第207話 聖剣の夢
聖国側へやってきた教皇と聖騎士団のゾンビたちを弔った。
遺品はすべて亜空間にいれておいたので、あとで今の聖騎士団の団長に渡す予定だ。ただ、その前に古代遺跡のトンネルを塞がなくてはならない。
想像していた通り、教皇が持っていたペンダントが鍵になっているようで、魔力を通すと遺跡の入り口を開閉することができた。ペンダントを使って魔国側と聖国側の入り口を閉めておいたので問題はないだろう。
さすがにこれから砦に戻るのは厳しいので、今日は製材所の村に泊まることにした。遠隔通話用の魔道具で報告はしてあるから問題はない。夜が明けたら聖騎士たちの遺品を持っていくと言ったら、団長さんが顔にはださずとも喜んでいたとグレッグは言ってたな。
とりあえずやることは終わった。あとはヴォルトと情報共有をすれば今日はもう休める。交代で砦を守っている皆には悪いが、寝させてもらおう。
村の村長さんがヴォルトたちに貸していた家を俺も借りられることになった。村に被害はあったものの、人的被害は全くなかったようなので感謝しているとのことだ。深夜であるにもかかわらず、簡単な料理も提供してくれたこともありがたいね。
ひと段落すると、サンディアはもう眠いとベッドに入り込んで寝てしまった。戦ってはいなかったが、村人を助けるために精霊と走り回っていたからかなり疲れたのだろう。
犬の精霊は寝る必要がないのでサンディアを守るように座っている。そこへオリガが近づくと何も言わずに背中をなでた。モフモフという撫で方ではなく、モッモッモッモッモッモッという高速なでなでなので、精霊はちょっと嫌そうだ。
可愛いもの好きのオリガにとってはたまらないのだろうが、そっちは放っておこう。俺としてもできるだけ早めに情報共有をして寝たい。
「それでヴォルトはなんでこの村にいたんだ?」
「聖国に入り込んだ吸血鬼を倒したから戦場へ向かおうと思ったんだが、ストロムって学者がこの辺に遺跡があるからちょっと見てきてとメイガス経由で連絡を貰ったんだよ」
「遺跡……ああ、そういうことか」
「俺、ストロムって奴に会ったことないんだけど、普通に依頼されたんだが……?」
「そういえば面識がないのか。まあ、諦めろ、あの人は俺にもそんな感じだ」
メイガスさんはともかく、ストロムさんはずっと商業都市にいたからな。メイガスさんがお金稼ぎのためにストロムさんを雇った感じになったから、大半の人はストロムさんに面識がないのかも。
遺跡のことになると周りが見えなくなる感じの人だからな。遺跡のことがなくてもそんな感じではあるが。
でも、遺跡か。あのトンネルのことだろうけど、魔国側に行く以外になにかあるだろうか。バランサーとの戦いのために作られた遺跡だからあまり期待はできない感じだけど。
そういえば、長いトンネルにいくつか横道があった。お金があるとは思えないが、武器庫のような所があるかもしれない。そういうのが見つかればありがたいけど。
「それでクロス達はどうしてここに?」
「ゾンビたちを追ってきたんだよ。トンネルがあってな、それが遺跡なわけだ」
「ああ、ネックレスが鍵になってるとか言ってた件か。さっきちょっといなかったのは閉じてきたんだな」
「そうそう。それとさっきのゾンビだが――」
ヴォルトに、さっきのゾンビは行方不明になっていた教皇や聖騎士団でトンネルを使って聖国に攻め込んだという件を説明した。ヴォルトは「そうか」としか言わなかったが、ちょっと嬉しそうだ。死霊魔法から解放させることができたからだろう。
この話はこれで終わりでいいが、侵入した吸血鬼の方はもう大丈夫なのだろうか。
「追ってた吸血鬼の方はもう大丈夫なんだよな?」
「おう、しっかり倒しておいた」
「どんな理由でこっちに来てたとかは分かったのか?」
「なんか指令書みたいなものを持ってたぞ」
ヴォルトはそういうと、亜空間から紙を取り出して渡してくれた。
読むとどうやら聖国にある小さな村などを襲って仲間を増やせという内容だ。国の上層部を狙っている吸血鬼が何人かいたが、今度は小さな村を襲って不死者を増やすという方法なのだろう。
これだけじゃ判断は難しいが、やはりヴァーミリオン軍も焦っているのだろうな。この指令書はもっと前に出されたものだろうけど、パトリシアという超強力な吸血鬼がこちらの味方みたいになったこともある。
アギみたいな強力な不死者たちはまだいるだろうが、かなり追い込んだと思う。すくなくともここから逆転の一手があるとは思えない。可能性があるとすれば、ヴァーミリオン自身が出てくることくらいだろうけど、それはなさそうなんだよな。
『はい、ありませんね。アレは遺跡の中に閉じこもっています。未来予知のスキルを失って味方すら信じていませんし』
『ずいぶんと落ちぶれたな』
『アレが余裕だったのは未来予知によるもので、自分の強さは信じていないのです』
『そうなのか?』
『どれだけ強くなっても最終的にはクロス様がその上を行くので、信じられなかったのでしょうね』
『ならなんでアギとの戦闘中に襲ってきたんだ?』
『あの時点ならクロス様に勝てる可能性があると思ったんでしょう。未来予知を信じて最初から最後までクロス様を放っておけば安泰だったのに、余計な欲を出した結果がこれです。もしくは自分が期待していない未来だけは信じなかったということでしょう。愚かすぎて笑えます』
『えーと、俺はスキルを信じてるぞ』
『別にそういう意味で言ったわけではありません』
スキルを信じてないから落ちぶれたみたいにとれるんだけど。でも、スキルを信じるっていうのは重要だろうな。今までも信じてはいたけど、より信じるべきだろう。
裏で色々やっていそうな感じではあるが、それも俺のためってことらしいからな。たまに俺を優先しすぎて他を犠牲にしようとするのは困るけど。
あ、そうだ。ヴァーミリオンとの戦いで聖剣を使いたいんだった。
「ヴァーミリオンの奴を倒しに行くときに聖剣を借りたいんだけどいいか?」
「いいぞ」
「軽! ちょっと待ちなさいよ! もうちょっとなんかあるでしょ! 嫌そうにするとか、大事な相棒は任せられないとか! それに私はそんなに軽い女じゃないわよ! というか、そういうのは私に聞きなさいよ!」
「いや、もう夜遅いからさ」
「だから何よ!」
「お前は寝なくてもいいだろうけど、俺たちは寝ないと駄目なんだよ。後でイケメンを紹介するからそれでいいってことにしてくれ」
「この三年でヴォルト以上のイケメンに会ってないのよね……魔王くらいのイケメンなら許せるけど、いる?」
「……いないかな」
「夢も希望もないわねー」
聖剣の夢や希望ってなんだよと思うが、聞きたいとは思わない。
しかし、誰だか知らないが、なんで聖剣に転生するかな。というか、どういうシステムなんだよ。上位の世界から魂が落ちてきたのは分かるけど、聖剣に転生させる必要はないと思うんだが。いや、転生じゃなくて憑依? どっちでもいいけど。
「あ、そうだ、夢で思い出したんだけど、神刀の時みたいに私がパワーアップできる物をもってない?」
「持ってないけど、なんで?」
「私がパワーアップしたらいいでしょうが!」
「そりゃそうだけど」
「頑張れば人型になれるかもしれないでしょ! そういう創作物があったって知ってるわよ! もしかしたら絶世の美女になるかもしれない! それが私の夢!」
「そうかもしれないが人型にはならないでくれ」
「なんでそんなに切実そうな顔をするわけ?」
「切実だからだ」
剣の状態でも色々とあれなのに、人型になったら大変なことになりそうだ。強化されるのはともかく、自ら動けるようになるのは勘弁してもらいたい。俺がやっていたソシャゲでそういう描写はなかったはずだが、ストーリースキップ勢だからよく分からん……いや、待て。俺にはスキルがある。
『聖剣って頑張ると人型になれるのか?』
『なれますね。かなり頑張れば、ですけど』
『絶対に内緒な。なりそうだったら課金してでも止めるぞ』
『それはそれでどうかと思いますが』
世の中のイケメンたちを守るためにも俺が何とか阻止しよう……眠いから馬鹿なことばっかり考えるんだな。情報共有はしたし、そろそろ寝るか。
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