第16話 エイリッヒとの再会

「よぉ、報告書を持ってきたぜ」

軽く、今までのことがなかったかのようにノックと共に入室してきたのはエイリッヒだった。

「エイリッヒ」

「報告書、ここに置くな。あと、話がある」

机の上に書類を置いて勝手にソファに座り話を進める。

「話?」

ルーベルトは何も言わずにエイリッヒを眺めている。

僕が対応するしかない。

「南できな臭い噂話がある」

「噂話?」

ソファの対面に座り話を進める。

ここから南というとザファエル伯爵の領地だ。

「ザファエル伯爵のところでなにか?」

「おいおい、俺が知れてお前が疎いなんて珍しいな。前々からあったザファエル伯爵の人身売買がとうとうホンモノに目を付けられて一悶着ありそうだって話だよ」

「人身売買。ホンモノ。一悶着」

僕は目をぱちくりさせた。

「ああ、満月の晩に行われるザファエル伯爵邸の地下で行われる人間オークション。今までは小銭稼ぎ程度にやっていたからお目溢しをされていたのに、随分と羽振り良くやり始めたからその筋の連中がザファエル伯爵にやらかすって話だよ。まあ、そりゃあ自分達の領分を、泥水啜って生きてきた連中の仕事を綺麗なお召し物を着たお貴族様がやり始めて軌道に乗ったら面白くないよな」

そこでにやりとエイリッヒは笑った。

「それで、悪逆貴族のルーベルト・トランドラッド様はどうするかと思ってさ」

「どうするって」

「ザファエル伯爵の領地の王家から派遣されている兵はすっかり買収済みでザファエル伯爵におべっかを使う始末だ。あそこはもう腐り切っている」

『そんなことは知っている。それを今更言いにきたということは、動きがあるのか?』

「そ、そんなことは知っている。それを今更言いにきたということは、動きがあるのか?」

ようやくルーベルトが喋ったけれど、僕にはさっぱりだ。

エイリッヒは頷いた。

「ああ、ザファエル伯爵の領地で悪さをしていた連中が数名の貧民をトランドラッド領から買い取った」

「なんだって!?」

『騒ぐな。もう把握済みだ』

嘘だよ、僕、そんな報告書なんて読んでいない。

『貴様に体を取られる前から追っている事実だ』

そんな重要なことを見逃していたなんて!

それなら僕が分からなくても仕方がない。それで、ルーベルトは何か策があるの?

「ルーベルト?」

黙った僕にエイリッヒが声を掛けてきた。

『我が領地の領民が賭けられるオークションに参加して奪還する』

「えっ!?」

「ルーベルト?どうしたんだよ」

とうとうエイリッヒに心配されてしまった。

「我が領地の領民が賭けられるオークションに参加して奪還する」

エイリッヒはポカンとしたあと大笑いした。

「王の兵すら敵の敵中のど真ん中でそんなことやらかそうってのか?勝ち目はあるのか?」

『ザファエル伯爵の領地の悪党どもと手を組む』

「ザファエル伯爵の領地の悪党共と手を組む」

えっ、それってうちの領民を攫った奴らじゃない?そんなのと手を組んで平気なの?

『もう王家にはことの顛末は報告済みだ。一時、悪党共と手を組んだふりをし、オークションに参加し潜み王家直属の兵と共に、ザファエル伯爵の悪事を悪党共と一斉に検挙する』

いつの間にそんなことしていたんだよ、ルーベルト。

『お前が寝惚けながら書いた手紙で奏上した。仔細はこれから王家に赴き詰めていくところだ』

…僕、寝過ぎている?

『ああ』

ルーベルトの言葉に消沈する。

「なにか分からないが策があるんだな?」

エイリッヒが確認するように尋ねる。

『ああ。そのためにはお前の力も必要だ』

「ああ。そのためにはお前の力も必要だ」

その言葉に、今度はエイリッヒが瞬きをした。

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