殺者一人と体術型暗殺者一人の計二人。

 現在の私の発動スキルは『上級格闘術の1』と『コマンドアーツ・パリー』のみ、残りのミスリル飴は三つ。

 暗殺者の体術は中級格闘術か中級ナイフ術の6程度、ぎりぎり躱し続けられるレベルですけれど、複合技を使われるとやっかいです。

 加えて魔術師は二つの術式を同時に操る達人。

 

「さて、どうしたものか……ってぇぇぇぇ」


――ゴゥゥゥゥッ

 扉の前の魔術の目の前に、赤く燃え盛る炎の矢が浮かび上がります。

 そしてそれは一直線に私に向かって飛んでくると、私が躱す方向に軌道を調整、ぴったりと追尾してきましたよ。

 そしてその動きに合わせてもう一人が二本目のナイフを引き抜き、私に間合いを詰めてきて連続で切り裂き始めました。


「ちょ、ちょっと待って、それは卑怯ですよ!!」


 炎の矢とナイフの波状攻撃を必死に躱しつつ、どうにか態勢を崩さないように必死にに動き回りますが、暗殺者の攻撃は息をつく暇もないぐらいの速度で私の命を狙ってきます。

 それなら、こっちもどうにかしないと。


「防御の理……魔法防御1っ!!」


 左腕に装着されていた籠手が小さな盾に変化したので、それを使って炎の矢を弾き飛ばすと返す刀でナイフを握っている腕の一つめがけて右手刀を叩き囲む!


――ゴギボキッ

 暗殺者の腕の骨が砕け、ナイフが床に落ちていきます。

 それを右足で蹴り上げて受け取ると、それを口に咥えてかみ砕き一気に飲み込みます。


『ピッ……暗殺の理を修得。毒生成3、暗殺術3、拷問2、尋問2、変装2を修得しました』


 うっそ。

 このタイミングなの? さっきの欠片じゃ足りなかったの?。

 それじゃあもう一つミスリル飴を口の中に取り出してかみ砕くと、毒生成3を発動。


『麻痺毒を生成……それを両手に纏って、ここからは私のターン』


 腕を折られて下がり始めた暗殺者に向かって、一気に間合いを詰めてからの顔面目掛けて左右のフック。

 それを折れていない左手で受け流しているんだけれど、手数と速度はこっちが上。

 つまり。


――ドゴオッ

 顔面目掛けて拳の一撃。

 そして素早く覆面を引きずり破ってからの、口に向かって手刀突き。

 魔法によって認識阻害を受けているのか、素顔は見えず正体も分からないけれど口の位置はわかりました。ほーら、即効性の麻痺毒を飲むのです。

 手が噛み千切られる前に引き抜いたけれど、すでに麻痺毒が回っているのかビクッビクッとけいれん状態。

 それじゃあ最後は魔術師一人だけ。


「どぉぉぉぉぉれ、あんたも捕まえて闇ギルドの全貌を吐いて貰いましょうかね。偶然だけれど、貴方たちの拷問術を身に着けることが出来たのだから、じっくりとお話を聞かせて貰いましょうか?」


 そう呟いた瞬間、魔法使いが両手で二本の緑の矢を生み出すと、私に向かって同時にシュート。

 でも、あまりにも直線的で誘導されているそぶりもないのでどっちも躱し、さらに間合いを詰めて魔法使いに向かって手刀を!!


――ギン!

