第215話 殲滅兵器
アウロラさん、パンドラ、俺の三人はパンドラが作った空飛ぶ乗り物に乗って魔都を目指している。
メイド号改とやらは、かなり上空で飛ぶことはできるが、魔力を消費するので今は低空飛行。砂漠を砂を巻き上げながら、猛スピードで移動している。
初めて乗ったアウロラさんは目を見開いている。そしてアウロラさんがパンドラを称賛すると、パンドラもまんざらでもない顔でご機嫌のようだ。
他にもパンドラと同タイプの兵器がメイドの恰好をして色々な場所で働いているということもあって、アウロラさんの称賛が留まるところを知らない。
「マスターよりもアウロラ様に忠誠を誓います」
「別にいいけど、俺の前で言う必要があった?」
「いえ、私ではパンドラさんを扱いきれません。クロスさんに忠誠を誓った方がいいでしょう」
「俺にも扱いきれてません。俺に許可を取らずに色々やってますし」
メイガスさん達と遺跡を巡っていた時に見つけた同タイプのパンドラたちを戦地に送ったり、メイド服を着せたりとやりたい放題だと思う。
「マスターの望みを先回りして叶える。それが完璧メイド」
「なるほど、つまりクロスさんがメイド王国を作りたいと」
「風評被害が上限突破してるんですけど?」
「メイド好きなのはいいんですけど、私以外のメイドでイチャイチャしてたんですよ。無期懲役レベル」
「ああ、純粋な吸血鬼のパトリシアさんですか。神魔滅殺案件ですね」
「風評被害で二次被害出すのやめてくれるかな?」
なんだろう。アウロラさんは目を覚ましたら性格が少し変わったような気がする。俺にとっては三年以上前なんだが、アウロラさん本人としては数日前の話なのに。
まだテンションが高いのだろうか。本人が楽しそうだからいいんだけど、ちょっと心配だ。
『心配は不要ですよ。単純に嬉しいだけでしょう』
『いきなりどうした?』
『アウロラのことです。クロス様に命を救われただけでなく、種族の垣根を超えて皆と共に戦っている。彼女の夢というか、願いが叶っているような状況です。それが嬉しいのでしょう』
『そういうものか』
『そういうものです。死んだと思った、でも目を覚ましたら自分の願いが叶っている。そして今日、普通に目を覚まして夢じゃないことが分かった。そういう理由でテンションが高いだけですよ』
『なるほどね』
スキルは相変わらずアウロラさんには良い感情がないのだろう。塩対応とまでは言わないが、興味なさげというか、どうでもいいと思っている気がする。元は同じ魂でも、知識や経験が違うと色々と異なるんだろうな。その割にはよく分かっている感じだけど。
そのアウロラさんが真面目な顔で運転中のパンドラを見つめた。
「パンドラさん、真面目な話をしてもいいですか?」
「もちろんです。何の話でしょう?」
「局地型殲滅兵器バルムンクのことについて知っていることを全部教えてください」
「つまりアウロラ様のことですね?」
「クロスさんから聞いてはいるのですが、改めて確認しておきたいと思いまして」
それは俺も聞いてみたい。もしかしたら俺が知らないことも知っている可能性がある。できれば古代人のミナークにも聞いてみたいが、それはまた次の機会にしよう。
「なら知っている情報とはいくつか重複するかもしれませんが、私が知っている限り教えましょう」
「よろしくお願いします」
パンドラは運転しながら頷く。
「局地型殲滅兵器バルムンクは、現在の魔王――当時のバランサーを倒すために作られた兵器です」
「はい」
「これは後から聞いた話ですが、当時、魔法王国ではバランサーが世界を滅ぼすという予言――正確にはちょっと違いますが、それを回避するために倒そうとしていました。その力はすさまじく、千年以上もの間、勝負がつかなかったという話です」
世界を滅ぼすという予言。ただし、破壊する者は「神も魔も滅する兵器」。それをバランサーが作り出すという予言だ。それはアウロラさんのことになる。
しかもその予言、一度目の世界の状況なので、予言は的中するわけだ。未来予知を持っているヴァーミリオンが予知した内容かとも思ったんだけど、ヴァーミリオンがいつ頃からいる奴なのか分かってない。少なくとも千年以上は生きているのは間違いないんだろうけど、パトリシアさんが古代魔法王国があったころからいるっぽいからアイツもそれくらい前にいた可能性もある。
『ヴァーミリオンの未来予知によるものではありませんよ』
『え? そうなのか?』
『調べられないと言ったじゃないですか。ヴァーミリオンが予知した未来なら調べようとすれば簡単にわかります』
『そういえばそんなこと言ってたな』
その予言はスキルでもいつ頃からあるか分からないってことだから、迷宮研究家のストロムさんに調査を依頼したんだった。つまりヴァーミリオンは全く関係ないわけだ。
おっと、パンドラが話を続けている。
「その後、バランサー自体が神の遺産と呼ばれるものだと分かりました。倒すためには同じ神の力でないと無理だと言うことも分かりましたので、各地に残されている神の遺産を手に入れ、その研究、製作を開始しました」
「研究と製作ですか」
「はい。シェラという四天王がいた遺跡を覚えていますか? あそこに槍があったと思いますが、ああいう感じで遺産を分析し、同じものを作るという研究ですね」
たしかにシェラがいた古代遺跡に槍があった。あれはもうスキルが吸収したけど、魔王を殺せるとかシェラが言っていたような気がする。
「ですが、研究は途中で頓挫といいますか、同じものは絶対に作れないという結果に至りました。作れても劣化版でしかないと言うことです」
「話はわかりましたが、私とどんな関係があるのでしょう?」
「作れないことが分かったので、神の遺産そのものを一つの兵器に詰め込みました。それが局地型殲滅兵器バルムンク――アウロラ様です」
「私に神の遺産が……」
「はい、おそらくそれで神魔滅殺という攻撃が可能になったと推測しています」
「なるほど、神魔滅殺は複数の遺産による力ということですか」
「あくまで推測です。ただ、詰め込み過ぎた結果、バルムンクは魔力の暴走を起こして周辺一帯を焦土に変えてしまいました」
魔力の暴走か。魔力が安定しなかったと言う話だけど、スキルの話だとバルムンクに異世界からの魂が乗り移ったから、という説もある。どの時点で乗り移ったのかは分からないが、前世の記憶を継承して兵器になっていたとしたら、驚くを通り越して本当の地獄だと思うかもしれない。
「私が今の商業都市周辺を破壊してしまったわけですね……」
「それはちょっと解釈が違います」
「解釈が違う?」
「はい。魔法王国が滅んだのはアウロラ様のせいではありません。当時の生き残りであるミナーク様はアウロラ様に謝罪したいと言ってました」
「シェルターにいたという人ですね。ですが、私に謝罪したいと?」
「アウロラ様が暴走したのは当時の軍人や研究者がやったことだと言ってました。アウロラ様が自分の意思でやったわけではなく、古代魔法王国の人達がやったことなので、謝りたいと言ってましたね」
「そうですか……しかし、当事者でもないミナークさんに謝られても困りますね」
「確かに。では、謝罪してきたらこう言ってください。メイドとして仕えろ、と」
「不真面目が早いよ。真面目にやれ、真面目に」
「私は常に真面目ですが?」
パンドラがメイドの話をしているときは真面目じゃない――いや、真面目なのか?
「ああ、それとストロム様がミナーク様にこう助言してました」
「ストロムさんが?」
「はい、アウロラ様に謝罪するなら『クロスさんとくっつけるのに協力すると言えば大丈夫』と言ってましたね」
「許します」
「何言ってんだ、あの人!? というか、アウロラさんも何言ってんだ」
「マスター相手には『カラアゲとビールを奢って謝れば大丈夫よ』と言ってました」
「声真似うまいね。じゃなくて、確かに許すけどさ……いや、問題はそこじゃない」
問題が多すぎて困る。そういうのはもっと落ち着いてから話し合うべきだと思う。俺的には。
なんだ? アウロラさんが俺を見ているけど。
「クロスさんが望むならメイド服を着るのもやぶさかではありません」
「三次被害まで発生した」
「認めちまえよ、マスター。楽になるぜ……!」
アウロラさんにはもう少し寝ててもらった方が良かったかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます