第3話 行方

卒業式当日。

俺らは春の日差しと、満開の桜に恵まれてその日を迎えた。うろ覚えなままの校歌を歌い、卒業証書をもらって、クラスのみんなと思い出を語らってから遂には校舎を後にした。私服に着替えて夕方から卒業式後の打ち上げに行く予定だった。


最後のホームルームでアルバムと共に配布された卒業文集に、俺は早々に目を通していた。あの子は何を書いたんだろう。

名簿順に並んだ俺の次の文章を読み始めると身体の下から上へと熱が突き上げてくる。読み終わった時には沸騰した頭で、着崩れた制服もよそに再び学校へとペダルを踏み込んだ。


ずっと気になってた。でも、あの子は学校のマドンナだから。放課後に教室から聞こえるトランペットが、彼女の音だと思ったら練習に集中できなかった。

俺は音楽のこと全然分からないけど、どこまでも届くような、俺らの敗退に終わった最後の夏ですら輝かせるようなあの音だけは誰のものかすぐに分かった。話すときにこちらを見る色素の薄い目。ふとした時の、髪を耳にかける仕草で心が落ち着かなかった。いつでも人に囲まれてしまう彼女に心の中でモチを焼くこともあった。


俺らが通っていたのは、至って普通な地元の高校。家を出て、見晴らしの良い坂道を下る。勢い余って最後には自転車ごと跳ね上がってしまった。近くにいた鳩たちが一斉に飛び立っていく。次の商店街を抜けて、大きな公園の通りを抜ければ......!午後になってひんやりとした空気が、じわじわと汗ばんだ身体に気持ち良い気がした。

こんな時間にいる訳ないだろう。そう理解していても、期待でどんどんと脚と手に力が入った。全身で風を切り、耳もとでごうごうと風がなる。



先程出たばかりの正門がやっと見えてきた。桜の木で人影は見えない。ききーっと自転車にブレーキをかけた。息が切れて視界がぶれる。急いだせいなのか、はたまた違う何かのせいで動悸が止まらない。使い物にならない頭でどうしようもなく君を探した。はらはらと落ちてくる薄紅色の花びらが、悠久のように思えた。花びらと薄暮の前数刻の木漏れ日に紛れて。きっと少し俯き、辺りのせいか桜色が差した頬を隠して髪を靡かせる君は......。





俺は無事、打ち上げに間に合うだろうか。

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春に色づく僕の文字 音海澄 @otomisumi66

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