第14話・アイテムボックスって、なんですか?
さて。
とりあえず園遊会参加という務めは無事に果たしました。
そして私の住んでいる王都別邸には、連日のように様々な貴族や教会から書簡が届けられ始めました。
曰く、私が20歳になってランカスター家からオルタロス公爵家の子女となるタイミングで、ぜひとも我が息子を婿にといういわばお見合いの申し込みが殺到。
今まではランカスター伯爵家のシルヴィアといえば、『礼儀作法まるでダメ、男勝りに剣を振るう猿のような暴君』というレッテルが張り付けられていまして。
いくら私が公爵家に養女として迎え入れられても、そんなところに大切な息子を婿として送り出すことなどできないと大抵の貴族が忌避感をあらわにしていたのですが、園遊会での私を見てその評価は大逆転。
今の私になら婿として送り出すにふさわしいとか、神に認められた云わば『聖女』のような立場故、婚姻を結んだ後は私を教会に送り出して公爵家の実権を握るチャンスであるとかそういった企みが見え隠れしているそうで。
「……まあ、そんなことよりも問題は、闇ギルドですよね。園遊会では何事もなかったのですけれど、きっとまた仕掛けて来るに決まっています」
そのおかげで、迂闊に町の中に遊びにも行けないのですよ?
せっかくの王都だというのに毎日、おじい様の屋敷に出入りしている剣術指南希望者の相手をすることになっているのですよ?
そもそも大切なミスリル飴の補充もできないため、迂闊にオーラを使ったスキルを使うこともできないのですから結果は推して知るべしです。
「まあ、そうはいうが、貴族の子女にとって良き夫を迎え入れ、子を成すということは絶対だからな。ランカスター家は俺がいるので問題はないから、シルヴィアも貴族の子女らしく務めを果たすといい」
──ギイ、ガギン
ということで、今は中庭でエリオット兄さまと剣の稽古の真っ最中。
常時発動型のスキルについては問題なく使えているのですか、やはりオーラ抜きでは上級剣術など使いこなせていないので、ここ最近はずっと兄に押されっぱなしです。
「えぇっと、謹んで遠慮したいですね。私としても結婚するならば恋愛結婚の方がいいと思っていますので、それにまだ早すぎます」
「早すぎるものか。貴族の子女ならば16歳のデビュタント後ぐらいには、ある程度婚姻相手は決まっているものだ。シルヴィアは20歳にならないと養女として迎え入れられないため、それまで相手はじっと待っているのだぞ、行き遅れの女の元に婿として来てくれるというのだからある程度の妥協はした方がいい」
──ムッ!!
そりゃあ、こっちの世界では20歳は行き遅れなのかもしれませんけれど。
私の居た日本では、まだまだ現役で通るのですからね。
それでもまあ、せめて年齢=クリスマスイブに到達するまでには大恋愛をして、めでたくジューンブライドと決めこみたいところですけれど。
そういえば、シルヴィアの好みの男性とか意中の人っていなかったのでしょうか?
「兄さま、そろそろ限界です」
「そうか、それじゃあ今日はこの程度で終わるとするか。しかし……気のせいか、こっちにきた初日に俺と決闘したときとは、剣の切れもいまいちのようだが」
「それこそ気のせいですよ……まあ、私も本調子ではないので。では失礼します」
「そうか……それじゃあな」
そのまま自室に戻って汗を拭い、ゆったりとした衣服に着替えてから瞑想タイム。
ベッドの上に胡坐をかいて、両手の人差し指をこめかみに当ててシルヴィアの記憶保管庫にアクセス開始。
──キィィィィィン
あまりにも膨大な記憶のデータベースから、シルヴィアの意中の人を探してみたり……。
心ときめく好みの男性を探したり……。
「はぁ? 一人もいないってどういうことなの?」
よもやよもや、このシルヴィアさんは男性に興味がない。
いや、正確には男性に対して嫌悪感まで抱いていますが。
なにかそういったことに繋がる事件があったりとか……あ、ありました。
シルヴィアは6歳の時、一度屋敷から攫われています。
営利誘拐が目的であったらしく、身代金を回収する前に手籠めにされそうになっていましたよ。
しかも相手は養女趣味の変態野郎、貞操が奪われる前に冒険者が救助に突入してきてくれたので事なきを得たようですけれど、その時の恐怖で男性に対して嫌悪感を抱いていたようで。
だからといって女性が好きというわけではなく、むしろ人間不信に陥っていたようです。
「そりゃあ、幼女にそんな狼藉を働く奴に捕まって、あんなことやこんなことを……うげぇぇぇぇぇぇ」
はい、記憶のぶり返しで吐きました。
それは見事なスプラッシュ、近くに屑籠が無かったらベッド一面を汚していましたよ。
そんなことをしようものなら、ようやく少しずつ打ち解けてくれ始めていた王都別邸の侍女たちがまた離れていきますよ。
ということで、急いで片付け……と、どこにどうやって?