 再び目の前に六角形の壁。

 そして白い煙が周囲に噴き出したから、私は慌てて間合いをとって後ろに下がる。


「毒霧……いや、麻痺のガスですか。しっかりと目隠しまでされていて、これ以上は追いかけるのは不可能っていうことかぁ……」


 霧の中を突っ切って追いかけるにも、霧の強度は触れていないから分からず。

 私の抵抗力よりも強力な毒であった場合は私が倒れてゲームオーバーだから、ここは素直に引くしかないですか。 


「あ~あ~、よし、声が出ているし音も聞こえる。まあ、今回は二人を捕らえることが出来たので……ってうわぁ」


 倒れている二人を見て、私は寒気を覚えた。

 二人の首から上が、緑色の液体に包まれて溶けていくのが見える。

 

「そっか、さっきの緑の矢は、二人の口を封じるためかぁ……ってうげぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 そんな冷静なことをつぶやく暇もなく、私は晩御飯すべてを口からスプラッシュ。

 グロいのはダメなのですよ。

 それと、いくらスプラッシュしてもミスリル飴の残骸はでてこない。

 くっそ、またしても逃げられてしまいましたか。


――ドダダダダダダダダタ

 そして廊下から誰かが駆けあがってくる音。


「シルヴィアさま、ご無事ですか」

「先ほどまで二階に上がる階段が結界で包まれていたようで、どうしても上がることが出来ませんでした……って、これは」


 全身フル装備のジャービスさんと魔導師のフレデリカさんが部屋に飛び込んできて、溶けていく暗殺者を見て目を背けそうになっています。


「闇ギルドの暗殺者のようです。あと一人、魔術師がいましたけれど、逃げられてしまいました」


 そう説明すると、フレデリカさんが手にした杖を高く掲げて、何かを詠唱しています。


「魔力の渦よ、力の波動よ。我が声に従い、魔術のしもべを探し出せ……サーチ・マジシャン!!」


 魔術師を探す魔法……というところですか。

 残念ながら私には使えませんけれど、しっかりと発動しているのはわかります。

 

「……駄目ですね、私の探査範囲内にはもう魔術師の反応はありません」

「そうか。いや、それよりもシルヴィアさまは無事でしたか」

「私はまあ、ほら、私の評判は知っているでしょう? それなりに抵抗はしていましたけれど」


 口から噴き出したスプラッシュの香りが部屋にうっすらと。

 ああっ、これもとっとと処分しないと、いくらなんでも私の吐瀉物を侍女の皆さんに片付けさせるなんてことはできませんよ。


「そのようですね。では、これは私どもの方で片付けさせますので」

「いえいえ、せめて自分が出したものは自分でどうにかしますので。それよりも、お父様たちの方は無事なのですか?」

 

 そうですよ、私よりもお父様たちまで巻き込まれてはいませんよね?

 そう思って問いかけますと、ジャービスさんが頷いています。


「一階のランカスター伯爵夫妻は無事でした。ですがそちらにも暗殺者らしきものたちが近寄ったらしく、ブロンクスとバースディの二人はその暗殺者らしき影を追いかけていきました。マルガレートさまもご無事です」

「それは良かった……でも、まさかこのタイミングで襲ってくるとは思っていませんでしたよ」


 そう呟きつつ、ベッドのシーツをはがして自分の吐瀉物の上にかぶせます。

 見苦しいのでこれで隠させてください。


「そうですね……本当に申し訳ない。もしも何かあったらと思ったら」

「ま、まあ、相手の方が上手であった、そういうことでいいです。あとはしっかりとお願いしますので」

「畏まりました。では、椅子を持ってきて部屋の外で寝ずの番をさせてもらいます。その前に、部屋を変えて貰えるか確認してきます」


 フレデリカさんが階下に降りていきます。

 その間、ジャービスさんは解けてしまった二人の暗殺者の持ち物を確認したり、なにか手掛かりがないか調査を行っています。


「シルヴィアさま、二つ隣の部屋を使えるようにしてもらいますので、そちらに移動していただけますか? こちらの処理は私どもで行っておきますので。隊長は、彼女の護衛についてください」

「わかった、ここは任せる。それではどうぞ、こちらへ」


 あうあう、恥ずかしいものを処理させてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいですよ。

 それに、こんなにドタバタとしていたらもう眠るどころの騒ぎじゃありませんよ。

 とりあえずベッドにもぐりこみますが熟睡なんてできるはずもなく。ウトウトとしたまま、いつの間にか朝が訪れてしまいましたよ。

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