第4話・神よ……面白がっていますよね?
──六神教会
食事を終えて、私は一路、街の教会へ。
歩いて行こうと思ったのですが、貴族の令嬢が一人で歩いていくなどとんでもないと言われ、急遽馬車を出してもらうことになりまして。
ゆらりゆらり揺れながら、30分後には六神教会へたどり着きます。
この教会には主神は存在せず、世界を司る6柱の神全てを等しく祀っているそうです。
このあたりの詳しい知識は、シルヴィアの記憶からは読みだすことができません。
うん、一般教養のはずですけれど、このあたりはサボっていましたね?
「それでは、私どもは外でお待ちしています」
「はい、それほどお時間はかからないと思いますので」
教会に入り、まっすぐに主神たちの並ぶ聖堂へ向かいます。
ええ、開け放たれた扉の中に私が入った途端、修道女や礼拝に訪れた信者たちがサーーッと左右に逃げるように移動します。
私はモーゼですか?
ここには海なんてありませんよ。
「はぁ……これは予想以上に根が深いですね」
呟きつつ正面の六神像の前に移動。
そしてゆっくりと跪き、両手を組み合わせて神に祈ります。
(あの、教会に来ましたけれど……)
誰となく問いかけますと、突然周囲の光景が一転しました。
教会の中ではなく、広い庭園。
その噴水のほとりで、6人の男女がベンチに座っています。
『お、来たようじゃな』
「その声は、昨日の神の声ですか……」
私が目覚めた時に聞こえた声。
その主というか神がその場にいます。
長いひげを蓄えた壮年の男性、うん、よく知っている神様のイメージってこんな感じですよね。
ほかにも綺麗な女性や鎧を着た男性、獅子の頭の獣人とローブに身を包んだ魔法使い、そして子供。
『よく来てくれた。まずは君のことについて確認させてほしい。地球出身の女性、明石志乃で間違いはないな?』
「はい。それで間違いはないです。あの、私はどうしてここにいるのでしょうか。確か私は出勤時に電車に撥ねられて……そう、どうして撥ねられたのですか?」
朝一番というわけではありませんけれど、私の出勤時間はまだ、それほど混んでいないのです。
にも拘わらず、私は電車に轢かれました。
ホームに堕ちてしまった私にも非はありますけれど、それでも不自然にめまいがしたり……うん、明らかにおかしいです。
『そうじゃな。神の悪戯というところじゃよ。君の住む地球の神、それも悪神が戯れに君を殺した。その結果、悪神は他の神々によって地球を追放されてしまったらしい。神の悪戯とはいえまだ死ぬべき寿命を迎えていない君が殺された結果、運命の輪に乱れが生じてしまった』
『そこで、君の欠けた部分を補うために力を貸して欲しいと、我らは地球の神に相談を受けてな。とりあえず、死んでしまった君の魂を救済し、この世界に転生させたのだ』
『悪神の悪戯ではなく、輪廻転生の枠の一つとして処理することで運命の輪のゆがみを最小限に抑えたのよ。でも、それは長くは持たないのよ……』
『そこでだ!! 君にはこの世界で天命を全うしてもらう。そのうえで君の魂はもう一度、この世界から地球に輪廻転生してもらう。そして地球で新たな生を受け、運命の輪の再構築を行うことになった、わかったね?』
ええっと。
順番に、創造神さま、魔導神さま、大地母神さま、最後は武神さまで間違いはありませんね。
よし、シルヴィアの記憶に残っていたイメージと一致しました。
それよりも、いきなりとんでもないことをぶっちゃけられましたよ。
「あの~、今すぐ転生っていうことは?」
『運命の輪のゆがみを修復してからでないと無理じゃな。それに、今の君の魂では、転生にふさわしい徳というか善行というか、そういうものを満たしていない』
『そうね。本来ならばシルヴィアの魂でもよかったのですけど、あの子の魂、事故にあった時に失われてしまって苦界、つまり地獄に一直線してしまったのよ。そして彼女の体ににあなたの魂が入ったので肉体の再生を行ったのだけど、なんというか肉体が持っていた悪行がそのまま魂に刷り込まれちゃってね……』
『そう。君の使命は、その魂を浄化すること。そのためにも、多くの経験をし、自らを律し、よき行いをしなくてはならない!!』
うん。
下品な言い方をしくますと、私はシルヴィアの尻を拭かないとならないのですね?
はいはい、やりますよ、やればいいのでしょう?
「参考までに、一番手っ取り早くシルヴィアによって汚された魂を浄化する方法ってありますか?」
『あるわよ……愛よ、愛。人に愛され、愛することで魂は浄化されるわ。それと、大切な人と子供を成すこと。母親の子を思う心は、魂を綺麗にします。つまり明石志乃さん、あなたは恋をして愛を知り、幸せに生涯を過ごさなくてはなりません!!』
──ババーーーン
大地母神が叫ぶと同時に、私を指さします。
いえ、その場の6柱神全員が私を指さしているのだけど、どういうこと?
「はぁ。わかりました。でも、私にはそんな凄い力なんてありませんからね。普通に生活して、普通に生きることぐらいしかできませんので」
『うん、だから、こっちの世界に来るときに、君には一つ加護を与えた。我ら6神の加護の塊を授けてあるので、それをうまく使って頑張り給え』
『志乃よ、君に与えた加護は【食戦鬼】。君が死んだとき、もっとも悔やんでいたことを力にしてあげたから、思う存分使うがよい』
「え、食洗器? 私そんなこと考えていないけど?」
『違う違う。食べることにより戦闘力を上げる鬼、つまりは食戦鬼じゃよ』
『チートディという言葉のイメージが我々には届いた。とにかく食べまくることで力をつけるのであろう? だから、君には【食べることで力となる加護】を与えたのじゃ。昨日の夜は、その力の一つ
……うわぁ。
確かに事故があった翌日はチートディだったので、仕事が終わったら居酒屋経由でスイーツ食べ放題コースにも行こうと思っていましたよ?
でも、家に戻って食洗器に入れっぱなしの食器を洗いなおさないと、雑菌が繁殖して……。
>脂質制限も糖分制限もなく、好きなものが好きなだけ食べられる日。
>食べたものが全てエネルギーとなら、私に新たな力を授けてくれる。
>5日間のつらい労働も、全てリセットしてくれる楽しい日。
はい、考えていましたぁ。
思い出しました、そうです、その通りです。
だからと言って、そんな力を授けてくれなくてもいいじゃないですか。
>「うわぁ、食器を食洗器に入れっぱなしだよ……」
違う……私の言葉の意味をイメージとしてとらえられるのなら、そこは間違う場所ではないのに。
絶対にわざとだ、この神様、楽しんでいるに違いない。
『うん、まあ……少しは意地悪だったかもね。だからもう一つだけ、いいことを教えてあげる。シルヴィアの記憶や経験は全て、君の中の【記憶の保管庫】というところに収めてある。これを開くときは、両手の人差し指をこめかみに当てればいいからね。そして
『ということて、頑張るのじゃ……まあ、強い力の代償として、そなたは燃費が悪く成っているかもしれぬが……なんでも食べられるから問題はないじゃろ。ではさらばじゃ、次に会うのは魂が昇華するとき。それまでしっかりと、魂を磨くのじゃぞ~ぞ~ぞ~』
最後は自分でエコーですか。
「……うわぁ」
そして意識が戻ります。
私が跪いていたのは、どれぐらいの時間なのでしょうか。
気が付くと、あちこちから声が聞こえてきます。
「お、おい、そこにいるのはシルヴィアさまじゃないか」
「どうしてここにいるんだ……また何かやらかして懺悔しに来たのか」
「近寄るなよ、また難癖付けられて殴られるにきまっているからな」
……シルヴィア、輪廻転生のどこかで出会えたら、その時は思いっきり殴らせてくださいね、いえ、かなり本気で。
この汚れまくった魂の救済なんて、何をどうしたらできるというのでしょうか。
まずは日常的な部分から、生活習慣をもう一度見直して……はぁ。
会社に勤めていた時とあまり変わりませんよ、これじゃあ。
先が大変だと痛感しつつ、私は教会から出て馬車に戻ると、一旦自宅へと戻ることにしました。
もう、身近なところから私に対する認識を変えるしかないじゃないですか。
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