「こ、こんな時は便利なスキル……何かなかったかな」
左手人差し指をこめかみに当てて、『理のスキル』を検索。
こういうときに便利なスキル……ありましたよ。
「魔術の理、伝承術式から、空間収納を発動します」
──シーン
はい、オーラ切れです。
ということでベッドサイドにおいてあるポシェットからミスリル飴を一つ取り出して口の中に放り込み、こりこりと甘噛みしつつオーラを蓄積。
全身が金色の淡い光に包まれ、そしてスッと消えていきました。
「そけれじゃあ、もう一度……魔術の理、伝承術式から空間収納を発動します」
──シュンッ
すると私の目の前に、黒く四角い物体が浮かび上がりました。
一つの辺の大きさは30センチ程度の立方体、ここに屑籠を手に取って触れさせますとその中に吸い込まれていきました。
「ふむふむ……今の許容量は1メートル立方程度で、一度発動したら次からはオーラ消費なしで使い放題。うん、便利だけど許容量が少ないような……まあ、いいか」
ちなみにですが、今の許容量は消費オーラ5でどうにか起動した大きさなので、もっと許容量を大きくするにはより大量のオーラを蓄える必要があります。
そして空間収納を一度でも発動できれば、以後は空間収納を使用するだけならばオーラの消費は必要ないようですけど。
「伝承術式の魔術強度は7、その中でも空間収納術式は強度5が必要……この術式の発動に必要なオーラは5。手元のミスリル飴一つでチャージできるオーラは5だから……許容量は最低容量でしたぁぁ~。これ、容量の拡大って絶対に無理、だから今は忘れよう、うん」
とりあえず空間収納の件はこれで終了です。
ついでということでポシェットからミスリル飴を取り出して収納し、自由に取り出せるか確認してみましたが。
「……うん、取り出す個数も自由に設定できるね。これなら万が一の時にもミスリル飴が無いっていうことはないから大丈夫か」
はあ。 それじゃあ気を取り直して、もう一度シルヴィアの記憶の精査を開始。
攫われた部分はスキップして、そのあとからの記憶の再生。
「やっぱり、攫われたときのトラウマがすべての原因のようだなぁ……それが拗れまくって、さらに暴君化の一途をたどり始めたのか。他人に対して心を開くことはなく、近寄ってくるもの全てが下心を持っていると思いこんで。だから逆に、自分がすべてを従わせるっていうのはちょっと違うような気がするのだけど……うん、まあ、そういうことなんだろうなぁ」
家族や侍女たちに対する接し方も、誘拐された後から酷くなっているようだし。
しかも攫われてから両親の甘やかせもエスカレート、それに乗ってさらにシルヴィアも暴君の一途をたどっていたと。
それでも、ここの家宰のジェラルドさんに対しては、それほど強く当たっていないというか。
家族でも面倒が見切れなくなり半ば放置状態であっても、ジェラルドさんだけは常に近くに居てくれたのか。
「……こりゃあ、根本から色々と見直すしかないかぁ。さすがに王都に広がっている噂についてはどうしようもないから、せめて領都の中だけでも私の悪い評判を払拭するしかないか」
園遊会の一件は口外することは禁じられているため、この王都でも私のイメージは『子爵家の御曹司に喧嘩を売った挙句、衆人環視の元で恥をかかせた暴君令嬢』というものから変化なし。
まあ、街の中を散策していても私のことを見て指さしたり陰口をこそこそと言われている程度で、姿を見た瞬間に店を閉めるという領都の商店よりはなんぼかまし……あ、なんだか悲しくなってきた。
「……はあ、今日はもう記憶のサーチはおしまい、あとはのんびりとトレーニングでもしていよっと」
床で直接……は衣服が汚れるので、ベッドの上でプランクやストレッチを開始。
テレビもねぇ、スマホもねぇ、おまけにゲームもなんにもねぇっていう異世界じゃ、娯楽なんて限られているからね。
はぁ、これで私がクラフト系のチート能力者だったら、パソコンとか自前で作って……いやいや、アプリもソフトも作れないから無理だぁ。
うん、素直にトレイニーに集中しましょう。
筋肉は裏切らないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます