第13話・神よ、またなんていうことをしてくれたのですか
園遊会の動乱の二日後。
私は王都にある6柱教会を訪れました。
目的はいくつかありますが、、一つは食戦鬼についての詳しい説明を教えてもらうため。
自分なりの考察はおおむね出来ていますけれど、ステータス表示がないこの世界では、どのようにそれらを認知しているのか理由がつかないのです。
私の場合、習得したスキルが頭の中に浮かんでくるのですが、それは私だけなのか、それとも誰でも出来るのかとか、そういう基本的な部分についての知識がありませんので。
今日からはおじいさまが手配してくれた護衛が一人、私に同行するようになりました。
おじいさまの元へ剣術指南に通っている冒険者の一人だそうで、都度、通っている誰かが随行するようになりましたよ。
まだ専属を付けるまでには至っていないということですが、近いうちにお父様の陞爵が正式に行われることになりますので、お姉さまにも一人、護衛がつくようになるとか。
「それで、今日は6柱教会で祈りをささげるのですか。うん、いい心がけです」
うんうんと私の横で頷いているのは、本日の護衛のマーヴェルという女剣士です。
タチユリ式二刀流術という、ショートソードとダガーの二刀流の流派だそうで、おじいさまの元に……あれ、流派が違いますけれど、それはそれでいいのでしょうか。
何か別のものを学びに来ているのでしょう。
「それでは、私は瞑想しますので護衛をお願いします」
そう告げて私はその場に静かに座り、両手を組み目を閉じます。
そして心の中で祝詞を唱えつつ、神に祈りを捧げます。
………
……
…
『はいはーい。本日の担当は大地母神のメーテルです。迷える子羊よ、何がありましたか?』
本日の担当……って、まさか本当に祈りが届くとは思っていませんでしたよ。
せいぜい神託のようなものが聞こえてくる程度だと予測はしていましたけれど、まさか自分が見たこともない庭園の丸テーブルの席についている状況になっているなんて予測不可能ですよ。
ここ、どこですか? まさか神界とか?
『神界ではありませんね。その手前の庭園っていうところです。まあ、神の加護を受けて使徒となった貴方だからこのような対応をしているのですからね、使徒とはそういうものなのですよ。それで、今日はどのようなご相談? いくらあの子が可愛いからってお手付きはいけませんよ。【イエスおねショタ、ノータッチ】、神様との約束です』
ふむふむ。
心の声は聞こえていましたか。ま、まあ、おねショタの件は棚に上げておいてください。それでは簡潔に聞きたいのですけれど、私の持つ食戦鬼のように、スキルや加護って自分で自覚出来て知覚できるものなのですか?
『そうですねぇ。簡単に説明しますと、別世界のステータスボードのように各個人の能力やスキルなどが全て見えるということは、この世界の法則には存在しません。でも、己が身につけた技術については、おおよその強さを理解できる人もいます……そうですね、簡単に説明しますと』
説明しますと?
『明石さんの世界を題材に説明しますと、個人が持っているスキルというものは柔道や書道のようなもの。その強さを測るのが『帯の色』とか『段位免状』であると説明したら理解してくれますか? あとは数値化できないスキルも物差しで測れると説明したら、理解してくれますか?』
あ、実に分かりやすいです。
最初のは実際に審査なりなんなりで規格に当てはめること、あとのやつは数値化してはいないが体感できるもの。料理とか菓子作りで、慣れてきたらだんだん難しいものが作れるようになっていうことですよね。
この世界の人って、そういうのが判るのですか?
『そうですね。大半の人は後者で、経験則で理解しているレベルの方が大半です。ごくまれに前者のように頭の中でスキルが数値化して見えている方もいらっしゃいますが、そんな人は本当にごく僅か。だから、明石さんの食戦鬼で得た【理】のスキルのように、具体的に数値化して見える人については【加護を得た人なら見える、そうでないひとはそれなりに】というのが正解です』
ふむふむ。
つまり、今目を閉じて頭の中でスキルを思い浮かべてみると。
・身体の理(ステータス強化A3、頑健A3、病気抵抗強化A2)
・剣術の理(上級剣術1、コマンドアーツ3種B)
・拳術の理(上級格闘術3、コマンドアーツ3種B)
・防護の理(基礎防御力A5、コマンドアーツ3種B、魔法防御3)
・魔剣の理(戦闘領域7、鋭刃化8、時間制御3)
・魔術の理(伝承術式7、古代術式8、黒魔術2)
・礼節の理(奉納舞7、礼儀作法5、一般教養A3)
・錬金の理(分離1融合1結合1加工1異端合成1)
・銀の理 (毒抵抗強化A3、聖属性付与2、アンデット特攻1)
ほら、このように浮かび上がってきます。
『ええ。あと、明石さんのスキルの起動については、おおよそあなたが調べた通りで間違っていません。Aマークはエネルギー消費なしで普段から自然に使えているスキル、Bマークは修得したらノーコストで使える技術と思ってください。ミスリル飴、分かりやすくて好きですよ』
ありがとうございます。
そっか、それじゃあこれからもあのパターンで使っていけばいいのか。
でも、ミスリルって入手するにも高額だからなぁ。
『一つだけアドバイス。暴飲暴食でスキルを習得しても、それを使うためにはエネルギーが必要。だから理を修得する分には遠慮なんて無用ですし、どんどん覚えちゃってください。開放しないと使えないものが大半なのですからね』
はぁ。
了解しました。
園遊会で姿を現した時は、本当にどうしようか困り果てたのですけど。
『サービスサービス……というわけではなく、正式な手続きを行ったから、私たちはあの場で加護を与えました。ですから、明石さんがしっかりと【実力のある聖歌隊の歌】の中で、【加護を持つものの祝詞】に合わせて、【正しい奉納舞】をエネルギー消費によって舞うことが出来るのなら、私たちはいつでも駆けつけますよ。それだけの準備ができるのなら』
それはそれは。
そっち方面でも教会に目を付けられているので、ちょくちょく呼び出すことになりそうで……ってあれ、私がミスリル飴を舐めないで奉納舞を舞った場合は無効ですか?
『ノーカン、無効です。命を削って舞うのが奉納舞ですから』
命……あ、そういうことか。
了解了解です。
『さて、それではそろそろタイムリミット。実際には瞬く程度の時間しか経過していませんのでご安心を……では、大地母神からのアドバイス。おねショタは20歳になってから、いいですね~ね~ね~』
誰がするかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
いや、あの第三王子がそれを求めてきたら要考慮だけど、今はそういうものよりも命の危険、レッツ暗殺防御ですから。
………
……
…
──パチッ
周囲の雑踏もない、静寂な世界。
どうやら神様との交信も完了のようですし、色々と疑問も解けたので助かりましたよ。
そしてゆっくりと立ち上がりますと、先日の園遊会で祝詞を上げてくれた大司教が近寄ってきました。
「敬虔なる六神の御子シルヴィアよ。どうかこの教会に、聖女として勤めていただけますか?」
今、この場では私の姿を見て集まって来た聖職者や信奉者の皆さんが集まっています。
あの園遊会での出来事につていては秘匿するようにと伝えられていたはずですけれど、聖職者としては教会の信徒たちにある程度の事実を伝えたのでしょう。
ほら、周りの皆さんの私を見る目が……全力で疑っていますよねぇ。
昨年のシルヴィアの失態につていは、ほぼ王都全域にまで広がっています。
だから、あの園遊会を知る貴族と聖職者以外には私の存在は目の上の瘤であり、アンタッチャブルな存在ですからね。
普通に礼拝に来ている人なんて、私を見てそそくさと離れていっているじゃありませんか。
「その件につきましては、謹んでお断り申し上げます。では失礼
淡々と塩対応で返答すると、私はマーヴェルさんと一緒に教会を後にします。
まさか聖職者ともあろう人たちが、実力行使で私をこの場に留めさせようとはしませんよね。
この時ばかりは、暴君令嬢シルヴィアでよかったと思いますよ。
うまく使い分けてみたいものです。
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