第214話 魔王城の宝物庫
アウロラさんを治した翌日、パンドラがここまで来てくれるとのことなので、朝食を食べながら待っている。
昨日は夜更かしをしたのだが、結局組織名はクロス魔王軍のままで変更にいたらなかった。物理的にも勝てないが、口でも勝てないというわけだ。あれだけ頑張って説得しようとしたのに意味がなかった。
それに夜更かしの理由は他にもある。アウロラさんが眠くないということでこの三年間、細かいことまで説明してほしいと頼まれたからだ。治ったばかりなので無理をしないようにと言ったが、聞いてくれないので色々と話をした。それこそどうでもいいことまで。
もう三年なのか、たった三年なのか。体の状態を維持して眠っていたアウロラさんにとってはつい前日のことだ。悲観している感じではないが、目が覚めたら三年後というのはどう思えただろう。昨日は眠かったから聞かなかったが、もしかしたら無理しているのだろうか
「アウロラさん、ショックじゃないですか?」
「なにがでしょうか?」
「意識が戻ったら三年経っていたなんて嫌でしょう?」
「……ヴァーミリオンから攻撃を受けたとき、私は助からないと思いました」
あの時、アウロラさんは俺をかばって心臓を貫かれた。助からないと思ったのに神魔滅殺を使ってくれたのか。たとえ自分が死んでも、皆を助けようとしてくれたわけだ。そのおかげでヴァーミリオンを弱体化できた。あのまま戦っていたら俺は負けていただろうな。
「ですが、クロスさん、私は三年という時間を使ってまだ生きることができる。ショックよりも嬉しさの方が大きいです」
「……それならよかったです」
「はい、クロスさんや皆さんに感謝ですね」
どちらかといえば、俺たちがアウロラさんに助けられたようなもんだけど。
「ただ、愛読書の続巻をリアルタイムで読めなかったのはショックです……ちなみにネタバレしたら神魔滅殺を放ちます」
「俺は読んでないので大丈夫ですよ。フランさんにも言っておきます」
「フランと語り合いたいので、会う前に読んでおかないと駄目ですね」
アウロラさんって恋愛小説を読むんだよな。フランさんと話が合うみたいだし、落ち着いたらゆっくり読んでもらおう。
「ところでクロスさんはこれからどうするのですか?」
「今後の予定ということですね?」
「はい。おそらく、アギとの決着をつけて、その後ヴァーミリオンを倒すという形だと思いますが」
頷くことでアウロラさんの言葉を肯定する。
簡単にいえばそうなんだけど、それができるかどうかはまた別だ。それに今の俺は金貨三億枚くらいしか持っていない。
相当なお金を持っているのは間違いないが、アギやヴァーミリオンと戦うためにはもっと金が必要だ。トレーディとの戦いでもこれ以上の金を使っているわけだし。
とりあえずアギと戦わないと。逃げたりしたら、あの野郎は聖国北の砦を襲う。アイツ、約束を破ったりすると怒るだろうからな。しかし、満月の夜に吸血鬼の狼男と戦うなんて無茶な約束をしたもんだ。
満月での戦いならアイツの再生能力を何とかしないと勝ち目がない。その対策にスキルの力を使う必要があるだろう。
『アギの再生能力――満月の夜だとどれくらいのお金が必要になる?』
『金貨十億枚くらいですね』
『全然足りない。嘘だと言ってくれ』
『本当です。とはいえ、それは相手が万全の場合です。再生能力があったとしても弱らせればもう少し安く済みます。それでも金貨五億枚くらいは欲しいところですね』
五億枚。満月まではまだ数日残っているけど、いきなりそんなお金があるとは思えないんだが。
「クロスさん、どうかされましたか?」
「アギと戦うためにはもっとお金が必要だと思いまして」
「……私のせいですね。無茶なことばかりさせてしまって申し訳ないです」
「俺や皆が自分の意思でやったことです。申し訳ないと思うくらいなら、ありがとうと言ってください」
アウロラさんは驚いた顔になったが、すぐに微笑んだ。
「そうですね、ありがとうございます。実はお金の件で少々心当たりが」
「お金があると?」
「魔王城の宝物庫ならあるかもしれません。宝物庫を開けられるのは魔王だけでしたので中身は分かりませんが」
「なるほど、可能性はありますね。でも、魔王しか開けられない?」
「原理はわかりません。ただ、クロスさんのスキルなら鍵を開けることも可能かと」
「値段によりますが可能でしょうね」
そうか、魔王城の宝物庫か。そういうのがあることすら知らなかったから、そこで金目の物を奪うという考えがなかった。テデムやワンナをアギと会わせたいし、魔都に寄って、二人を連れて聖国の方へ戻ろう。
……パンドラの乗り物でヴァーミリオンの領地を突っ切るか?
魔都へ向かい、宝物庫を開ける。テデムとワンナを連れてヴァーミリオンの領地を突っ切り、聖国北の砦に戻る。正確な日数は分からないが、次の満月まではまだ時間がある。そこまで急ぐ必要はないが最短ルートを通った方が色々と準備ができる。
アギの配下だったテデムとワンナにもアギのことは聞いておきたい。弱点とかクセとか長く部下だった奴らなら色々知っていると思う。さすがに吸血鬼となったアギの配下になるってことはないだろう。どう考えてもアギを倒してやってくれって話になるはず。
「アウロラさん、今後の予定ですが――」
「マスター、来ました。そう『いつも心にパンドラを』がキャッチフレーズのパンドラです」
いきなり扉が開いたと思ったらテンションがおかしいパンドラがいた。なんで派手に登場しようとするのだろうか。そのパンドラはアウロラさんを見ると、完璧とも言える動きで頭を下げた。
「アウロラ様、お久しぶりです。完璧メイドのパンドラです」
「お久しぶりです、パンドラさん。ご活躍はクロスさんから聞いています。それはもう素晴らしい働きだったとか。ありがとうございます、おかげで戻ってくることができました」
「よせやい。アルティメットマキシマムメイドなんてほめ過ぎです」
ちょっと違うけど前にも聞いたな、そのボケのような本気のネタ。
なんて返すのかと思ってアウロラさんを見ると、アウロラさんは指を絡めて肘をテーブルに置き、真剣な顔になった。
「それでも足りないと思います。さらにオーバーロードを付けてみては?」
「アウロラ様、ボケにボケを重なるのは無粋……!」
「君達ちょっと落ち着いて。あと、アウロラさんは真面目に言ってるからボケじゃないぞ。というかパンドラもボケじゃなくて本気で言ってるよな?」
パンドラ一人を相手にする時よりも疲れる気がするのは気のせいだろうか。
パンドラはなぜか右足、左足とアキレス腱を伸ばしてから深呼吸をした。そして俺とアウロラさんを交互に見る。
「どうやらアウロラ様が治ったのでテンションが上がってしまったようです」
「はい、私もこれまでにないほどテンションが上がっています」
その調子でアギとかヴァーミリオンを倒してくれないかな……。
それはともかくちょうどよかった。今後の予定を説明しておこう。
「ちょっとは落ち着いた? なら、アウロラさんもパンドラも聞いてほしい。まず、今後の予定だけど魔都に行こうと思う。宝物庫を開けてお金を得ることと、テデムとワンナをアギとの戦いの場所へ連れて行くつもりなんだけど、どうかな?」
「問題ないと思います」
「メイド号改もそれくらいなら余裕で運べます」
「よかった。それとヴァーミリオンの領地を突っ切って聖国北の砦まで行きたいんだけど、それも大丈夫か?」
「愚問」
「問題が無いようで何より。ならさっそく向かおう。夜には魔都に着くよな?」
「もちろんです、マスター。このアルティメットオーバーロードマキシマムメイドのパンドラに任せるがいい」
「なげぇよ。というか、さっそく使うなよ」
「アウロラ様、これです。私が求めているのはこの流れ。光だけでも闇だけでもダメなように、ボケだけではだめなのです。そこにツッコミが必要なんです。万物はバランスで成り立っていると理解してください」
「なるほど、勉強になります」
本当にテンション高いな。アウロラさんは素だろうけど。
でも、まあいいか。これまでも明るい話題はいくつもあった。それでもアウロラさんのことがあって心の底から喜べたと言う人は少ないと思う。俺もその一人だ。でも、もう何の憂いもない。テンションが上がるのも自然の摂理だ。
後はヴァーミリオンを討てば以前のような状況に戻るだろう。まだまだ準備は必要だが、この先、俺が負けるなんてボケをしないようにしっかりやっていかないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます